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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
もう一つの異世界召喚

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これまでの軌跡



 ついにガニムは、ケンヤと対話の姿勢を見せる。先ほどまで見せていた殺意は、今は引っ込められて……落ち着いた様子なのが、ケンヤにもわかる。


 あまり、ガルヴェーブの身内に手荒な真似はしたくない。いくら魔力による金縛りであっても、やりたくないのがケンヤの本音だ。ほっと一息。


 ガニムにとって、生まれて初めて出会う人間……改めて、その姿を見つめる。肌色の肌、黒色の髪、ひ弱とはいえない程度の体格……二足歩行で、二本腕と二本足。なんとも、平凡と言えば平凡な見た目だ。


 驚くことだが聞いた話では、人間というのは髪の色などの差異はあれど、魔族のように大きく異なる個体はいないらしい。人里に降りれば、同じ見た目の種類がたくさんいるのだと。


 不思議だ。見た目で判断することがすべてではないとはいえ、よくもそれで個人個人の区別がつくものだ。



「さて……なにから、話そうか」



 と、話す内容を整理しているであろう目の前の人間……彼も、人里からやって来たのだろう。どういう経緯があって、そしてどういう過程を経て姉と共にいるのか。


 気になることを挙げれば、きりがない。まずは紡がれる言葉を待ってから……



「あ、自己紹介が、まだだったな。俺は、ケンヤ……異世界から来た、人間だ」


「俺は、ガニムだ。……そうか、異世界の……異世界?」



 互いにまずは自己紹介……といったところで、早速聞きなれない言葉が耳に届いた。今、この人間……ケンヤと名乗った人物は、なんと言ったのか。異世界と、そう聞こえたが。


 異世界……噂で、聞いたことはある。この世界とは別に、複数個の世界があるのだと。そう、知識として知ってはいるのだが……それを本気で信じてなど、いなかった。


 それが、まさかの異世界から来たなどと。冗談を言っているのか? 事実、異世界から召喚されたケンヤだが、その事実を知らないガニムに即座に信じろというのは、無理な話だろう。



「あ、そうなんだ。俺は、ガルヴェーブに、この世界に、召喚された」



 異世界の人間であることを、あっさりと認め……さらには、ガニムの姉であるガルヴェーブからこの世界に召喚されたのだと、語る。


 それが本当ならば……いや、本当だろう。ここで、そんなぶっ飛んだ嘘をつく必要はない。嘘ならば、もっと現実的な嘘をうくだろう。


 なるほど、それで……姉とケンヤの関係が、繋がった。姉が、異世界の人間を召喚できるほどの魔力を持っていたことにも驚きだが……それは、今は置いておこう。


 そう聞いてみてみれば、ケンヤがガルヴェーブを背負っているその仕草の一つ一つが、ガルヴェーブを気遣っているように思える。彼女を支える手も、体をなるべく揺らさないように姿勢を正して。


 さっきガニムが仕掛けたときだって、ケンヤは攻撃が当たらないよう、避けるのみに徹していた。あれがケンヤの余裕の表れではなく、ガルヴェーブへの気遣いの結果だとしたら……


 ガニムはガルヴェーブを巻き込まないよう、大規模な攻撃は行わなかった。だが、ガルヴェーブのことをちゃんと考えていたのは、ケンヤも同じだったのだ。



「……立ったままじゃ、キツいだろ。適当に座れよ」



 これから、長い話になる……そう悟ったガニムは、口を開く。座れよとは言ってもここは外で、他には誰もいないのだが。


 うなずいて、ケンヤはガルヴェーブをそっと下ろして……優しく、壁にもたれさせる形で座らせる。ゆっくりと、丁寧に……しかし、それだけでもガルヴェーブの体は、小さい箇所から崩れていく。


 ケンヤは、ガニムの隣へと座る。こうして、隣り合って座ることができたのだ……お互い、まだ完全に気は許してないにしても、今は戦闘の意思はない。



「……」


「……」



 しばらくの沈黙。一旦会話が切れたことによりお互い、妙な気まずさを感じていた。


 ……が、話す内容は決まっている。いつまでも黙っているわけにもいかない。だからケンヤは、ゆっくりと口を開く。



「俺が、この世界に召喚されて……ガルヴェーブと出会って……そこから、すべては始まったんだ」



 この世界に召喚され、経験したいろいろなことを、思い出す。それを、一つ一つ話していく。


 訳もわからない世界で、ガルヴェーブに案内され城に行ったこと。城でたくさんの魔族と会ったこと。魔族を滅ぼしに来るという勇者と戦うため、次期魔王として訓練することになったこと。魔族と良好な関係を築いていたこと。ガルヴェーブからマド一族について打ち明けられたこと。そして……



「ガルヴェーブのことが、バレて……城から逃げることに、なったんだ」



 バレて、という言葉を聞いた瞬間、ガニムの肩が跳ねる。それは、自分にも同じ経験があるということだろうか。


 それから、城を出て……二人でひっそりと、暮らしていった。場所を転々とし、一つの場所に居すぎないように注意しながら。それは、うまくいっていた……はずだった。


 しかし、ある時ガルヴェーブがマド一族であることがバレ、村の魔族たちにリンチを受け……殺されてしまった。その光景を見たケンヤは、前後の記憶が曖昧だ。


 その後、ガルヴェーブ本人から聞いた禁術を使い、ガルヴェーブを生き返らせるために……情報を得るために、まずは城を目指し……城では結局情報を得ることはできなかったため、城をあとにして、現在に至る。



「……禁術、か」



 話を聞き終えたガニムが、一つの単語を噛み締める。その単語も、聞いたことがある。だが、それもうわさ程度のものだと思っていた。


 だが、同じくうわさだと思っていた異世界の人間が、現にここにいる。それは本当にあるのかもしれない。なにより、死んでしまった姉を、生き返らせる術があるとするならば……



「……俺にも、協力させてくれ」



 無意識のうちに、そう、口にしていた。

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