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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
もう一つの異世界召喚

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平行線の話



 悪意を持った言葉の波は、城中へと広がっていく。信じられないくらいのスピードで、信じられないくらいの悪態が。


 ケンヤは、この光景に覚えがある。元の世界にいたとき……テレビのニュースでも、ネットでも、こういうことはある。報道されたこと、噂程度のつぶやかれたことが、まるで真実のように世界を覆い尽くしていく。


 真実がなにかなんて、もはや関係ない。大多数がそうだと言えば、そうなるのだ。それは、元の世界でもこの世界でも、同じことらしい。


 そして悪意は……たった一人を、痛め付ける。



「殺せ」「消えろ」「恥の一族」「滅べ」「なんで生きてるんだ」「苦しんで死ね」「もっと痛め付けろ」「すぐに殺すのはもったいない」「あの女はなんかあると思ってた」「気持ち悪い」



 ……聞いたことのないほどの悪意が、あちこちから聞こえる。


 吐き気がするほどの、それらは……ケンヤの中にもスッと入っていく。自分が言われているわけではない。それでも……まるで自分に対してのもののように、積まれていく。


 同時に湧いてくるのは……怒りだ。



「お前ら……なんなんだよ。ルヴと仲良い奴も、いるんじゃないのかよ」



 怒りに、肩が震える。絞り出すようなその声は、しかし誰に聞こえることもない。


 庭に倒れていたガルヴェーブは、起き上がり……周囲を、見回している。その顔は、困惑が表情に露になっていて……それ以上に、恐怖があった。


 彼女のあんな顔、見たことがない。



「そうだろう、許せないよな! この女は、私たちを騙して、何食わぬ顔で笑っていやがったんだ! あんなことをした一族でありながら!」


「……」



 煽る、煽る、煽る……サーズの煽りは止まらない。いや、もはや彼女が煽らなくても、周囲の悪意は止まらない。


 その火を、さらに燃え上がらせる……身ぶり手振りで、激しく。



「……もう、やめて……ください……」


「!」



 ケンヤには、庭にいるガルヴェーブの声は聞こえない……はずだった。しかもそれは、震えるような、小さな声だったはずだ。それでも、確かに耳に届いた。


 もうやめてと。願うように口から絞り出す、彼女の声が。



「そら、そんなとこで丸まってないで……!」


「いっ……!」



 サーズは、ガルヴェーブの頭を掴み……開けた場所へと、ぶん投げる。そこには、いつの間にか城の中から出てきていた魔族が、何人かいて……


 ……それからは、見るも無惨な光景だった。何人もの魔族がガルヴェーブを囲み、袋叩き。それを見ても、止めるどころか増えるヤジ。物を投げつける者もいる。


 ガルヴェーブも、抵抗しない。彼女ならば、あんなやられっぱなしではいないはずだ……なのに、なにもしないということは……やはり、恐怖に、呑まれてしまっている。


 それが、さらにケンヤの怒りを加速させていく……



「やめろぉ!」



 気づけば、窓から飛び降りていた。ここから落ちたらただでは済まない……その一点から、飛び降りるのを躊躇していた。それが、嘘のように。


 着地に失敗したら、とか俺が出ていっても、とか……そういうマイナスなことは、一切気にならなかった。ただ、ガルヴェーブがあんな目にあっているのを、見ていられなかった……それだけだ。


 ケンヤの声が聞こえた者が、どれだけいただろう。ガルヴェーブへと向けられていた視線が、ケンヤに向く頃には……ガルヴェーブを袋叩きにしていた内の一人を、殴り飛ばした後だった。



「っ……!」


「やぁ、ケンヤ殿……」



 突然の、乱入者。それは今この場で、もっとも異端な存在……いや、異端というには語弊があるかもしれないが、この世界に存在することのなかった者という意味として、異端ではある。


 異端な存在、異端な一族……それが、ここにいる二人を指すものだ。



「お前ら、なにしてんだ……」



 だがケンヤにとって、異端であろうかなんだろうが……関係のないことだ。



「なにって……やぁ、異端な一族を粛清してるんすよ。黙って見てて……」


「ふざけるな! 一族がどうのって、ルヴが……ガルヴェーブがなんかしたわけじゃないだろうが!」



 この叫びに、いったいどれだけの効果があるのかわからない。それでも、ケンヤは叫ばずには、いられなかった。



「ガルヴェーブはなにもしてない。だから……」


「許せ、と? ……やぁ、それは無理でしょケンヤ殿。この世界の人間ですらないあんたには聞いただけじゃわからないかもしれないが……こいつらの一族がやってきたことは、そう簡単に許せるもんじゃない。いや、絶対に許されるものじゃない」


「だから、それはガルヴェーブにはなんの関係も……」


「やぁ、わかんないかなぁ……こいつがマドの血を引いてる。それだけで、こいつは生きてる価値はないんすよ」



 ……ダメだ、話は平行線。ケンヤの話は聞き入れられない。いや、それは逆も然りだ。どちらが正しいのかなんて……この場で答えは出ない。


 答えがあるとしたら、それは……



「わかんないなら、そこで見ててくださいよ。しょせん、別の世界の人間には、私らの気持ちは理解できないっすよ」


「! な、おい!」



 いつの間にか、ケンヤの背後に回り込んでいた魔族が、ケンヤを羽交い締めにする。体格も力も、ケンヤより一回り以上上の魔族だ……ケンヤが暴れる程度では、びくともしない。


 それを見て、サーズは……サーズたちは再び、ガルヴェーブへと注意を戻していく。


 ケンヤが飛び出した結果、なにが止まるわけでもなく……それどころか、もっと近くで、ガルヴェーブが痛め付けられる光景を見ることになる。



「ぐっ……!」


「おい、やめろ……やめろ、おい!」



 暴れても、抜け出すことはできない。それでも、ケンヤの中の怒りは溢れる一方で……


 ……魔力が、溢れだしていく。

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