第33話 一人欠けたパーティー
大切な仲間を失っても、私たちの旅は続く。
サシェの遺体は、本当ならマルゴニア王国へ……いや彼女の故郷へ連れて帰りたい。でも、それは無理な話だ。そうだ、この旅では、遺体となった仲間を連れて帰ることもできないんだ。
だから、せめてもの弔いとして私たちの手で土の下へ埋めた。
もちろん、みんな手作業でだ。疲れているなんて、言ってられない。サシェをこんな所に放り出したままでは、あまりに不憫だ。
「……じゃあね、サシェ。ありがとう」
サシェを埋め、みんなで手を合わせて……私たちは、移動する。休みたいところだが、あの大群に襲われた場所に留まったままは危険と判断した。
少しでも、安全な所に。そこで、体を休めなければ。体力を、魔力を、回復させないと。またあの規模の魔物、魔獣に襲われたら今度こそ終わりだ。
「ここいらで、一息入れよう」
比較的障害物の多い場所を見つけ、身を隠すようにして隠れる。先ほどのように、見晴らしのいい場所じゃないから……そう簡単には、見つからないだろう。
ここで、少しでも休めたら。エリシアの魔力は、さっき完全に尽きたらしい。つまり、私たちは自己治癒の力に頼るしかないわけだ。はは、なんか変な感じ……この世界に来るまでは、それが普通だったのに。
薬を使っても、どんな名医だって、傷はすぐには治せない。でも魔法なら、すぐに傷を治してくれる。それこそ、怪我の痕だって残すことはない。
そして……そんな万能に思える魔法でも、死者は生き返らせることはできない。
「その、ボルゴ……大丈夫?」
サシェがいなくなってつらいのは、みな同じ……その中でも、ボルゴは一番だろう。サシェと、恋人になったんだから……
だからきっと、ひどく落ち込んでいる。そう思ったんだけど……
「あぁ、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
大丈夫どころか、私の気遣いにお礼まで言うなんて。ボルゴのことだから……言っちゃ悪いけど、いつまでもサシェの死を引きずって泣いていると思っていたのだ。
なのに、全然平然としている……?
「みんな、ごめん……私が、もっと、きちんと魔力を調整して、戦ってたら……」
ここで自分を責めているのは、エリシアだ。
サシェには、自分を責めてはダメだと言われた。きっとエリシアも。けど、それで割り切れる問題でもないんだろう。死者ならばいかなる魔法をもってしても、生き返らせることはできない。
でもあの時のサシェは、限りなく瀕死であったとはいえ、まだ生きていた。であれば、魔法で回復できた可能性はある。それが『魔女』と呼ばれるエリシアで、魔力が万全に近かったならば……
ただ、あの状況でそれを望むのは傲慢だ。それに……
「エリシアのせいじゃない。エリシアはあの後、戦えない僕を庇いながら戦ってくれてたじゃないか。力不足を嘆くなら、あの魔獣の攻撃を防げずむざむざサシェを連れていかれた僕だ」
「それは……」
「だからエリシアは、悪くないよ」
そう、ボルゴの言うように、サシェが連れていかれた後……情緒不安定からか盾をうまく張れなくなったボルゴを守る形で、エリシアは戦っていた。
あれが、魔力の著しい低下に繋がったのは間違いない……かもしれない。だからって、誰が悪いって話じゃない。
「誰が悪いなんて、そんなこと考えるなんてサシェは望んでないよ」
「あぁ。サシェは、最期に笑って逝った。それをいつまでも引きずるのは、あいつに失礼だ」
「……強いな、師匠は」
私は、やっぱり今でも泣いてしまいそうだ。でも師匠は、堂々と話している。さすが最年長というやつだろうか、私なんかじゃそんなことはできそうにもない。
「……そんなことないさ」
だけど、師匠がそう小さく呟いたのを、私は聞き逃さなかった。握りしめたその拳が、震えているのがわかった。
そうか……さすが最年長だから大丈夫、なんじゃない。最年長だから私たちを不安にさせないように、強く努めているんだ。
だってサシェは、師匠にとって家族みたいな存在だった。ううん、私たち五人、家族だって前に言ってた。その家族が死んで、冷静でいられるはずがない。
それを私は、さすが、なんて。……まだまだだなぁ。
「……けど僕たちは、進まなきゃいけない。ここで立ち止まったら、サシェの想いが無駄になる」
そこで、ボルゴは言う。このまま進まなければ、サシェの想いが無駄になる、と。サシェの、想い?
それはおそらく、ボルゴだけに言ったであろうサシェの最期の台詞。
「『みんなで、生きて帰って』……それが、サシェの願いだ。だから僕は、それを実行する。もう誰も、死なせない」
サシェの最期の言葉……それがあるから、ボルゴは取り乱すことなくここにいる。まさか、サシェがそんなことを言っていたなんて……
思いもしなかったけど、サシェらしいとも思った。そして、それがサシェの願いであるならば、なにがあっても叶えないとと思った。
それに……もう、誰かが死ぬのなんて見たくはない。
「そうだね……みんなで、生きて帰って。ちゃんと、サシェのお墓を作ろう!」
遺体は連れて帰れないけれど。せめてサシェの魂だけは、連れて帰りたい。だから……絶対に、生きて帰る。
力強くうなずくみんなも、気持ちは同じようだ。
みんなで生きて帰って。世界を救って。私は、元の世界に帰る。その気持ちは、ますます大きくなっていく。
見ててね、サシェ……絶対に、サシェの願いは叶えてみせるから!




