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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
もう一つの異世界召喚

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サーズの秘密、暴かれる秘密



「…………」



 目の前に立つサーズは、確かにこう言った……ガルヴェーブ・マド・マキトロニア、と。ガルヴェーブが、忌み名として隠しているマドという名前を。


 彼女はうっすらと笑っているようで、真意はつかめない。だが、ここではぐらかそうとしても、無駄だろうということはわかる。


 サーズは、確かに他人をからかったり、ズバズバとストレートにものを言うタイプだ。だからこそ、こうしてガルヴェーブの忌み名を持ち出したことには、ちゃんとした根拠がある。当てずっぽうでは、ないということだ。



「……場所を、変えませんか」


「いいよー」



 こんな廊下のど真ん中で話をしていては、それこそ誰に聞かれてしまうかわからない。それに、ないとは思うがサーズがすでに他の者に話している可能性だって、なくはない。


 ……いや、ガルヴェーブの口からちゃんと聞いてない以上、下手に言いふらしはしないはずだ。


 ……いや、そんなのはただの願望だ。それが本当であろうとなかろうと、ガルヴェーブがマドの一族であるという話が挙がったらその時点で、ガルヴェーブを見る回りの目は変わるだろう。


 だからこれは、他の者に言いふらしてはいない……という願望だ。それに、賭けるしかない。


 少なくとも、この場にはサーズ以外の気配は感じない。誰か盗み聞きしている者は、いないというわけだ。



「……空き部屋、か」



 この城は、広い。だからこそ使われてない部屋はたくさんあり、誰も滅多に使わない部屋、通らない場所というのは、ガルヴェーブは把握している。


 この部屋を選んだのは、そのためだ。誰もここに、訪れることはない。つまり……サーズがガルヴェーブの秘密を握り、悪意を持っていると判断すれば、この場でサーズを……


 願望叶って誰かに話していない限り、口は塞がれる。



「ここなら、落ち着いて話ができます」


「やぁ、ま、そうだな」



 部屋には二人きり……サーズに警戒した様子はない。


 サーズは、実力が高いというわけではない。魔力はそれなりにあるが、実戦はあまり得意ではなく、気配を消すのが得意であったり魔力の制御(コントロール)が異様に高かったりと、どちらかといえばトリッキーな存在だ。


 実力で押さえ込もうと思えば、それがガルヴェーブには可能だ。だが、なにも聞かずにそんなことはできない。まずは、状況の確認からだ。



「……どうして、ですか」


「あん?」


「どうして、私の……マドの、名を……」



 ガルヴェーブがマド一族の話をしたのは、ケンヤとの部屋での会話だけだ。それ以外で、誰かに話したことや、口が滑ったなんてこともあり得ない。


 だから、情報が漏れたとしたらその場でだろう。可能性としては、ケンヤが誰かに話したか……いや、それはない。彼はこういった話を、誰彼構わず話すような人ではない。それがわかっているから、ガルヴェーブは……


 ならば、誰かが……サーズが、あの部屋の会話を盗み聞きしていたか。だが、あのときは周囲に最新の注意を払った……いくら気配を消すのが得意なサーズであっても、そこにいたとのなら気づけないはずはない。


 だが……ケンヤに話し終えたあと、あの部屋から出て……サーズに話しかけられた。あのときの彼女はなにか、妙な雰囲気があったというか……


 用もないのに話しかけてきて、ケンヤが恋愛対象として云々という話をして……普段なら、絶対にしないような話を。



「やぁ、まあ、疑問だよな……簡単な話だ。私が、あの部屋での会話を聞いてた……それだけのことだ」


「! しかし……!」



 ガルヴェーブの問いかけに対して、返ってきたサーズの答えは……単純なものだ。あの部屋で交わされた話を、聞いていた……ただそれだけの話。


 だが、それはあり得ない。部屋の中は間違いなくガルヴェーブとケンヤの二人だけ。そして実際に部屋の外を確認したわけではないにしろ、外に何者かがいる気配はなかった。絶対に。


 たとえ気配を消していたとしても、完全に消すことなど不可能だ。さらにガルヴェーブは、気配察知能力に()けている。あのとき、あの部屋の周囲に誰もいなかったのは、間違いないはずなのに……



「やぁ、悪いな。実はだな……私、秘密にしてたことがあるんたまよ」


「秘密……なにを……?」



 いったい、サーズはなにを言っているのだろうか……わからない。会話のキャッチボールが、できているのか? 秘密とは、なんのことだ。


 だが、この言葉の意味は直後に、明らかとなる。



「……なっ……」



 突如、目の前からサーズの気配が、完全に消える。その姿は、目の前にあり続けているのにだ。サーズは確かに、そこにいるのに……気配だけが完全に消えてしまっている。これは、どういうことだ。


 目の前にいるのに……どれだけ集中しても、まったく気配を感じ取れない。こんなこと、今までなかった。気配を消すことは可能でも、完全に、それも目の前にいるのに気配を消すなんて。


 人も魔族も、生きている限りその気配を、完全に消すことなどできない。はずなのに……


 まさか、サーズの秘密とは……気配を、完全に消すことができるということ。



「やぁ、驚いてるな。けど、それだけじゃないんだな」


「……!?」



 続いて、サーズの姿も消えていく。目の前から、その姿が失われ……姿も気配も、どちらもが感じることができなくなる。


 姿だけを消すならば、まだわかる。できる者は少なくない。それでも、姿を消し、なおかつ気配まで完全に消すなんて、そんなこと……



「あり得ない……けど、こうして目の前で起きてる。信じるしかないだろ? ガルヴェーブ」


「……それで、部屋の話を……」



 姿と気配を消し、部屋の中に忍んでいたのか外で盗み聞いたのか……どちらにせよ、この能力を使って、話を聞いたのは間違いない。


 そこまでして、なぜ……



「なんであんたのことをかぎ回ってたか……気になるか?」



 まるでガルヴェーブの心情を見抜いたかのように、姿も気配もないサーズは、口を開く。部屋には、見えないサーズの声が響いていく。



「前々から、気にくわなかったんだよ……あんたのことが、な!」


「それは、どういう……ぐっ!?」



 サーズの言っていることが、理解できない。いや、理解しようとするその前に、思考を中断させられた……腹部に、重い衝撃。


 殴られた……姿の見えない、サーズによって。



「やぁ、だから、なーんかいいネタでも落っこってないかと思って、観察してたんだよ。ケンヤ殿と仲良いし、なんかえーっと……スキャンダルっての? そういうのないかと思ってたら……思った以上の、収穫があった。あんたがあの、マド一族の末裔とはね。これを魔族(みんな)が聞いたら、さぞお怒りだろうぜ……」


「……ま、さか……」



 嫌な予感が、する。みんなが聞いたら、と……そう言うサーズの口元は、見えないのに笑っている気がした。


 その直後……閉じていた部屋の扉が、激しい音を立てて開かれた。

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