第31話 サシェの闘い
今回はサシェ視点となります
――――――
ドサッ
「かっ……くふ!」
乱暴に放り投げられた私の体は、受け身をとることもできずに地面に転がる。どれくらいの高さから落とされたのかわからないけど、痛い……!
それに、肩に突き刺さったままの羽根の影響で、肩からは血が止まらない。まずは、これをなんとかしないと……
「ぅんん……んぁ!」
羽根であるはずのそれは固く、突き刺さっていた……引っ張ると、悲鳴をあげたくなるほどの痛みが襲ってくる。でも、これくらいどうってこと、ない……!
血が吹き出るのも構わずに、羽根を抜く。これがただの羽根じゃないのは、明らかだ。だって、ボルゴの盾をすり抜けたんだもの……
どうやらこの一枚だけがそうなんだろう。じゃなかったら、もっとたくさんの羽根を放って、今頃ボルゴもエリシアも、私も全身串刺しだ。
この羽根の魔獣が、ボルゴの盾に体当たりして……そうだ、壊されたんだ。それから私が掴まれて、飛んで……それから……
『サシェ……!』
最後のボルゴの、つらそうな顔が忘れられない。あんな顔、見たくない。なんだか、悲しくなる。思い出すだけで、胸が痛い。
だから、早く戻らないと……
「悪いが、それはデキナイ」
なんだ、この声。しかも、まるで私の心の中を呼んだかのようなものだ。どこから、声が?
誰が?
「誰?」
「ここだよ、ここ」
その声は、まるで私をおちょくるように笑いを含んでいる。辺りをキョロキョロ見回してもいなかったが、声は上空から聞こえた。
まさかと思って、上に顔を向けると……そこには、私をここに連れてきた魔獣しかいなかった。つまり……今、しゃべってたのって……
「ま、さか……しゃべって……?」
「意外か? ワタシが言葉を発するコトが」
これまで、魔物はもちろん、魔獣にだってすごい数と会ってきた。けど、その中で言葉をしゃべる魔物、魔獣なんていなかった。
だけど今、間違いなくあの魔獣はしゃべった。そうだ、今こうして私だけをこの場所に連れてきたり、しゃべったり……魔物や魔獣よりも、明らかに知能がある……?
「なんで魔獣が、しゃべって……?」
「ふん、ワタシをあんな下等な生き物と同じにしないでもらおうか」
どういう、こと? 同じ魔獣を下等呼ばわりなんて……こいつ、魔獣じゃないの? それに、この場所って……
「ここは、どこ?」
「ハッ、今さらだな」
私はあの魔獣に、どこかに連れてこられた。みんなと、分断されたのだ。そうまでして連れてこられたここは、いったいどこなのか。
辺りを見渡すと、暗い……まるで、一面闇に包まれてしまっているようだ。夜よりも、暗くて……なんだか、少し怖い。
「! そこ!」
暗い……普通なら、なにも全然見えないほど。だけど、私はとある方向へと素早く矢を放つ。矢がなにかに当たり、それは小さな悲鳴をあげて倒れる。
「! 見える、のか?」
「私は、夜目が利くって誉められたことかある!」
本来、側になにがあるのかさえ見えないだろう闇。
見えないから気配で、そこになにかあるのか察するんじゃない。見えるんだ、私には。私は、小さいときから狩りを主とする一族で育った。
多分、そこで目が鍛えられたんだろう。私は夜でも、そこになにがあるのか、なにがいるのかがわかるようになっていた。でもこれは、私だけじゃなく家族や故郷の人たちみんなだったから、当たり前のことだと思ってた。
でもアンズに、暗い夜の中でも見えるのはすごいと誉められた。だから私には、夜だろうと、それより深い闇だろうと、そこにあるものが見える。
だから、今私の前にある景色も、見える。そこに、あったのは……
「魔物……」
魔物の、大群。さっき、みんなを襲ったほどの数じゃないにしても……この数は、一人で相手できるんだろうか?
「驚いた、さすがは勇者パーティーのメンバー……しかし、ダカラコソ『弓射』を失えば奴らの戦力は、サガル」
しかも、空にはあの魔獣もいる。しゃべる魔獣……私たちが、今までに会ったことのないタイプ。
魔物はともかく、魔獣に私の矢が通用するんだろうか……いや、そんなんじゃだめだ!
「弱気、ダメ。お前を倒せば、この変な場所からも出られるはず!」
ここが、普通の場所でないのは明らか。建物の中でもこんな暗い場所はない。まるで、一切の光を遮断しているようだ。
ここに連れてきた、鳥型魔獣を倒せばここから出られるはず! だから私は、魔物の大群と距離を取りながら矢を放つ。
「ふん!」
でも、私の矢はあいつが翼を動かしただけで、風で流されてしまう。くそっ……みんなには、コントロールがいい、速い、って誉められたけど……私の矢には、力が足りない。
もしエリシアの魔法くらい、力があったら……ううん、ないものねだりをしても仕方ない!
「お前を、倒して……ここから、出る!」
「やってみるがイイさ……『弓射』!」
絶対に、ここから出る! 待ってて、みんな……ボルゴ!
こんな魔物の大群なんかに、しゃべる魔獣なんかに、負けない! また、みんなに会うんだから!




