第30話 狙われたサシェ
「きゃあああ!!」
悲鳴が、届く。それは誰のものか、考えるまでもない……サシェのものだ。
しかしサシェは、ボルゴの盾により守られているはず。それに、私や師匠、グレゴが魔物の大群を相手して押し止めている。飛び交う魔法だってエリシアが打ち消し、私たちも防いでいるはず……
「サシェ……!」
なにが起こったのか。辺りに注意を張り巡らせながら、後方を確認する。すると……
「ギェエエエ!」
「と、飛んでる!?」
私たち三人の壁をかいくぐり、ボルゴの盾があるにもかかわらずサシェが悲鳴をあげた理由……それは、言ってしまえば魔物の襲来によるものだ。
だが、そこにいたのはただの魔物ではない。大きな黒い翼を広げ、空を飛ぶ鳥型の魔物だ。これまでにいろいろな獣型の魔物は見てきたけど、鳥型の魔物は実は初めてだ。
……いや、あれはもしかして、魔物じゃなくて……
「ギィエエエ!!」
「魔獣!?」
ボルゴの盾に、体当たりを繰り返す魔獣の体は……先ほど師匠を襲っていた魔獣と同じ、闇の波動をまとっている。
ボルゴの盾は、これまでに壊れたことがない。だから、たとえ魔獣が身体強化をしようと、ボルゴの盾を壊れるはずもない。なのに、サシェが悲鳴をあげたのは……ただ魔獣に驚いたからでは、ない。
悲鳴をあげた、その理由は……
「サシェ、しっかりして!」
「ど、どうして……」
倒れるサシェにエリシアが寄り添い、ボルゴが顔を青くしている。なぜならサシェの肩には、なにかが刺さっており、それによってサシェが倒れているのだから。
あれは……黒い、羽根? あの魔獣の羽根か?
ボルゴが青ざめているのは、盾を展開しているのになんでサシェに傷がついたのか、というものだろうか。まさか、ボルゴの盾をすり抜ける攻撃……?
いや、そんなものがあるなら魔獣が盾に体当たりを続ける理由がない。だとするなら……あれは回数制限の攻撃なのか、あの魔獣は関与していないのか。あれが羽根である以上、あの魔獣の仕業の可能性が高いが。
いずれにしろ、サシェの肩に黒い羽根は深く刺さり、サシェが倒れるほど。この位置からでも、出血の量がひどいのが見てわかる。肩から、あんなに血が流れるなんて!?
「はぁ、はぁ……あぐっ、うぅ……!」
「サシェ……くっ!」
なんとか、助けにいきたいけど……! 周りの魔物や魔獣が邪魔で、うまく、動け、ない!
エリシアはサシェの治療も同時進行で行い、そのため援護の魔法は少なくなる。サシェは言わずもがな援護は出来ず。そして……ボルゴにも問題が起こる。
サシェが倒れたことに動揺し、盾の力が弱まっている……? 魔物の体当たりにより、盾が次第に壊れてきているように感じるのだ。
このままじゃ盾を壊され、三人は魔獣の餌食になってしまう……そんなこと、させな……!
バキン……ッ!
「しまっ……!」
弱るサシェの姿に動揺し力を低下させた盾は、ついに壊れてしまう。『守盾』と呼ばれたボルゴの盾が、ついに破られてしまった。
そして魔獣は、盾を張っていたボルゴ……ではなく、倒れているサシェへと狙いを定める。その動きは素早く、また盾を壊された衝撃からボルゴもエリシアもとっさの判断ができず……
「あっ、ぐぅうう!」
「サシェ!!」
「ギィエエエエ!」
魔獣は、鳥のような足でサシェの体を掴む。そして、上空へと舞い上がった。あれは、サシェを狙ったのか?
鋭い足はサシェの細い体を軽々掴み、一歩間違えればサシェの体が折れてしまいかねない。ただでさえサシェは負傷してるんだ、あれじゃサシェがもたない!
「この……!」
このままサシェを好きにさせてなるものかと、エリシアは魔法を撃ち魔獣を撃ち落とそうとする。しかし、正確無比なはずのエリシアの魔法は、なぜだか当たらない。
魔法が当たる寸前で魔獣が避けているのか……でかい図体のわりに、素早い!
「邪魔、だぁ!」
まさか、先陣を切った結果がこれとは。周りの魔物を吹き飛ばすが、まったく数が減らない。こいつら、いったいどこから……!
グレゴも師匠さえも、この魔物の大群を前に足止めをくらっている。魔物だけならまだしも、魔獣だっているのだ。これは……うっとうしい!
「ぐぅう、うっ……」
「やめろ、サシェを放せ!」
そうしている間も、向こうの事態は予断を許さない。サシェは掴まれている苦しさから顔を歪め、エリシアの魔法は当たらないし、ボルゴに攻撃手段はない。その反撃として、魔獣から魔法が放たれる。
次第に、エリシアは魔獣の魔法を防ぐので手一杯に。上空の敵が相手では攻撃手段を持たないボルゴに為す術もなく、私もグレゴも師匠も、魔物の大群や複数の魔獣に足止めをくらう。
こんなこと、今までなかった。みんなで力を合わせればなんとかいって、なんだかんだで無事に旅を続けてきて……このまま、みんながいればなんの問題もなく、旅を終えられると思っていたのに……
「ぁ……」
「サシェ……!」
次の瞬間……魔獣の姿が、消えた。比喩でも、なんでもない……本当に、パッと消えたのだ。まるで、そこに始めからなにもなかったかのように。
「は……?」
それはつまり……魔獣に掴まれていたサシェも、その場から消えたことを意味していて。
「さ、サシェ……? サシェ!」
鳥型の魔獣とサシェはその場から消え失せ、あとに残されたのは……なにが起きたかを理解するのもままならない私たちと、そんなことはお構いなしに襲ってくる魔物に魔獣。
サシェが……消えた? いや、正確にはあの魔獣に、どこかに連れていかれた?
どっちでもいい。ここからサシェがいなくなった事実には変わりない。それは私たちの……特に、ボルゴの動揺を大きく誘う。
サシェがどこに消えたのか、わからない。だけど、このままここで足止めをくらっていては……負傷しているサシェが一人きりで、どうなるかわからない。
だから……
「お前ら、退けぇえええ!!」
こいつらをすぐに倒して、サシェを捜す!
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