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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄vs暗殺者

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正体見たり



 見てきた、過去の映像。それは、バーチとノット率いるマルゴニア王国の兵士たちが、ユーデリアの故郷である氷狼の村を滅ぼす光景。


 それは、私の左目……『魔女』エリシアの目が、映し出した、現実にあった光景だ。過去の映像は、触ることやにおいなどは感じなかったが声、音は聞くことができ、その点はとてもリアルだった。


 左目が過去の映像を映し出したのは、あとにも先にもその時だけだ。この左目の本来の持ち主、エリシアゆかりの彼女の故郷ですら、そんな現象は起こらなかった。



「……」



 左目が唯一映し出した、過去の映像……そこに映っていたのが、このノットという人物だ。


 フードの人物……料理店で会った人物……氷狼の村を滅ぼした人物。そのすべてが同一人物で、このノットだ。その顔、そして彼女の右腕、右肩から腹部にかけ、大きな凍傷の痕があるのがその証拠だ。


 その痛々しいほどの傷は、氷狼の村での殺しあいの中で、彼女が負わされた傷だからだ。



「私の正体を、知ってるってのか。どういうことだ」


「こっちの情報を一方的に知ってるだなんて思わないでね」



 もっとも、私が知っているのはこの女の名前と、使用する呪術の力……それを使って、ユーデリアの故郷を灰にしたことくらいだ。


 こいつがどこの誰だか知らないし、マルゴニア王国、王子(ウィル)の側近であったバーチと、どんな関係があったのかも知らない。


 いったい誰が、この女に私の殺害を頼んだのかも……



「情報漏れはお互い様ってことか」



 ただ、わざわざ正直に「あなたのことはこれとこれとこれしか知らない」なんて言う必要はない。実際に知っているのは少ない数でも、多くの情報が漏れていると、油断させる。


 どうせバレてるならと、こっちが知らない情報をペラペラしゃべってくれるかもしれないしね。



「そうそう。あなたの呪術のことも、全部わかってる。その人体も燃やす炎のことも」


「……」



 全部わかってるなんて、ハッタリだ。実際にわかっているのは、指パッチンにより対象が燃える……それだけ。燃えた対象は、もがいてもなにをしても炎から逃れることはできず、やがて塵となって消える。


 炎の威力は強力で、たとえ氷狼であってもその冷気は炎にかき消された。今回は、エリシアの魔力作った水で消すことができたけど。


 ……万全のものならともかく、氷狼たちの冷気はエリシアの半分の魔力よりも弱いものだったのか? それとも冷気と水の違いか? それとも、別の問題か……



「どこで私のことを調べたのか、知らないが……」



 自分のことを調べられている……と思い込んだノットは、軽くため息を漏らした様子で、手の中にある短剣をくるくる回している。


 自分の正体がバレていたことに驚いた様子はあれど、慌てた様子はない。



「ま、私のことを調べたっていっても、なにもかもを知ってるって訳でもないだろ」



 そう、別に自分のなにもかもがバレたわけではないのだから、慌てる必要などどこにもないという、ある程度の余裕。それに、全然バレてないというのは本当なんだし。


 逆に私のことは、なんかいろいろ調べられてるし……ついさっきの、紫色の霧の中の戦闘のせいで現時点での手の内は、もう明らかになってしまっている。


 そう考えると、ピンチなのはむしろこっちだ……それ以前に、体力も、あまり残ってない……



「私のことを知ってる、それは本当みたいだ……が、それはそれとしてだ。もうあまり動けないだ、ろ!」


「……!」



 またも投げつけられるクナイは、燃えている。クナイの先端を燃やしたり、短剣の刀身が赤くなるくらいに炎を集中させたり、呪術ってのは結構応用が効くもんだな。


 これには、魔力の壁は通用しない。左手で弾いても熱いし、右腕は斬られた。避けるしか……



「ま、そうくるだろうな」


「くっ……」



 飛んできたクナイはそれぞれ正面に二本、右方面に三本……となると、避けるのは左方面しかない。


 それを予期して、私が左後方に下がったのと同時、ノットは隣にいた。速すぎでしょ……!



「せいや!」


「こっちだ」



 ノットに向けて、蹴りを放つ……が、すり抜けてしまう。これは、残像……!


 背後から再び、ノットの声がして……いつの間に回り込んだんだこいつ!



「元々あんたと正面切ってやり合うつもりはなくてね。悪いがこのまま……」


「ちぃ!」



 背後にいる相手(ノット)……また体を反転させるよりも早い方法を選ぶ。振り向き様に、魔力を発動し突風で吹き飛ばす。


 これで距離をとる、はずが、吹き飛ばしたはずのそれはその場で消えてしまう。これも、残像……?


 周囲にノットの姿は、ない。



「っ、どこに……」



 姿が見えないどころか、気配も感じない。このやろ、どこに……



「! くぅ……!」



 背後から、なにやら違和感を感じ……振り向き様に顔を横へとずらすと、右頬に痛みが走る。なにかで斬られたように、鋭い傷口が開き……血が、流れる。



「へぇ、よく避けたな。姿も気配も隠してるってのに、やっぱり反応がいい」


「この声……!」



 姿は見えないが、ノットのものだ。


 避けたって……今のはどうやら、クナイだったみたいだ。燃えるクナイは頬を抉り、傷跡を残した。痛いし、若干熱い。まさかここから炎が燃え上がるなんてことはないだろうな……



「やっぱ今のアンタでも、ばか正直に真っ正面からヤるのは部が悪い。じわじわと、なぶってやるよ……私の、やり方でな」

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