その正体は
「ふぅー、ふぅー」
熱い手に息を吹きかけ、冷ましていく。クナイを落とすことには成功したけど、手で触れた際に熱かった。
これまでどんな攻撃であっても、痛みは感じなかったのに。それとも、熱さとかそういったものは感じてしまうのだろうか。
さすがにこの手で、火を触った経験はなかったし。だとすると、痛みに強くて熱とか冷たさには弱い可能性が……?
「ちっ、今のでも効果なしか……やっぱ……」
対して、フードの人物はなにかしら不満そうだ。効果なし……と聞こえたが、それはいったい、どういう意味だ?
私に熱さを感じさせるという意味でなら、効果ありだろう。まあそんなちゃっちいことをするとも思えないが。
「あんなもので、私を倒せるつもりだったの?」
「まあ、倒せるまではいかないものの……あの炎に触れて、熱いで済むとは思ってなかったさ」
つまり、本来はもっと殺傷力のある炎であった、ということか……そう考えると、やはりこの左手は呪術の力で防御面が優れているということか。
ただ、今の一発だけで終わるはずもなく……
「そら、よ!」
続けて、フードの人物はクナイを投げつけてくる。そのすべてが、先端が赤い炎に包まれていく……
てか、あんな量のクナイ懐に隠しきれるものか!?
「これなら……!」
別に熱いのくらい今さらあまり気にしないが、それでもこの数すべてをはたき落とそうと思ったら大変だ。避けるにしても、あまり避けるための体力を使いたくない。いつ動けなくなるか、わからないから。
ならばここは、魔力の壁で防ぐ……!
バリンッ……!
「え……」
しかし、その思惑はすぐに崩れた。魔力は壁は確かに展開した……しかし、クナイの先端が壁に触れた瞬間、壁は音を立てて砕け散った。
クナイの威力が、あまりに高かった? いや、先ほど触れた時点では、そこまでたいした攻撃力ではない。先端が尖った鉄の塊が飛んでくる……それ以上のものはない。
ならば、考えられるのはあの炎に、なにか仕掛けが……?
「くそ!」
考えるのはあとだ。迫り来る複数のクナイを、一つ一つ左手で弾き落とす。サシェの矢のように、別に追尾機能がついているわけでもない……のに、クナイはすべて私の心臓を狙って放たれている。
適当に投げたように見えて、その正確さは脅威だな……
「あつ! あち、ちっ」
触れる度、炎の熱さが伝わってくる。それでも、耐えられないほどではない。
ただ、この熱さにばかり気をとられてはいけない……!
「そこ!」
「ちっ!」
右斜め後ろに違和感を感じ、右腕を振るう。私の意思に従って動かなくても、まあこうやって振り回すことくらいはできる。
そこには、短剣を振り下ろしたフードの人物がいた。今、あっちでクナイを投げてるのは残像か……
「まだあっちから投げてるように見せてる……や、実際投げられてる。どうなってんの……!」
「あんたのその反応こそ、どうなってんのさ……!」
クナイを投げているのは、残像……のはずなのに、まだクナイが投げられ続けている。本体は、ここにいるのに。
だから、左手でクナイを、右腕で振り下ろされる短剣を防いでいる状態だ。前後どっちにもフードの人物がいる……訳かわからない!
「っはぁ!」
今度は距離を取るのではなく、短剣を振るい追撃を開始してくる。その一撃一撃は重くはない……しかし、なにぶん短剣を振るうスピードが早い。
右腕でガードはしているが……なんか、斬られてるような感覚があるような……
「こいつで、しまいだ!」
「ぅえっ……?」
短剣が、右腕に食い込む……その時だ。今までどんな攻撃も通さなかった右腕が……まるで大根でも斬れたかのように、スパンと斬れた。
千切れた、のではない。斬れたのだ。グレゴの大剣のようなものでならまだわかる。けど、片手に持てる程度の……それも短剣で、呪術の腕が斬れた? 刀身の長さだって、ナイフより少し長いくらいなのに。
その、刀身は……銀色ではなく、赤く、染まっていた。
「……!」
ぞくっ、と、悪寒のようなものを感じ、距離をとる。あまり動きたくなかったが仕方ない、アレは……危険だ。
「へぇ、距離をとったな。つまり、これを脅威に感じたってことだ」
「……赤く、光ってる?」
赤く染まる、というよりも光っている刀身。それがどういう原理であるかはわからないが、凄まじい威力を持っているのは確かだ。
人体よりも固いだろうこの呪術の腕を、あんな風に斬ってしまうなんて……あれに触れたら、体なんて簡単に斬られてしまうぞ。
「っ、熱い……?」
チクッ、と、まるで針に刺されたような痛みが……いや、これは熱さか? が、右腕の斬られた部分から感じる。
斬られて熱いってのはわからないでもないけど……そういうのとは違う気がする。
「……それも、炎?」
「はっ、察しがいいな」
つまりあの刀身は、クナイが燃えていたのと似た原理で、炎により赤くなっているってことか。そういう魔法……ではなさそうだ。
むしろ、この嫌な感じは魔法というよりも……
「なら、もっと面白いもん見せてやるよ」
「?」
表情こそ見えないけど、笑っている。フードの人物は得意気に話し、短剣を持つのとは逆の手で、行動を起こす。
腕を上げ、指を……親指と薬指を、擦り合わせて……
パチンッ
指パッチンをしたその瞬間……私の体が、赤い炎に包まれる。
「!? こ、これ……!」
指パッチン、炎、そして……この力の正体は十中八九呪術!
じゃあ、こいつの正体は……!




