表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄狙う暗殺者の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

281/546

呪術の末路



 グレゴ、師匠の姿が消えた。それは、命を落としたためだ……この、紫色の霧の中の空間で、私の記憶が幻覚として実体化した者が死んだ場合、跡形もなく消えてしまうようだ。


 死んだかどうか、わざわざ確認しに行く手間が省けるというのは、いいことだ。かすかにでも息があれば、殺したことにはならない。この空間からは抜け出せない。


 残るは、三人……エリシア、サシェ、ボルゴ。正直、出てきた五人以外の人物が出てくる可能性を、考えなくはなかった。


 記憶の中の人物を実体化させるのなら、五人の勇者パーティーメンバー以外にも、私が会ったことのある強者がもっと他にもいるのだ。


 たとえば、ヴラメ・サラマン。たとえば、コルマ・アルファード。そういった人物が出てくる可能性がないとは言えなかったが……ここまできて、また新たに出てくるなんてことはないだろう。多分。


 もちろん、出てこない保証はどこにもないし……この三人を始末してもまだ、誰か出てきたらいよいよ終わりなわけだけど……



「……なるようにしか、ならない……か」



 今はとにかく、残る三人の始末が最優先。そのあとのことは、そのあとだ。


 第一、(これ)の原因が、誰かが仕掛けたものだとしたら……霧から抜け出したところで、その誰かに襲われる可能性も残っているのだ。いや、その可能性はむしろ高い。


 本当なら、体力は温存しておきたかったけど……このボロボロの状態じゃあ、無理だな。


 願わくば、霧から抜け出せたあとに誰もいないところで、回復魔法で体を全快したい。



「……」



 可能性に、賭けるとして……まずはここにいる、残りの三人を始末する。始末といっても、もはや三人共虫の息だ。


 腹を拳で貫かれたサシェ、腹を手刀で突き刺されたボルゴ、そして……呪術に呑まれつつあったエリシア。エリシアはそれだけでなく、腹を蹴り飛ばし地面を転がっていった。それは、見るも無惨な姿だ。


 もう、意識はない……はずだが、この場から消滅していないってことは、まだ生きている。さっさと始末するか。


 そう考え、グレゴが突き飛ばし、その辺に転がっていったエリシアへと視線を向ける。頭を砕き割るのはグレゴに阻止されたが、それも無意味に終わる……



「……ん?」



 ……エリシアの姿を、見る。そこには……体が黒く、染まっている……いや、侵食されているエリシアがいた。


 うずくまったまま、片足が、片腕が……右半身が、黒いものに侵食されている。あの黒いものは……呪術、か? 呪術の、嫌な感じがする。


 地面を転がっていくほどに蹴り飛ばされても、虫の息になるほどのダメージを受けても……呪術の侵食は止まることなく。むしろ、速度が上がっているようにも感じて。



『呪われし術……呪術は、やがてお主の体をすべて呑み込み、術者の体を破滅させる』



 以前、水の精霊ウンディーネが言っていた言葉……その意味が、まさに目の前に表れようとしていた。自分の身に起きていることではなく、他社の身に起きていることとして。


 エリシアは、呪術を使っていない。いや、自分に呪術という力が眠っていることさえ、気づいていない。先ほど表れたのだって、無意識下でのことだ。自分の意思でではない。


 それでも……たとえ自分の意思で使っていなくても。呪術という力を有しているだけで、ああなってしまうのだと、見せつけられているようで……



「あぁ、うぅ……い、や……いや、だ……っ、なに、も……か、かんじ、ない……」



 まるで呪いの言葉でも吐いているかのような、その言葉に……思わず、背筋が寒くなる。呪術は、エリシア右半身からすでに体全体を侵食していっている。


 それは、ただ黒くなっていっているのではない……黒くなった部分に、なにも感じなくなってしまっているようだ。そういえば、私のこの右腕は元々ない部分から生えているからともかく……この、左手は……



「なにも、感じない……?」



 この黒くなっている部分には、なにも感じない。痛みはもとより、肌に触れる空気の感覚も、手を握ったときの手を握ったという触感も……なにも。


 痛みを感じない……いや、感じなくなるのは、まあわかっていたことだ。けど、こういった一般的な感覚まで感じなくなってしまっているとは、気づかなかった。



「うぅぁ、ぁあ……」



 聞こえていた、エリシアの呻き声……それが、だんだんと小さくなっていく。見れば、すでにエリシアの体は黒く、染まり……残すは、顔の左半分だけとなっていた。


 その顔が、目が……じっと、私を見つめている。まるで、助けでも求めるかのように。


 そして……



「あぁ、アン……っ」



 ……顔の、残っていた部分すべてが黒く、染まった瞬間……エリシアの体は、その場から消滅した。体を呪術が侵食したその瞬間に、エリシアがそこにいたという痕跡は失われた。


 ここから消えたのが、ただ死んだから……というのは、残念ながら考えにくい。そう、呪術の力に呑み込まれ、その結果として消滅した……ここが変な空間でなくても、そうだろう。


 これが、呪術を使った者の……いや、呪術の力を持つ者の末路。改めて、思い知らされる。この力の、危険性に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ