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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄狙う暗殺者の罠

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致命傷となる一太刀



 グレゴにより放たれる、一閃。それを私は、防ぐ隙さえ与えられないままに身に受けてしまう。


 その得物は、その辺に落ちていた木の枝だ……そんなもの、いくら振り回そうが子供のお遊びにしかならない。多少刺さるくらいであっても、人体に深手を負わせるほどに切り裂くことなどできはしない


 ……普通の人間であれば。



「……っか……!」



 この男は、『剣星』。世界中の剣士の頂点に立つとされる男。だからといって木の枝なんかを得物として扱うことができるのかというのは疑問が残るところだが、それをやってのける力があるのは確かだ。


 木の枝は確かな武器となって、この体を引き裂いた。



「ぐぅあっ、いっつ……!」



 もしこれがグレゴの体剣……いや、剣のような鋭い刃物であれば、私の体は真っ二つに斬れていたかもしれない。そう考えると、これは浅い傷だ。


 だけど、それはあくまで比べたらの話……普通に考えれば、これは重傷といえるだろう。腹部から胸にかけて、右斜めに斬り上げた一太刀。


 血が……自分の意思に反して、血が、吹き出る。噴水のように、とまではいかないまでも、それなりに勢いよく。



「は、ぁっ……!」



 流れる血を、手で押さえようにも……傷口が大きすぎて、とても手では押さえきれない。体から血、だけではない……力が、抜けていく感覚がある。



「どうだ、これ……で、お……ぇっ!?」



 (わたし)を斬り裂き、確かな手応えを感じていたグレゴ……しかし、その言葉は最後まで紡がれることはなく、苦しげな声に変わる。


 グレゴはその場に膝をつき、口から血の塊を吐き出していた。



「はぁっ……どう、よ……」



 グレゴの一太刀は、防ぐことはできなかった。ならばせめて一矢報いるためにと、カウンターの要領でグレゴの腹部へと拳の一撃をおみまいした。


 おかげでグレゴは膝をつくほどのダメージを受け、木の枝も粉々になってしまった。カウンターで打ち込んだ拳の衝撃は、おそらく内蔵まで届いているはず。


 斬られはしたが、ただでは起きないぞ私は……



「げほっ、うぅ……!」



 その代償は、大きかったが。これが木の枝による傷だなんて、いったい誰が信じられるだろう。


 ただの木の枝さえ、こんな武器に変えてしまうなんて。並みの人間じゃ、さっきの一太刀で命はないぞ。



「アンズ、よくも……ぐほっ!」



 再び武器の失ったグレゴ。しかし立ち上がり、素手でも私に向かってこようとしている……だから、その腹部を蹴る。魔力もなにもない、ただ純粋な蹴りだ。


 グレゴにとって、腹部はたった今カウンターの拳を受けた場所。そこに、さらに蹴りまで加えられてしまえばどうなるか……


 単純に、痛みに痛みが重なっていく。



「がはっ! あ、はぁ……っ」



 ただの蹴りが、今のグレゴには致命傷だ。おそらく内蔵は何ヵ所かダメージが入っているはず……今のグレゴは走るのすらキツいだろう。


 カウンターの拳は、相手の勢いを利用するだけあって、その勢いが強ければ強いほどカウンターも強くなる。おまけに、拳を打ち込んだこの左手は、呪術の力により大幅に力が上昇している。


 これが、かなりのダメージとして蓄積されたのは、言うまでもないだろう。



「がふっ、はぁ……ぜぇ……!」



 またもなんとか立ち上がろうとしているグレゴだが、今度はうまくいかない。痛むであろう腹部を押さえ、咳き込み血を吐き、苦しみを隠せてはいない。


 エリシアが回復魔法を使えない以上、ダメージを回復していくことはない。となると、残るまともに戦えそうなのは……



「師匠と、サシェ、それと……ボルゴ……」



 サシェは右肩を掠めている程度、ボルゴは攻撃手段は持たないがまだ元気だ。あと、三人……まだ、三人……


 ……まずいな、視界が、ぼやけてきた。血を、流しすぎてる……思った以上に、ダメージが蓄積されているってことか。


 はぁ、このまま思い切りぶっ倒れてしまいたい。ゆっくり眠りたい。……けど、そんなわけにはいかない。少なくとも、この状況を脱するまでは、気を張り詰め続けろ……!



「グレゴ、エリシア……少し休んでろ。まだ、俺がいる」


「……一番厄介なのが」



 まだまだ元気なのが、よりによって一番厄介な奴なんだよな。救いなのは、この師匠は禁術で生き返ったものとは違って、呪術を使うっぽい可能性はないってことか。


 ……この幻覚の人物たちは、本人の秘めた潜在能力を引き出している。ボルゴやサシェがそうだ。私が見たことのない技を使ってくるのは、そのためだろう。


 一方、師匠が使っていた呪術は、禁術で生き返らせられた際、付与されたものだろう。だからそれは、与えられた(もの)であって師匠の潜在的な(もの)ではない。


 師匠が呪術を使う気配が見られないのは、こういうことだろう。



「そら!」


「うぉっ!」



 ただ、呪術を使えようが使えまいが、厄介な相手であることに変わりはない。その巨体に似合わぬほどのスピード、それから打ち出される拳……今のこの体に直撃すれば、もう動けなくなるだろう。


 かすっても、危ない。だから、突進してくる巨体から逃げるしか、ない。


 グレゴのように、カウンターを打ち込むなんて……そう簡単には、できそうにない……!

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