第27話 じっくりあると思うな一大イベント
盗み聞きする形になってしまったが、私は聞いた。確かに聞いた。ボルゴが、サシェへの告白を決意したことを!
ふぉおお……寝れないから少し散歩してただけなのに、とんでもないこと聞いちゃったよ。興奮しちゃって、これはますます眠れそうにないかもよ。
その後私は、二人に気づかれないように、みんなが寝ている場所へと戻り……冷めやらぬ興奮の中、眠りにつくために横になる。目を閉じるが、高まってしまってなかなか眠れない。
と思っていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。意外と寝心地が良かった。
「んー、目覚めのいい朝だー!」
「アンズ、おはよー」
「うん、おはよー。えへへへへ」
「アンズ、そんな嬉しそうにしてどうした? いい夢でも見た?」
次の日から、私はボルゴの行動を逐一観察していた。サシェと二人きりになることがないか。告白するなら二人きりになってからだと思ったからだ。……それとも、みんなの前でまさかの公開告白をするんじゃないか?
いろんな妄想が巡り、その時を待っていたわけだが……待てども待てども、ボルゴが行動を起こすことはない。告白をすることを決めても、実際にするときは緊張して思い通りにいかないのだろうか。
私は、今の彼氏からは告白された側だから、あまりよくわからないけど……うーん、もどかしい。
「あ、あのサシェ……」
「ん? なぁに?」
「……な、なんでもない」
こんなやり取りが、何度も続く。最初のうちはこういうのも初々しいのう尊いのうって思っていたけど、それをこう何度も何度も繰り返されると……焦れったい。
くっ、誰もボルゴがいじいじしてるのなんて興味ないから! するなら女の子がもじもじしている所とかの方がおいしいから! さっさと告白しちゃいなよ!
こうなったら、私があのとき実は盗み聞きしていたことをばらしてしまおうか。そんで、もう無理矢理にでも告白させてしまうか……? 強硬で行くか。
「あ、アンズ? なんだか視線が怖いんだけど……」
とはいえ、私にできるのはせいぜい、こうやって『早くしろ早くしろ』の念を送ることくらいだ。さすがに「早く告っちまえよ」とまで言う勇気はない。
ボルゴの、サシェに対する想い……実はこれは、みんなが知っていることだ。私や師匠だけでなく、グレゴもエリシアも。もちろん告白を決めたことは、本人は師匠にしか話してないし……自分の気持ちがばれているなんて、思ってないだろう。
知らぬは、当人のサシェのみか。サシェが鈍感なだけで、みんないつの間にか気付いているよ。
というか、果たしてサシェに、男女の恋愛のあれこれについての理解はあるのだろうか。野生児のサシェに、恋愛的な好きが伝わるのかどうかもわからない。
「~♪」
だが、そんなじれったい日々を過ごしていたある日のこと。サシェがいやに機嫌がいいときがあった。いつも明るい彼女が、それでも機嫌がいいとわかったのは……それは、ボルゴと一瞬だけ姿を消してからだ。
……あれ? これってまさか……
「サシェ、なんか機嫌いいけどどうしたの……?」
「えへへー、実はね。ボルゴに告白されたの! 好きだって言われたの!」
「……はい?」
うっすらと予感はあったが、サシェの口から出てきたのはまさかまさかの言葉であった。
は……え? こく、はくされた……? 今の一瞬で? ちょっと目を離した隙に?
サシェの表情を見るに、彼女に伝えられた『好き』は人としてではなく、女性としての『好き』だと理解してのことだろう。だって若干頬がちょっと赤いもの。サシェ、それを理解できたのか。てか、ボルゴなんて大胆なんだ。
なんてこった……油断した。なかなか告白しやがらないから、ずっとボルゴに注目するってことに集中できなくなっていた。というか、最中にも魔物に襲われたりとかしていたのに、ずっと集中するなんて無理な話だった。
「うぅ、くそぅ……」
「アンズ、なんで泣きそう?」
「な、泣いてないやい!」
いや、それにしたって……こんな、告白イベントがあっさり終わってしまうなんて。こういうのって、もっと大きくピックアップするものじゃないの? 一面記事なんじゃないの?
漫画だと、見開き一ページ使って「好きです」とかいう告白のシーンがあるものじゃないの? それが、こんなダイジェストっぽく終わっていいの?
私、悔しい!
「ボルゴ! もー!」
「いや、なに? いて! け、蹴らないでいったい!」
ボルゴめ、せっかくの面白……じゃなくて一大イベントを、こんなあっさりと終わらせるなんて。娯楽を楽し……じゃなくて恋路を応援していた私にその一部始終を見せないなんて、これは裏切りだよ!
こうしてボルゴの、サシェへの告白イベントはあっさりと終わってしまった。せっかく、青年の淡い恋心の結末をこの目に焼き付けようと思ったのに!
ちなみに、二人きりで告白したボルゴは心の整理をつけてからみんなに発表するつもりだったらしいが、サシェが「ボルゴとコイビトになったー」と騒いだせいで、周知の事実になってしまった。
「……なんにしても、おめでとう」




