五人の戦士
「っ、おらぁああ!」
「うおっ」
ガンッ、ガンッ!
何度も何度も、守りの力をぶん殴っていく。壊れこそしないが、衝撃を与えることは可能だ。まあ、ダメージがいくまではないだろうが。
それでも、これを続けていれば……
「ボルゴから、離れて!」
……さすがに、続けさせてはくれないか。サシェがボルゴから私を引き離すために、矢を放つ。素直にそれを受けるわけにもいかないので、飛び退く。
サシェの矢は、普通の矢、追尾してくる矢、それに痺れ矢……もしかしたら他にもあるかもしれないが、わかっているだけでもこれだけの手段を使ってくる。
ボルゴを助けるサシェ……か。この二人って、記憶の中のどの段階の二人なんだろ? ボルゴから告白して、付き合ったあとの二人なんだろうか。
……ま、そんなことどうでもいいか。それに、助けたのだって恋人だからじゃなく、単に仲間思いってだけかもしれないし。まあ仲間思いなのは、サシェに限った話ではないけど。
「……ふん!」
ふと、背後に気配を感じ……裏拳の要領で、拳を背後へと打ち出す。そこにいた師匠に、腕でガードされてしまうが……
「よく、気づいたな……」
「気づかないほうが、無理でしょ……!」
気配を殺していた。師匠レベルなら、それくらいのことは簡単にできる。だけど、私だっては相手の気配を感じとることはできるんだ。簡単に背後は、取らせない。
それに、師匠ほどの巨体が音もさせずになんてのは、ちょっと無理に近い。私にだって、それなりの危機察知能力はある。
「ぐ、ぬぬ……!」
私の裏拳を腕で防いでいる師匠の顔が、歪む。丸太のように太い腕だが、どうやら効いている……!
それに、メキメキ……と、普段なら聞こえてはならないような音が、聞こえている。骨が何本か、逝っているということか!?
「好きにはさせないぞアンズ!」
「……」
続いて、この場に向かってくるはグレゴ。しかし、グレゴには今得物となる剣がない……丸腰の状態だ。
グレゴは、剣士。とはいえ剣がなければなにもできないというわけではなく、素手でもかなり強く戦える。素手で魔物だってぶっ飛ばしたことがある。
並の相手ならば、素手でも苦戦することなく勝つことができるだろう。……並の相手なら。
「なっ……ぐっ!」
師匠に拳を打ったまま、地面を蹴り……その勢いでグレゴの顔面めがけ、蹴りあげる。それがもろに直撃することはなかったが、ガードしたグレゴの腕に確かな手応えがあった。
裏拳を踏ん張る師匠とは違い、蹴り飛ばされてしまったグレゴは地面に転がる。剣を持たない『剣星』は、もはや私の敵ではない。
「ぁああぁ!」
「ぐふっ……!」
続けて、グレゴを蹴り飛ばしたその足で師匠の腹部に、膝を打ち込む。裏拳のガードに集中していた師匠は、予想外のところからの打撃に苦悶の表情。
その一瞬、緩んだ力……そこに力を込め、思い切り腕を振り抜く。裏拳は師匠のガードを突き抜け、本人を吹っ飛ばしていく。
「っ、ふぅ……」
「アンズぅううう!」
ぞわっ……
背筋を撫でられるような、感覚。それは、エリシアの魔力によるもの……エリシアの魔力を、こんなに強大に感じられるなんて。これが、魔力を持ったことによる影響か。
以前は、なんかでっかい力使ってるな、くらいにしか思ってなかったし。
「さすがエリシア……この魔力じゃ全然足んないよ」
「いっ、けぇ!」
エリシアは自身の魔力を手のひらへと集中させ、それを凝縮していく。まるで、強大な力を圧縮しているかのようだ。
見た目は手のひらに収まるほどのそれを、放つ。それは、見た目とは正反対のかわいらしくない、強大な力を持っていることはわかる。あれは、私の使う魔力じゃ防げない。
ならば……
「せぇえええい!」
向かってくるそれに、拳を打ち込む。触れたら爆発するタイプだったらどうしようと思ったが、どのみちこうする以外に防ぐ方法はないんだ。逃げようにもさっき思い切り走ったせいか、足が限界に近い。
拳が衝突したそれは、爆発することはなかった。それは、元々爆発するようなものじゃなかったのか、それともこの黒くなった左手に触れた影響かはわからないけど……
エリシアの表情を見るに、触れたら爆発する……爆弾のようなものだったのだろう。危なかった……なんの策もなしに触れていたら、爆発していた。
まあ策、というか本能的に拳を打ち出しただけというか……なぜだろう、直感のようなものがあった。このまま殴っても問題はないと。
「うぅ、らぁああ!」
そのまま、拳を思い切り振り抜く。そう、今拳に衝突している爆発を、エリシアのところへ弾き返すように……
ヒュッ……!
「えぇえええ!?」
そんな思いはあったが、ただがむしゃらに、拳を振り抜いた。直後、聞こえるエリシアの慌てたような声……その声に視線を向けると、驚くことに本当に、爆弾を弾き返していた。
それは、爆弾を放ったエリシアのところへと、跳ね返っていく。驚愕が大きいためか、魔力による防御は見られない。
「あっ……」
それは、誰の声だったか……それが聞こえた瞬間、エリシアへと跳ね返った爆弾は、大きな音をたてて、爆発した。




