メンバーの怖さ
「ぬぅう、えぇい!」
バコッ、と、地面が割れる。あまりに切迫した状況に、私が地面へと思い切り踏み込んだためだ。亀裂の入った地面は揺れ、辺りに振動を伝える。
それにより、私に接近していた二人は一旦離れる。距離を取るためには、これが一番手っ取り早いとはいえ、こう何度も続けるとさすがに、疲れてくる。
地面を割るとは言うのは簡単でも、やるのはかなりの力が必要なのだ。それに、ただでさえこの五人との対決は心身共に消耗するというのに。
一人だけでも、その気になれば国一つ落とせるほどの力の持ち主。それが五人も集まって、一人の敵……つまり私……を倒すために、チームワークで追い詰めてくる。
正直、むっちゃキツい。
「はぁ、はぁ……」
「どうしたアンズ、息があがってるぞ?」
「うる、さいな……」
息があがってる、か……そんなの、言われるまでもなくわかってることだ。
この五人を相手に、息もあげずに相手ができるほど私は化け物になったつもりはない。それに、自分自身への回復が間に合ってないのも、大きな理由だ。
対して向こうは、エリシアの魔法で回復することができている。ただでさえ向こうの戦力は半端ではないのに、こうちょくちょく回復されてしまえば、たまったものではない。
「くそっ……」
回復担当のエリシアを倒そうにも、グレゴと師匠に阻まれて到達することはできない。ボルゴの守りの力を破ることはできず先に進めない。サシェの正確無比な射的に下手な動きはできない。
敵に回って初めて、このメンバーの怖さがわかったよ。
その上、魔力で身体強化をしているが、これもいつまで持つかわからない。長期決戦はもとより無理……短期でケリをつけるしか、ない。
「それなんて無理ゲー?」
短期で……それも、回復させられないほどの一撃を、全員に叩き込む。それこそ、当たれば即死になるような。
技術さえあれば、人間の急所にある程度の威力を待つ攻撃を与えることは可能だろう。全力を出さなくても、場所さえ間違わなければ一撃で葬ることができるはず。
それにはやはり、心臓を貫くか……頭を、吹き飛ばすか……
「! っと……!」
瞬間、右方向から矢が飛んできたのを視界の端に捉え、それを掴む。あぶなー……私が、頭を吹き飛ばされそうになってどうするんだ。
「あーっ、惜しい!」
と悔しがるサシェは私の斜め前方にいる。エリシアの隣に位置する形だ。なのに、矢は右方向から飛んできた。それは、どういうからくりかというと……サシェの矢は、曲がるのだ。
本来、射った矢は曲がるなんてことはなく、一直線に飛んでいく。それが普通であり、常識。曲がるにしてもせいぜい風で軌道がずれるくらいの話。
だが、サシェが放つ矢は……そんな常識など、通用しない。どういう原理なのか、そんなこと知るよしもないし、なんなら本人すらわかんないと言っていた。
結果だけ見て言うならば、サシェが射った矢は、一直線に進むかと思いきや、方向を変えて向かっていく。まるで、それは鞭のよう。一直線に放たれたかと思えば、鞭を握る鞭をしならせることで、鞭の向かう先も変わる。
もういっそ、矢の起動を魔法で操っている、と説明してくれた方が腑に落ちるくらいだ。だけど、これは魔法じゃない。サシェ曰く、狙ったところに矢が飛んでいく……ただ、それだけのことらしい。
とにかく、自在に飛び交う矢に、私は翻弄された。本来一方向にしか進まないはずの矢の軌道が、読めないから。だけど、気づいた。その到達点が、頭か胸か……とにかく私の体のどこかであれば、なんとか対処はできると。
放たれる矢は、魔法による攻撃ではないから魔力を感じることはできない。それでも、殺意でもなんでも、なにかしらの感情のこもった攻撃なら、気づくことができる。
それが、自分の命を奪おうとするものなら、なおさらだ。
「はっ、はっ……!」
どんな場所からでも、標的に向かって放つことができる。それは私にとって、気を休める瞬間がないということだ。ただでさえ、グレゴと師匠相手にいっぱいいっぱいだって言うのに……!
体力も、魔力も、集中力も。徐々に、削られていっているのが、わかる。このままじゃじり貧どころの話ではない、力と数に潰される。
それに……
「せい!」
「ぬぅえぃ!」
グレゴと師匠を相手に、たとえ距離をとっても……それぞれ、飛ぶ斬撃と拳から放つ衝撃波がある。それはたとえ距離をとろうと、遠距離攻撃となって襲ってくる。
接近戦オンリーかと思っていた二人も、いつの間にか遠くからの攻撃も可能としていたのだ。
「えい、ゃ!」
飛ぶ斬撃も拳から放つ衝撃波も、共に弾き落とすことはできる。それでも、ちゃんとした弾き方をしないと、ダメージを負うのはこちらだ。
「やはりこれくらいじゃアンズには通用しないか、な!」
自身の拳を握っては開いてを繰り返しつつ、師匠がその場からまるでロケットのように飛び出す。恐ろしいまでの勢いを乗せた、拳が放たれる。
「うぉぁ!?」
それをもろに受けてしまえば、それだけで瀕死にまで持っていかれる。かといって、避けるための時間はない。なので、両手を正面……拳が放たれる場所へと、掲げる。
バシッ……!
重い拳を、片手を使って受け止める。しかしそれで完全に防げるはずもなく、思い切り踏ん張っているにも関わらず、後ろへと押されてしまう。
足が、地面を抉っていく。それでも、勢いは死ぬことはない。もしかしたら、このまま紫色の霧がないところまで行ってしまえば、この幻覚も消えるのではないか……一瞬そう思ったが、その可能性は低いだろう。
記憶の中の人物を実体化させ、襲わせるような奴が、霧の外に出ただけで解決できる問題を置いておくはずもない。そもそも、この霧に出口があるのかすら疑問だ。
やはり……こいつらを倒すしか、道はない……!




