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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄狙う暗殺者の罠

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冷たく、冷たく、そして……



 杏が、紫色の霧に呑まれたのと、同じタイミングで……ここにも一人、ポツンと取り残された人物がいた。いや、取り残されたではなく正しくは連れてこられた、の方が正しいだろう。


 乗っていたはずのボニー……コアや、前にいたはずのアンズが、いない。いない、なんておかしいだろう。今の今まで乗っていた、正面にいた相手が、突然消えるなんて。


 だが、ここで起こっていることは現実だ。あの紫色の霧に包まれ、一瞬意識が飛んだ。その直後だ、気づけばこのような状態になっていた。


 乗っていたコアやすぐ側にいたアンズがいないどころか、周りにあったはずの建物すらもなくなっている。辺りにはただ、紫色の霧が充満しているのみ。この霧に、なにか原因があることは間違いない。


 となれば、この霧の原因だが……村特有のもの、たとえば(トラップ)なんかとは、考えにくいだろう。そんな危険なもの、村にあって平気なわけはなし。


 ならば、自分たちを狙った、何者かによる工作か。それが誰かはわからないにしろ、もし自分たちを狙ったものであるならば、こうして分断させられたのは……



「一人一人、始末するためか……」



 あたりをつけて、ユーデリアは呟く。戦闘手段のないコアはともかく、アンズとユーデリアが揃えば、まずどんな敵だろうと負けはないだろう。先日の大男(ターベルト)は、まあ例外としておこう。


 だから、この状況を仕掛けてきた者は、おそらく複数人でユーデリアを囲ってくるはずだ。これがどんな魔法にしろなんにしろ、使用者を倒せば止められるはずだ。


 ならばさっさと倒して、こんな変な空間から脱出してしまおう。アンズはともかく、コアが気がかりだ。戦えるわけではないし……まあ敵も、わざわざボニーを狙うとは思えない。狙うにしても、まずは自分たちを殺してからだろう。


 だから、なにが現れてもいいように、全身の神経に集中して……



「……っぇ」



 現れた人物に、動揺などするはずがなかった。現れるのは敵、どうやってでも倒して、ここから抜け出す方法を聞き出す必要がある……と、思っていた。


 だが、目の前に現れた人物は、ユーデリアの動揺を誘うには充分なもので……



「……かあ、さん……?」



 ユーデリアの、母親……もうこの世にいないはずの女性、エルストであった。その姿を、ユーデリアが見間違おうはずもない。


 さらに、その後ろから……



「お兄ちゃん!」


「! ……ユリ、ア?」



 懐かしい声が、呼び方が、ユーデリアを呼ぶ。エルストの足元から姿を現したのは、ユーデリアの妹であるユリアだ。やはり、間違いない。


 もう、死んだはずなのに……どうして……



「ユーデリア」


「!」



 そして、エルストの背後……また別の声が、ユーデリアの名を呼ぶ。それを聞いた瞬間、ひそかに震えた。


 ないはずなのだ。もう。あるはずがないと、わかっているのに……



「……とう、さん……」



 死んだはずの、ユーデリアの父親が、そこにいた。


 それは、ユーデリアにとって……父母、そして妹……もう、会えないはずの相手だ。この目で、確かに死ぬところを見たのだから。


 思い出したくもない、忌まわしい過去。突如、故郷は蹂躙され……わけもわからないうちに、その日まであった日常は失われた。残ったのは、つい先ほどまで隣で笑っていた隣人の、死体のみ。


 目の前で仲間が、家族が殺され、ユーデリアはただ一人だけ生き残った。あのときの光景を、何度夢に見たことか。


 マルゴニア王国兵士を名乗る集団。中でも、リーダー格のバーチという男と、謎の人物。この二人さえいなければ、あそこまで一方的な虐殺になることはなかっただろう。


 ユーデリアの父は、村一番の実力者だった。しかし、それもバーチに敵うことはなく……そして、あの変な剣の影響で、すべてが狂ってしまった。


 その最期は、無惨なものであった。エルストは突如狂い、その牙を実の娘に向けた。挙げ句、殺された。


 ユーデリアの父も、最後の最後まであがきこそすれど、敵わず命を落とした。もう二度と、会うことのできないはずの人たち……それが、今目の前にいる。


 夢ではないか、とも思った。だが、それにしてはリアルだ……肌に触るこの空気も、胸を打つような痛みも……この、心に感じる懐かしさも。



「っ……」



 自然と、足が動く。村で虐殺を目の当たりにし、自らは奴隷としてひどい扱いを受け……それにより心は暗くなってしまったが、まだ年端もいかない少年なのだ。


 目の前の光景が信じられないと同時、どうしようもない希望を抱いてしまうのは仕方のないことだ。もしかしたら、今までの……故郷を襲われてからさっきの瞬間までが、夢だったのかもしれない。長い、長い夢を見ていたのではないか。


 その気持ちを抱いたまま、ユーデリアは、ゆっくりと三人の下へと足を運んでいき……



「……ぇ」



 足が、動かないことに気づいた。なにが起こったのか……視線を下げ足下を確認すると、足が凍り地面とくっつき……動きが、取れなくなっているではないか。


 いったい、なぜ……その疑問が解決するより先に、辺りを冷気が包み込んでいく。それは、ユーデリア自身のものではない。だとすると、それは誰のものかは明らかで……



「なん、で……」



 ユーデリアを、包み込んでいく。冷気は非情にも、冷たく、冷たく……

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