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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄狙う暗殺者の罠

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幻覚の中のかつての仲間



 『剣星』グレゴ・アルバミア……いるはずのない人物が、そこにいた。大きな剣を背負い、ただ私を見つめている。


 グレゴがここに、いるはずがない。そもそも、グレゴは私が殺したのだ。もう、生きてすらいないというのに。


 まさか、師匠と同じように……禁術ってやつで、生き返らせられたんじゃあ……



「……まだ、いる?」



 気配が、ある。それは正面にいるグレゴからではなく、背後からだ。今度こそ、コアかユーデリアだとありがたいんだけど……


 動く気配のないグレゴに注意しつつ、背後に視線を向ける。残念ながら、そこにいるシルエットはコアやユーデリアのものではない。あれは……



「……っ、なんで……」



 そこにいる、またもや見慣れた人物……それは、私が殺したグレゴと同じく勇者パーティーメンバーの、『魔女』エリシア・タニャク。彼女が、いた。


 どうして……エリシアまで。エリシアも、私が殺したけど……それは、グレゴよりも悲惨なものだ。私自身の記憶は曖昧だけど、結果としては私はエリシアの目玉(まりょくのみなもと)を食べて、彼女の命を奪ったのだ。


 その左目は、今や私に魔力と呪術をもたらすものとなってここにある。だというのに、そこにいるエリシアの左目には、以前と同じように美しい桃色の瞳が収まっていた。



「これが禁術によるものだとしたら……」



 禁術により生き返らせられた師匠は、元々消滅していたはずの肉体まで復元されていた。それを考えれば、無くなった目玉くらい復活してもおかしくはないだろう。


 そう、おかしくはないのだろうが……



「……なにか、違う」



 周囲に充満している紫色の霧、その中で現れたグレゴとエリシア。死んだはずの人間が動くはずもない、禁術という例外を除けば……


 だが、これはなんだか、違う気がする。禁術のときに感じた、呪術ともまた違う妙な感じ……それを、感じない。なんていうか……変な言い方になるけど、生きて動いているものに感じる気配のようなものを、感じない。


 禁術で生き返った者は、生きているわけではないが……それでも、動く死者には死者なりの気配というものがあった。ここにいる二人には、それを感じない。


 というか、この二人にはなにも感じない。なにも、だ。死んでいるという実感も、死体かもしれないという可能性も、なにも。



「もしかして、この二人……」



 可能性の話だが……ふとこの二人は、幻覚ではないか、という予感が出てきた。そうであれば、さっきまで乗っていたコアがいないのも、背中にいたユーデリアがいないのも、説明がつく。


 この紫色の霧は、そういった幻覚作用を起こすもので……グレゴとエリシアは、あくまでも幻。私の記憶から引っ張り出してきたのか知らないが、実体はないはず……



「って、おわっ!」



 そんなことを考えていた瞬間、グレゴがいきなり斬りかかってくる。音もなく斬りかかってくるもんだから、驚いて条件反射で避けてしまった。


 実体がないなら、わざわざ避ける必要はない……



「んん?」



 ……と思っていたが、グレゴの剣がめり込んだ地面には、ひびが入っていた。実体がないなら、地面に叩きつけてもなんともないはず……


 ははーん、さてはこれも幻覚だな? 剣を振り下ろし、それによって地面が割れたように見せているだけ……



 ガギンッ



「っつ……!」



 振り下ろされた剣は、次いで横凪ぎに振り払われる。それは私の顔めがけてのものだ、だから私は、それを今度は避けるではなく受け止めることに。幻覚ならその必要もないのだが、ついね。腕で、刀の峰の部分を見定めて受け止めた……


 ……のだが……



「っ、く、ぅ……!」



 受け止めた衝撃、そして直後に訪れる、腕から全身に伝わるビリビリ。これ、実体がある……幻覚じゃ、ないの……!?


 いや、でも……この、腕から直接伝わる感じ。正確には、なにも伝わらないというのが伝わってくる。実体はあるけど、中身がない……そんな、感じだ。


 自分でも、なにを言っているのかわからない。でも、確信した。ここにいるのは、禁術で生き返った死者でもなければ、ましてや生者でもない。ここにいるのは、この紫色の霧が見せている幻覚だ。


 幻覚とはいっても、実体はあるし一連の動きを見る限り、限りなく本人に近い。というか、これは私の記憶の中にあるものを引っ張り出してきたからじゃ、ないのか?


 どんな方法を使っているのかは知らないが、この紫色の霧が私の記憶の中のグレゴやエリシアを、幻覚として目の前に現した。ということだろう。だから、このグレゴとエリシアは、まんま私の記憶の中の強さそのものということ。


 ……参ったな。グレゴもエリシアも、マルゴニア王国でその強さを目の当たりにした。あれと同じ強さが、いると考えた方がいいのか。


 問題は、それだけじゃない。この幻覚が、グレゴとエリシアだけで打ち止めになってくれればいいが……そう、願った通りの展開にはならないだろう。出てくる幻覚に、制限なんてない。


 だとしたら、この二人以外にもサシェやボルゴ、まさかの師匠まで出てくる可能性がある。他にも、記憶の中の、人物か……ヴラメに変態(コルマ)、そういった人物も含まれるなら、それこそ数えきれない。


 考えまいとしても、そもそも初めからグレゴとエリシアが出てきたのだ。誰を想像しなくても、勝手に記憶の中から引っ張り出されるのだろう。


 となると、解決策として手っ取り早いのはこの霧を吹き飛ばすことだが……突風なんかじゃ、消えないだろう。そんな甘いものじゃないはずだ。



「今度は記憶の中の、元仲間か……」



 かつての仲間、死者、そして次は記憶の相手。なんでこう、次から次へと過去の仲間とぶつかるのか。


 いや私だけでは、ない。もし、ユーデリアも同じ目にあっているなら、今頃……同じように、記憶の中のかつての仲間と、戦っているはずだ。

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