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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄狙う暗殺者の罠

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『英雄』との接触

今回は、ノットサイドの話となります。



 『英雄』の殺害……単語にすればシンプルで、しかしこれまでで一番の難題であろう依頼。それを受けたノットは、標的(ターゲット)である『英雄』を探すために動きを開始した。


 まずは、『英雄』がどこにいるか。最後に目撃されたのは、『剛腕』との衝突のときにそれを監視していた部下による情報だ。


 ノットらは、その部下が見たものをガニムの目を通じて、『英雄』と『剛腕』の戦いを見ていた。戦い……いや、そんな生易しい表現ではなく、殺しあいと言った方がいいか。


 ちなみにその部下とは、ノットの部下ではなくガニムの部下だ。その人物は今も、『英雄』の動向を監視している。


 とはいえ、向こうはボニーや氷狼による移動手段。加えて、人の多い街中ならともかく、広い大地を移動している者を気づかれずに尾行するなど、難しい。相手はあの『英雄』なのだ、下手な尾行などすぐにバレてしまうだろう。


 だから、監視とは言ってもせいぜい、『剛腕』との殺しあいが終わったあとにどの方角に向かったか、それを把握するくらいだ。


 『剛腕』との殺しあいを観察していることに気づかれなかったのは、それだけ殺しあいに意識を集中していたということだ。部下にとっては、やりやすかっただろう。


 だから、ノットはその最後の手がかりをもとに、『英雄』の行き先を予想した。あんな激しい殺しあいのあとだ、かなり体力を消耗したに違いない。ならば、狙うは食料。


 奴らがどういうつもりで、数々の村や街、国さえも滅ぼしているのかはわからないが、食料が多くありそうな人の住んでいる場所があれば、そこに向かうはずだ。


 その予感は当たり、こうして今、とある村で『英雄』を発見することができた。禁術により生き返らせた『剛腕』のように、『英雄』の居場所がわかれば楽だったのだが……そんなに都合よくは、いかない。


 理由はよくわからないが、居場所のわからないはずの『英雄』の場所へ、『剛腕』は向かった。禁術による作用で標的で居場所がわかるようになった、というよりは、『英雄』のいる場所に対して第六感的なものが働いたのかもしれない。死体だからよくはわからないが。


 まあ、なにはともあれ……



(ビンゴ……!)



 『英雄』を見つけた。しかも、ちょうどお店に入ろうとしているところだった。なんだか懐かしい感じがするが、それに着いていくようにして、店に足を踏み入れる。ノットは、何食わぬ顔で『英雄』の隣の席に腰を下ろす。


 ちなみにノットがこんなに堂々としているのは、呪術により姿を変化させているためだ。本来の姿は右腕、右肩から腹部にかけ、大きな凍傷の痕がある。そんな姿では嫌でも目立つし……


 その傷を、この氷狼に見られるわけには、いかない。なにせ、氷狼の故郷を襲い、滅ぼした張本人なのだから。この傷は、その際に反撃にあったもの。



「わぁー、おいしそー!」



 隣で、並ぶ料理を見てみっともなくよだれを垂らしている『英雄』。こんなのが、ホントに『剣星』や『魔女』、バーチや『剛腕』を殺ったのと同一人物なのだろうか。


 ノットは暗殺者だ、隙を見て殺すのが本来のやり方だが……相手が相手だ。慎重に見計らうに越したことはない。



(それにしてもこいつ……どれだけ食うんだ)



 横目で観察していたが、めちゃくちゃ量を頼む。それを、めちゃくちゃバクバク食っている。その姿は、『英雄』というより、年相応の一人の少女。


 というか、今どう見ても隙だらけじゃないのか? もう、このまま殺せるんじゃないか?



 くー……



「あ」



 小さなお腹の音が、鳴る。隣の食べっぷりに気圧されたか、お腹が空腹を訴えている。思えばここに来るまで、ろくな食事をしていない。


 暗殺は一旦取り止め。まずは、腹ごしらえをすることにする。これから殺す標的と席を隣に食事をすることになるなんて、変な話だ。


 注文し、それを見る。お腹が空いていたからか、隣ほどではないが結構な量を注文してしまった。隣がどうこうは、言えないな。


 そんなことを考えつつ、料理を一口、パクリ。懐かしい味がする……そうだ、思い出した。この村に、お店に、懐かしさを感じていた理由……以前にもここに訪れ、料理を食べたことがある。


 どうして忘れていたのだろう。仕事の内容で頭がいっぱいになっていたからだろうか。懐かしい、おいしい味……つい、頬が緩んで……



「「はぁー、ここの料理はおいしいなぁ!」」



 ……声が、重なった。


 驚いた。まさかとなりの、『英雄』とこんなタイミングで、声が重なるとは。いや、それよりも自分が、こんな声を出してしまうことが。


 いけない、このまま固まっていては。なので、ノットは慌てた表情一つ見せることなく……



「あぁ、これはどうも」



 と、口を開き軽く頭を下げる。驚くほどすんなりと言葉が出てきて、それに圧された『英雄』もどうも、と頭を下げている。


 その後も、食事を続けながら二、三会話を続ける。気まずくなったのか食事を終えた『英雄』は、立ち上がり氷狼の子供を連れて店を、後にした。



「……ふぅ」



 なんとか乗り切った、はずだ。まさか無意識のうちに、あんな声が出てしまうとは。もっと精神を鍛えなければなるまい。


 それはそれとして、ついに『英雄』と会話をするに至った。見た感じ普通の女の子……とは言うには片腕がなかったり眼帯してたり普通とは言いがたいが……まあ、それでも殺しができそうには見えない。


 あんな子が、なにかしらのスイッチが入れば残虐な行為を犯すことになるのだ。その背景になにがあるか、知ったこっちゃないが……



「多分、事を起こすなら……あと一時間……」



 あれがなにを考えているかはわからないが、食事をしたからといってこの村を見逃すとは思えない。むしろ、食事をして体力を回復してから存分に暴れる可能性が高い。


 ならば、腹が膨れている今は動くまい。あの量を食べたのだ、腹が休まるまで一時間ほどだろう。事を起こすなら、それからのはずだ。


 ならば、その前に……体力を回復し、油断しきっている一時間の間に、殺す。『英雄』もまさか、こんな場所で自分が狙われているとは思うまい。


 『英雄』、その後は氷狼。表に繋いであったボニーは……別にいいか。



「さて、と」



 見失う前に、追うとしよう。暗殺者であるノットならば、気配を完全に消して尾行することなど、朝飯前だ。


 標的である『英雄』を、一時間の間に始末する……それを決め、ノットは店を後にする。

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