おいしい料理店での不思議な出会い
「あーんっ」
パクリ……モグモグ……バクバク……ごっくん!
「ふぁあー、おいしー!」
「嬢ちゃん、いい食べっぷりだねぇ!」
目の前に並ぶ、数々の品々。ご飯類に、麺類に、おかずに。品名はあるのだろうけど、もはやそれを把握することはなく、目の前のそれらをただ食欲に任せて食べていく。
とにかく、お腹が空いている……だからか、驚くほどに目の前の料理が量を減らしていく。
「…………」
隣でユーデリアが、若干引いている気がしないでもないが、気にしない。それよりも、まずは食欲を満たすことが第一だ。
今私たちは、とある村にやって来ている。空腹に耐え兼ねかけていたところで発見した、それなりに大きな村だ。本来なら、村を発見した時点で、村に住む人々は皆殺しなんだけど……
今回のように、とんでもなくお腹が空いているときは。殺しを開始する前にまず、お客として店に入り、料理をたらふく食べる。だって、そうでないと料理とはいえない、味気ない食物を食べることになってしまうから。
そりゃあ私だって、少しなら料理はできるよ。できるけど、どうせならプロの料理人が作ったものを、食べたいじゃない。それに、自分で作ろうにも作る気力がないし……死体の転がる場所で、料理なんか作れるはずもない。
だから、ここで殺しを行うのは、たっぷりご飯を食べてからにする。ご飯を食べ終えたら、始めよう。
ちなみに、ユーデリアはこの考えを聞いて……
『いや、なんか……すげーな』
と、言っていた。目をそらしながら。なにを考えているのか、わからないこともなかったが、わざわざ私から突っ込むことはしなかった。
そんなわけで、お腹いっぱいになるまでこうして食べているわけだ。飲み物もたっぷりあるし、食べ物が喉に詰まることもない。喉を、潤していく。
これがなかなか、おいしいのだ。
「んっ……ぷはぁ!」
「よく食うなぁ」
そう言いながらちびちびと食べるユーデリアだけど、実は最初のうちは同じくらいの勢いでバクバク食べていたのだ。今は少し、落ち着いただけで。
コアにも、ちゃんと食べさせてあげている。お店の中にまでは入れないから、入り口に繋いで、頼んだ料理を置いている。あの子も、長旅を苦労させているからね。
それにしても……
「「はぁー、ここの料理はおいしいなぁ!」」
と、声が重なる……ん……重なる?
私とは別の声が、私とまったく台詞を言った。ユーデリアでは、ない。ユーデリアは隣で、むしゃむしゃとパンのようなものを食べ進めている。
なら、反対か……今私は、カウンター席に座っている。ユーデリアの方向ではないし、むしろユーデリアの反対側の隣から、声がした。そちらへと、ゆっくり顔を向けると……
「あぁ、これはどうも」
「ど、どうも」
向こうから、小さく頭を下げてきた。女の人だが、当然初対面だ。今の反応だって、初めて会った相手に対して使ってもなんの不思議もない。
明るい赤髪を短めにしており、目や鼻などパーツが整った顔をしている。一目でかわいらしい顔立ちだとわかるほどだ。種族は人間、だろうか。
軽く笑みを浮かべる彼女の瞳は、真紅に光っていた。彼女の格好を見るに、この村の住人……というより、私と同じ旅人、という方が正しいだろう。
……いや、同じ、というのは語弊があるかな。私の場合、旅は旅でもその目的は旅ってほど穏やかなものじゃあないし。
「ホント、ここの料理はおいしいですよねぇー」
「え? えぇ」
隣の女性は、食事を続けながら私に話しかけてくる。私ほどの量はないにしても、それなりの量を食べているようだ。
年は……私と同じか、それより少し上かな? こんな子が、一人で多分旅をしているのか。どんな理由があるのか……少し気になったが、私には関係のないことだ。
「そちらも、旅をしてるんですか?」
「え? えぇまあ」
そのまま食事に戻る……かと思いきや、最中にも話しかけてくる。なんだこの人。
そちらも、ってことは、やはりこの人は旅人か。
「へぇ、一人で? それとも、そちらの小さい彼氏さんと?」
「誰が彼氏か!」
ユーデリアの方へと視線を向け、まさか彼氏と言われるとは……まあ、席の空いている店内でわざわざカウンターで隣に座って、同じものを食べていたらそう思う、のか?
ユーデリアねぇ……大きくなったら、それなりにいい男になりそうではある。だけど、今の時点では私のタイプではないし、なにより子供だし。
「……なんだよ」
「なんでもなーいよ」
ないな、ないない。考えてみれば、男女の二人旅なんて、なにかが起こってもおかしくはない状態である。個人的にも好物な状態ではあるが……
この子と……いや、こうなってしまったから、色恋沙汰なんて考えられない。考えたこともないし。花の女子高生として、それはなんとも寂しいわけだけど。
「んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ」
口の中の食べ物を、飲み物を含むことで一気に流し込む。いやぁ、ここの料理はおいしかった。この店を選んで、殺してしまう前に料理を食べることにしてよかった。
「いい食べっぷり飲みっぷりですねぇ。こっちまで嬉しくなっちゃいますよー」
「あはは、それはどうも」
同じ旅人、というくくりのためか、妙に親しげに話しかけてくるな、この人。
……ま、どうせこの人も死んでしまうだろう。旅人だというなら、この村に寄ったことが運の尽きと諦めてもらうしかない。
「じゃ、私はこれで……ごゆっくり」
「もう行っちゃうんですかー、寂しいですねぇ。……ま、近いうちにまた会えそうですけどね」
あくまでも社交辞令……言葉を交わして、私はユーデリアを連れて店を出る。また会えそう、か……そんな日は来ないだろう。同じ旅人でまたどこかの村で、どころか、私は今からこの村を壊すんだから。
この店の料理は、おいしかった。せめて、最期においしい料理が食べられて、わずかな自分の運に感謝するといいさ。
「あれが、『英雄』……間抜けそうなただのガキって感じだったが。けど、ありゃあ……化け物だな」
わかりにくいんで言っちゃいますが、最後のはノットです。正確には、カウンターの隣に座って話しかけてきた女が、ノットです。
変装して、杏に接触してきたというわけですねー。




