第25話 魔獣の脅威
「グルルル……!」
「ガウゥ!」
集落の入り口に集まる魔物……今から集落を出ようってときに、こちらをにらんで威嚇している。
「ヴラメー、早いとこコメットに剣買ってやれ」
「……その方が良さそうだな」
後ろで話している師匠とヴラメさん。確かに、今の状態で魔物に集落を襲われでもしたら、危ないもんな。旅立つ前に、魔物を片付けてしまおう。
それに、三日間も実戦をしていなかったから……身体をならすには、ちょうどいい!
「よし、行くよ!」
それを合図に、私とグレゴは走り出す。この拳に力を込めて、足にも力を込め速度をあげて、魔物の懐まで潜り込んで……
「せやぁああ!」
その腹部に、思い切り拳を打ち込む。衝撃が腹から背中へと突き抜け、殴った魔物の後ろにいた魔物にも、被害が及ぶ。
隣では、グレゴが大剣に似合わない素早い動きで魔物を次々と切り裂いている。まるで、ダンスでも踊っているかのようだ。
「ガルル……ゥウ!」
魔物に仲間意識はないが、それでも自分たちと同じ魔物が次々やられていくことに、何匹かは私たちではなく別の方向に向かっていく。
その先は、集落の入り口……しかしそこには、頼りになる仲間が四人も残っているというのに、バカな奴らめ。
「燃え上がれ、灼熱の柱よ……"ファイヤ・ピラー"!」
エリシアが詠唱し、自前の杖を振るうと……魔物の足元、つまり地面の下から異変が起こる。地面が盛り上がり、大地が割れるとそこから灼熱の炎が、火柱となって噴き出す。
それはあちこちから噴き上がり、次々と魔物の体を包み込むとあっという間に魔物の体を焼却していく。うわぁ、魔物は死体が残らないとはいえ、バンバン消えていくよ。
エリシアの魔法は強力だなぁ。それに……魔物には知性がなくても、生き物である限り本能が火を怖がっている。燃え上がる何本もの灼熱の火柱に、後退り……背を見せ、逃げていく。
だが……
「逃がさない、よ!」
逃げる魔物の背中に、鋭い矢が突き刺さる。それはサシェの放った矢であり、一本打ってから次の矢をセットするまでの時間も、短い。
さらに驚くのは……サシェは、複数の矢を同時に打てるということ。今だって、弓に三本の矢を構え……打つ。すると、面白いことに三本の矢は、それぞれ別々の魔物にヒットする。
逃げる魔物を、一匹残らず仕留める。それが狩人たるサシェの力だ。
「! 魔法!?」
しかしそこへ、強大な黒い玉が放たれる。大きさはバスケットボールほどだが、わかる……あれは、ヤバい。邪悪な闇の力を感じる。当たれば、あの集落なんか吹っ飛んでしまうほどの。
エリシアの対応もサシェの対応も、もう間に合わない……
「ふっ……!」
が、突如として黒い玉が消滅する。それはなぜか……答えは、一つだ。
「ボルゴ!」
「あ、っぶなぁ……」
そこには、ボルゴがいた。彼が持っているのは、ただの板。だがボルゴの手にかかれば、ただの板も魔法を防ぐほどの盾となる。
強大な魔法は、ボルゴの盾により消滅した。そして、その魔法を放ったのが……
「魔獣……!」
まさか、ここに現れるとは思わなかった! 周りの魔物よりも、一際大きな獣……魔法を扱える魔物、それが魔獣だ。
魔物よりも知性があり、それでいて魔法を駆使してくる厄介な相手だ。それに、魔物よりも耐久力もある。もしも一人で対峙したら、苦戦する相手だろう。
そう、一人ならば……
「グレゴ、行くよ!」
「わかっている!」
巨体を揺らす魔物の懐へと潜り込み、狙いを定める。エリシアやサシェも遠距離からの援護はしてくれるが、矢も魔法も効いていない。
やはりこいつにダメージを負わせるには、エリシアの上級魔法か……それか……
「こいつでぇ!」
二人が魔獣の気をそらしてくれたおかげで、私は楽に魔獣の腹に拳を打ち込む。しかし、魔物を吹っ飛ばしたのと同じそれは、魔獣を後ずさることすらさせてくれない。
硬い……けど、この程度なら!
「でぇえええや!」
倒せないまでも、動きを数秒、止めることはできる。その隙をついて今度はグレゴが、魔獣の体を一閃する。
切り裂けないまでも、魔獣の体には確かに刀傷があって……グレゴが、この三日間で確実に腕を上げたことが実感できる。
だが魔獣も、やられてばかりではいない。体に電撃をまとわせ、私とグレゴを無理やり振り払う。危なかった、あと一歩遅かったら全身しびれてた。
このままじゃ触ることもできない……けど、この程度の相手、突破できなくて世界なんて救えるもんか!
「ほぉああ!」
私は地面を思い切りぶん殴り、亀裂を生み出すことで魔獣の足場を崩す。予想通り魔獣の体勢が崩れ、グレゴとアイコンタクトをとる。グレゴは、小さくうなずくと……
「こいつで……とどめだ!!」
体勢を崩した魔獣は、集中力を切らしたのか体の電撃が途切れる。その隙を狙い、グレゴは地面を伝い、割れた地面を飛び、驚くべき脚力で魔獣の上空へと飛び……
振りかぶり、渾身の力を刀身に込め…………振り下ろした一振りは、魔獣の首を真っ二つに切断した。
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