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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
世界への反逆者 ~英雄と師~

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【番外編】三倍返し期待してるから:下



 やって来たホワイトデー当日。もちろんこの世界にはホワイトデーもバレンタインデーもないため、私が勝手に記念日としただけだ。今日が三月十四日なのかも、そもそも何月何日なのかもわからない。


 よって、バレンタインデーとしてチョコをあげた日から、一ヶ月後の今日、ホワイトデーとしたわけで。



「チョコー!」



 サシェは、ついに貰える三倍返しに、期待が大きく膨らんでいるようだ。



「……!」



 エリシアも、平静を装ってはいるが表情を隠しきれておらず、そわそわした様子だ。わかりやすい子だ。


 そういう私も、期待はしている。私は基本、イベント事が好きなのだ。単に、この世界に召喚されたのを『魔王を倒すため』という味気ないものにしたくない。


 仲間と、友達と、楽しいことをしたい。だから、こういう企画をするんだ。



「楽しみだなー。いつもらえるかな!」


「まーまー焦る必要はないよ。今日はまだ始まったばかりなんだし……」


「あ、ボルゴにターベルトさんだ」



 噂をすれば、というやつだろう。エリシアの指す方向に、二人が歩いてくるのが見える。


 ……手元には、なにも持っていない。



「まあ、まだ今日はこれからだし……」


「おー、アンズにエリシアにサシェ、三人揃ってたか。ちょうどいい。三人とも、一緒に来てくれ」


「へぇ?」



 若干残念に感じていたが、師匠からいきなり来てくれと言われる。しかも、返事を聞く前からどこかへと歩きだし、有無を言わせぬ姿勢だ。


 ボルゴはと言うと、着いてくるよう目で訴えている。まあ、師匠のことだし変なところに連れていかれはしないだろうが……



「行こっか」



 着いてこいと言うのなら、素直に着いていくとしよう。それに、この方角はおそらく……


 歩いている途中も、師匠やボルゴに目的地を聞いてみるが、着いてからのお楽しみ、と言って教えてくれない。まあ、教えてくれなくても、目的地に大体の予想はつく……



「よし、着いたぞ」


「やっぱり」



 着いた先は、予想していた通り……城だ。向かう方角がそうだったし、こんな大きな城が近づけば嫌でもわかる。


 今日、わざわざ城に、師匠が連れてきた理由。それは……



「今日はアンズの言う、ほわいとでーなんだろ? ウィル王子も気にしてて、せっかくだからお返しを城でしようってことになってな」


「お返し!」



 師匠の言葉に、サシェが目を光らせる。やっぱり、現金な子だなぁ。


 城で、ホワイトデーのお返しをしようだなんて。まあ、ウィルが城から街に出たら、それだけで大騒ぎになっちゃうから仕方ないか。


 城ならば、私たちを招く形にはなるが、周りに気取られることもないしね。



「わざわざ来てもらってすまないね、アンズ、エリシア、サシェ。ターベルト、案内ありがとう」



 城に着き、さらに案内されたのはウィルの部屋。私がこの世界に召喚された部屋でもあるため、私にとっていろいろと因縁のある部屋だ。


 部屋には、椅子に座っているウィル。傍らに何人かの兵士がいて、そこにグレゴもいる。



「グレゴ、なんでここに……まさか、なんかしたの?」


「してないわなんだいきなり!?」



 まあ、迎えに来たのが師匠とボルゴだけだった時点で、グレゴがここにいるんだろうなとは、思っていたけどね。


 こほん、と軽く咳払いをしたグレゴは、師匠の隣へと移動していく。



「さて、三人をここに呼んだ理由なんだけど……」


「ほわいとでーのこと!?」


「ちょっとサシェ!?」


「あはは、そうなんだ。わかりやすかったかな」



 王子相手でも、物怖じした様子もないなサシェは。ま、サシェらしいっちゃサシェらしいけど。


 ウィルは、苦笑いを浮かべている。



「それで、そのほわいとでーのお返しなんだが……実を言うと女性の喜ぶものはいまいちわからなくてな。城の者に聞いても、気持ちが大事とか欲しいものは人それぞれとか言われてしまってな。だから、我々もチョコを作ることにしたんだ!」


「え、つく……えぇっ?」


「作れるん、ですか王子!」


「いや、私はその手の知識には疎くてな。だから、ターベルトに習う形で共に作った」


「師匠に!?」



 ホワイトデーのお返しは、チョコでなければいけない、なんてことはないが……喜ぶもの喜ばないものがわからない以上、同じく手作りというのは結構いい手だ。市販の方がうまい、と言われかねないことを除けば。


 だけど、まさか……お菓子作りとはまっっったく無縁に思える師匠から、よりによってお菓子作りを習うだって!?



「信じられない……」


「それは俺も感じたことだ。だけどなアンズ……ターベルトさんはエプロン、似合うぞ」



 お菓子作りをする、エプロンを着用した師匠か……あんまり、想像したくないな。



「あぁ、王子も含め、ここにいる四人で手作りチョコを作った。受け取ってくれ、三人とも」



 まず、師匠が作ったチョコが出てくる。それは……立派、と言わざるを得ないものだった。チョコで、人の形を作ってある。


 ……作ってあるのだ……チョコで、私の、エリシアの、サシェの形を。



「チョコの銅像、だと!?」



 しかもなんて完成度だ……私たちが作ったのなんて、せいぜいがハート型だというのに。


 形という手間を考えるなら、これは紛れもなく、三倍返した、むしろ三倍以上はあるかもしれない。



「俺からは、アンズ、エリシア、サシェの姿を模したチョコだ!」


「おぉー、すごーい!」


「俺たちも、ターベルトさんに習っていろんな形を作ってみたんだ」


「ターベルトさんほど、うまくはないけどね」



 師匠に続き、グレゴ、ボルゴもそれぞれチョコを差し出す。師匠のような、姿を模したほどのものとは言わないが、とてもこの筋肉ダルマや頼りない男から出てきたとは思えない繊細なものだ。


 さすがにハートの形ではないが、ひし形に楕円、四角いものなどたくさんある。



「これで、ちゃんと三倍返しになってるだろうか?」



 ウィルが差し出してくるのは、なんか所々金粉のようなものがまぶしてある、星形のチョコたち。


 三倍返し、か……なんだか、この四人の男たちが揃って、チョコを作っている姿を想像したら……



「ぷっ……」


「アンズ?」


「あっははは!」



 思わず、笑いが込み上げてくる。いったいどんなお返しが来るかと思っていたけど、まさかこう来るとは……!


 釣られて、エリシアやサシェも笑いだす。男連中は、なにがなんだかわかっていない様子。



「ふふ、なんでもないよ。早速、いただいていいかな」


「もちろん」



 四人のチョコは、どれもちゃんと甘い味がして、おいしかった。師匠のチョコだけは、自分の姿をしていた分少し食べにくかったけど……味は、しっかりチョコだった。


 エリシアもサシェも、満足そうだ。やっぱりこうして、みんなでわいわいするのは……楽しい、な。

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