表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
世界への反逆者 ~英雄と師~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/546

思い出の記憶



『……ンズ……アンズ!』


『ん……あ、あれ……』


『なんだ、寝ていたのか? まあ今日はいい天気だし、このふかふかの芝生のベッドじゃ絶好の昼寝日和だな!』


『えっと……食べるフランクフルトさん、でしたっけ』


『がっはは、そんな間違いをされたのは初めてだ! うまそうだな! ……ターベルトだ、ターベルト・フランクニル。よろしくな、勇者殿』


『……勇者だなんて、そんなたいそうなものじゃないです。なぜか選ばれちゃっただけで、ごく普通の花の女子高生です』


『ハナノ……ジョシ、セイ?』


『こっちの……いや、向こうの世界の話です。こっちじゃ学校なんかも、ないですもんね』


『あぁ、初めて聞いた』


『……で、フランクニルさん。私になにか、用ですか?』


『む、あぁ……まあ用というほどのものでもないんだがな。ほら、この世界に来たばかりで、不安も多いだろう。ここは年上として、いろいろフォローしてやろうと思ってな』


『……フランクニルさんって、結構おせっかい?』


『否定はせん……し、よく言われる。あと、フランクニルじゃなくてターベルトでいいぞ。この先、旅を共にする仲間なんだからな、遠慮せずに呼ぶといい。なんならあだ名つけてくれてもいいぞ、ターさんとか』


『旅、仲間、か……はぁ、なんでこんなことに』


『うむ、あだ名の方はスルーときたか……そんなに、不安か?』


『そりゃそうですよ。なんで、私が……私より、もっと適任がいると思うけど』


『けど、その中からアンズが選ばれたんだ。誇っていいと思うぞ』


『なにを誇るんですか。私は別に、運動が得意ってわけでも勉強ができるわけでもないのに』


『だが、選ばれた。きっと、アンズにしか出来ないことがあるからだろう。アンズだから、選ばれたんだ』


『……』


『よし、立てアンズ。走るぞ!』


『へっ、なんで?』


『考えがまとまらんときは、走るに限る。体を動かせば、頭もすっきりするぞ! ほら、行くぞ!』


『ちょ、ちょっと待ってよぉ!』











 …………


「……ん」



 目を、覚ます。目の前に映るのは、見慣れない天井……いや、壁と言った方がいいか。それも、コンクリートではなく土の。


 今私たちが、身を休めるために利用しているのは……洞窟だ。大きな洞窟があり、そこでいつの間にか眠ってしまったようだ。


 水の精霊であるウンディーネとの戦いからしばらくが経った。今日に至るまで、ウンディーネはおろか他の精霊とも、会っていない。


 その代わりに、魔物なんかとはたくさん会ったけど。鬱陶しいことこの上ないよ。



「ふぁ、あ……」



 壁にもたれていたはずだけど、いつの間にか地面に横になってしまっていたらしい。体が痛い。


 隣では、コアが。少し離れたところではユーデリアが、気持ち良さそうに眠っている。人間型でも、獣みたいに体を丸くするんだな。


 ……体を痛い。のに、夢を見た。久しぶりだ、夢なんて……いや、正確には、悪夢でない夢なんて、か。こんな生活を続けていると、悪夢というジャンルの夢をよく見る。


 殺した人間の、顔を思い出したり……そいつらが、なにか恨み言を言っているのだ。


 だけど、今回見た夢は……悪夢なんかではなく、穏やかな、夢だ。私がこの世界に召喚されたばかりの頃の、何気ない日常の時間。



「……師匠」



 この世界に召喚され、いきなり魔王討伐なんて大役を任せられ、その場でオーケーはしたけど呆然としていた私に、気さくに話しかけてくれたのが師匠だ。


 うざったいくらいに絡んできていたが、今思えば、私を少しでも元気付けようと、してくれたんだろうな。


 ……なんで今、そんなことを思い出すのだろうか。ホームシック、っていうんで、家族のことを思い出すならまだわかるけど。


 ……お母さんやお父さん、あこのことは、思い出さないなぁ。意識的にも、無意識的にも。


 あんまり、幸せだった頃の時間を思い出すと、辛くなるから……かもしれないな。



「……まだ暗い」



 外を見ると、まだ暗く、夜であることがわかった。朝までぐっすり、というわけではないが……不思議と、気分は爽やかだ。


 水の精霊との対峙以来、左手が黒くなる現象は起きていない。もはや、あの出来事は単なる気のせいだったのではないか、と思ってしまうほどだ。


 だけど、ちゃんと、覚えてる。あの嫌な感覚も、なにもかも。



「……寝よ」



 考えても、仕方ないことだ。というか、そんなもの夜の数だけ考えてきた。どうにもならないことを、毎晩自問自答して……結局答えは、出ない。


 答えが出ないことを、考えても仕方ない。寝よう。


 コアの背を枕に、寝転がる。動物の体ってのは、なんていうか……暖かいのだ。ふかふかしているし、たまにこうして枕にさせてもらう。



「ぶぉおおお……」


「ぐがー……」


「……ったく」



 コアもユーデリアも、のんきにいびきをかいている。それが、なんだかおかしくて笑ってしまう。


 このまま寝たら……また、幸せだった頃の夢を見れるだろうか。それとも、今度こそいつものような悪夢を、見るだろうか。


 そんなことを、ぼんやり考える。この世界に来たばかりの頃の、でもいいけど、願わくば、元の世界で幸せだった頃の夢を、見たいな。


 そんなの見てもむなしくなるだけだけど……たまには、幸せな記憶を、思い出しても……バチは、当たらないだろう。


 そんなことを、ぼんやり考える。考えているうちに……いつの間にか私の意識は、眠りへと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ