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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
世界への反逆者 ~精霊との対峙~

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黒く染まる左手



 顔を覆う水は、剥がそうにも掴めず、手はすり抜ける。実体がない水だからこそ、掴むことはできずにただもがくだけになってしまう。


 このままじゃ、息が……続かない。いくら体を鍛えたと言っても、酸素を奪われてはどうしようもない。


 しかも、目前に迫るのは水の針。殴った感じただの水だったが、ただの水を攻撃手段として用いるわけがない。きっと、本物の針のように殺傷力が、高いに違いない。



「がぼ、ぼっ……!」



 避けなきゃいけない。けれど、意識が持っていかれそうになりそれどころではない。こうしてもがいている時間さえ、惜しい。


 水は掴めず剥がせない、魔法を使う集中力を保てるかわからない。となると、できることは……



「んぐっ……んぐっ」



 大きく息を吸い……水中に顔はあるのだから厳密には呼吸をする行為ではなく……つまり、水を、飲む。この水から逃れるには、酸素が尽きてしまう前に水自体を飲み干してしまうのが一番だ。


 それも、水の針が到達するまでのわずかな時間で……



「んぐっ……んっ……」



 水を、飲んでいく。するとその分だけ、顔を覆う水の量は減っていく。飲んでも飲んでも尽きない水なら、どうしようかと思ったが、その心配はないらしい。


 水を飲みながら、水の針を打ち落とす。ただし正確な狙いがつけられない以上、致命傷になりそうな部分だけを避ける形で。



 ザクッ、ズブッ



「んごっ……ぐっ……ぷはぁ!」



 肩に、足に、水の針が突き刺さる。その痛みに顔を歪めてしまうが、水を飲む作業をやめるわけにはいかない。ので、痛みに耐えながら飲み続ける。痛みに耐えながらなにかを飲むっていうのも、思えば初めての経験だ。


 致命傷になりそうな、胸元やお腹への攻撃だけを弾き落とす。おかげでそこに怪我はなく、水を飲み干すことができた。



「うっ……水腹……」



 顔を覆うほどの水を一気に飲んでしまったせいで、水腹だ。溜まってる、体内でたぷたぷしてる気がする。ていうかしてる。


 しかも……基本、本来水は無味無臭って感じだけど、この水は変な味がある。苦いような、(から)いような……よく、わからない味。


 一つ言えるのは、二度と口に入れたくない味ってことだ。



「よもやそのような方法で、防ぐとは」



 驚愕した様子の水の精霊。表情があれば、よくわかるんだけど……のっぺらぼう状態だから、表情を予想していくことしかできない。


 声のトーンからして多分、驚愕している。



「だが、再び防げるか?」



 言うと、水の精霊の上にはまたも、先ほどと同じような水の塊が。何度も、あんなのを作れるのか……これじゃ、また同じような結果になってしまう。


 しかも、水の針が刺さったことで、またも魔法が使えなくなってしまう。つまり、魔力で作ったこの足場も、消えてしまうということで……



「くぅっ……!」



 空中に足場がなくなれば、自然落ちてしまう……そうなってしまう前に、飛ぶ。脚力には自信があるのだ、一気に、水の精霊の所まで!



「なにっ……?」



 まさか私が、一気に飛んでくるとは予想外だったのだろう。それとも、単に人間がこの高さを飛べるはずがないという、決めつけゆえか。


 一瞬呆気に、とられている。



「お前を、直接ー!」



 攻撃を放たれる前に対処したいならば、そいつをぶん殴ってしまえばいい。



「お主ごときが、わらわに触れられるとでも? この世界を滅びに導いている、邪悪な人間が……」


「うる、さい!」



 確かに、水を殴ることはできない。水の針だって、殴り飛ばしたりしたとはいえ、結果的に水に戻り弾けたのだ。物理的に殴れたわけでは、ない。


 それでも、なぜだか……このまま、いけそうな気がすると……そう、思った。その気持ちのままに、拳を振り抜く。



「う、らぁ!!」


「っ!?」



 拳は、水をすり抜ける……かと思われたが、拳には確かに、なにかを殴った感触がある。その勢いを保ちつつ、拳を思い切り動かし……地面へと、水の精霊を叩きつける。



「っ、バカな……」



 自身が殴られたことに、困惑している様子の水の精霊。その動揺を見逃さず、私は水の精霊が叩きつけられた地面に向けて急降下。


 拳を、握りしめる。



「くたばれぇ!」


「! ……お主は……」



 水の精霊の視線が、左手に注がれている。ように感じる。今から自分を殴る手を、ただ見ているだけか。気になり、少しだけ、自分の左手に視線を移す。


 ……左手は、黒く染まっていた。



「……!」



 意味が、わからない。いつの間に? そもそも、なんだこれは。なんで左手が、黒く染まっているんだ?


 これは、ただ黒いのではない……まるで、呪術の腕と同じような、黒さと気配で……



「お主の、体は……」



 水の精霊が、なにか言っている。だけどそれを聞く余裕はもう、ない。急降下する体は止められないし、握った拳は後は、振り抜くだけ。そしてもう、その準備できている。


 車は急に止まれない、のと同じだ。いくら異変を感じ取ったからって、もう動きを止めることはできない。


 そのまま、動く様子のない、水の精霊へ……拳を、振り抜いて。



「ぐっ、ふっ……!」



 その顔面、と思われる場所を、思い切りぶち抜いた。

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