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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
世界への反逆者 ~精霊との対峙~

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本当の姿



「この無礼者がぁ!」



 怒る水の化け物は、湖を大きく波打たせていく。まるで、湖全体が、怒っているかのようだ。


 ……気のせいか、肌に触れる雨がだんだん冷たくなっていっている。体が冷えてきたためだろうか……それとも、この雨自体が?



「っつ……!」



 冷たい、だけじゃない。なんだこの、肌を刺すみたいな痛みは。こんなもの、冷たいから、のレベルを越えている。


 雨を降らせるほどの力を持ち、水を地面をえぐるほどの武器に変える。もしかして、この雨……ただの雨じゃなく、殺傷力を持った雨になってきている?


 もし、この大雨が武器に変わっていっているとしたら……



「っ、厄介な……!」



 なんとか、雨をしのげる場所を捜したいけど……あいにくここは、雨をしのげるようなところなんてない。それに、雨が殺傷力を持てば、どこに隠れようと無駄だろう。たとえば天井を突き破ってきたりする。


 なら、やはり手っ取り早いのは、あの化け物をどうにかすること……!



「ふん!」



 呪術の腕と、水柱が衝突する。腕は水柱を難なく切り裂くが、それでも湖から上がる水柱は無限の数があるようにすら思える。


 思えるだけで……無限なんて、ない。それにこの腕は、あいつの水なんか簡単に切り裂いていく。


 その気持ちに呼応するように、腕は水柱を次々と切り裂いていく。そして狙うは、水の化け物本体。


 雨で体のあちこちが傷つき、血が流れていくが……この程度の痛み、私が味わった絶望に比べれば、点で大したことはない。



「この……忌まわしき、呪術め……!」


「貫けぇ!」



 ズボッ……!



 呪術の腕は……ついに、水の化け物の本体を、貫く。それにより水柱の動きは停止し、あれだけ降りしきっていた雨がやむ。


 それは、こいつに致命傷を与えられたということだろうか……それを証明するように、水柱はその形を失い、元の水へと戻っていく。それは、本体も同じこと。


 あれだけ異様な姿を見せていた湖が、あっという間に元の姿へと戻った。呪術の腕の一刺しで、本当に……終わった、のだろうか。



「……やはり、それは忌むべき術。貴様はなぜ、そのような術を使っている」



 ……いや……声が、聞こえる。さっきまでのおっさんの声ではなく、女の人の、声。きれいで澄んだ、女の声だ。


 それは、どこから聞こえているか……探すまでもない。その声は、ちょうどさっきまでおっさんの声を発していた、その湖から聞こえてきたのだ。


 湖は小さく波打ち、再び姿を変えていく。ただし、今回は先ほどとは違う形で……人ほどの大きさで、人のようなシルエット。澄んだ水なだけあって、それだけで見とれてしまうほどに美しい。


 手足、頭、そしてその表情まで……水でありながら、はっきりとそれだとわかる形に、成っていく。



「……それが、本当の姿?」


「本当の姿など、わらわにはない。この姿も、先の姿も、どちらもわらわであり、どちらもわらわではない」



 ……なんかむつかしいことを言ってるが……要は、好きな姿に成ることができるから本当の姿がどれかなんて、本人にもわからないってことだろう。


 姿はともかく、声まで変わるのは訳がわからないけど。それとも、自分で変えているのか。



「本当に、水の精霊ってやつだったんだ」


「ようやく信じたようだな。それとも、この姿がお主の言う水の精霊なのか? だとしたら、お主は姿形でしか物事を見極められない、あわれな人間ということだ」



 好き勝手、言ってくれるなこいつ。まあ、さっきの変な要領を得ない形したおっさん声よりも、こっちの方が断然説得力があるのは確かだ。


 どうせなら、初めからこの姿でいてくれればよかったものを。



「ま、いいや……ずいぶん好きに、やってくれたね。このお返しは倍返しじゃ済まないよ」


「すでに満身創痍のお主が、まだ抗うと? 無駄なことだ」



 雨はやんだ……のに、なぜだかまだ魔法を使えない。つまり、先ほど雨に身体中をやられてしまったせいで、全身血まみれ状態。回復もできやしない。


 それとも、雨に当たっている間だけじゃなく……雨に濡れてしまったのが原因、とか? 水が乾かないと、魔法は使えないのだろうか。


 ……今は、いいか。どうせ一生魔法が使える訳じゃないんだろうし。



「満身創痍、か……見た目は、ね。けど、見た目よりダメージは感じないし……水の精霊ってのも、大したことないね」


「挑発のつもりか……安い挑発だ。だが、人間の分際でわらわを挑発するなど、それだけで万死に値する」



 水の精霊……ウンディーネと名乗るこいつは、精霊が人間より高位な存在であると決めつけているらしい。ま、精霊なんてよく知らないし、私にとってはどっちでもいいんだけどさ。


 ただ、その偉そうな態度は、鼻につく。



「その安い挑発に乗ってやろう。その軽い口でわらわを侮辱したこと、後悔するがいい」



 ついに、ウンディーネが動きを見せる。また、さっきみたいに水柱で攻撃してくるのか……それとも、別の手段で? とにかく、湖への注意は怠らない……



 ざわっ……



「ん……なに、これ……!」



 急に感じる、違和感。その正体はなんであるか……確認する前に、異変は起きる。体から流れていた血が、形をもって動きだし……まるで紐のように、私の体を縛っていく。


 これは……血を、操っている? いや、血って言うよりも……



「わらわは水の精霊、ウンディーネ。この世のすべての水分はわらわのもの……たとえ、お主の体から流れるものであろうとな」



 水を操る……か。つまり、私の血を操っていると言うより、血が水分に分類されるためその関係で操っている、と言った方がいいのか……!

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