【番外編】チョコに想いを込めて:下
チョコ作りのために、チョコの材料を私とエリシアとサシェとで買い揃えた後……私たちは、チョコ作りの肯定に入った。
エリシアはそれなりに料理ができるのは知っていたが、お菓子作りは今までにやったことがないらしく、なかなか苦戦していた。ただ、意外だったのはサシェだ。
真性の野生児だし、料理はからっきしなのかと思っていたが……これがなかなか、器用に作っていくのだ。
どうやらサシェは、野生に生きてきたからこそ、一人でも美味しく料理を作れるように、独学やら人に聞いたりやらで勉強したらしい。
なので、お菓子作りに関してはむしろ、エリシアよりもサシェの方がうまくできていた。エリシアは、どこか悔しそうだったけれど。
「さ、サシェの方が美味しそう……」
「えー、エリシアのもおいしそうだよ?」
「ふふっ」
こうしていると、思い出すな……バレンタインが近づくと、友達と一緒に、チョコを作ったりなんかもしたっけ。下手な子に教えたり、逆に教えられたり……渡す人のことを考えて、わいわいして。
このやり取りも、まるでそのときのような、温かい気持ちになれる。
「なんかいいね、こういうの。私、誰かとなにかを作るの、あんまりしたことなかったし」
出来上がりつつあるチョコを見つめ、サシェが呟く。どうやら、サシェも、そしてエリシアも、同じようなことを考えているらしい。
「そうだね。それも、ばれんたいんってものを教えてくれた、アンズのおかげだね」
「あははー、それほどでも。私だって、エリシアのおかげでずいぶん助かってるよ」
私のいた世界では当たり前のようにあった、チョコを熱するためのガス、水を出すための蛇口など、そういった文明の産物はない。
が、その代わりに魔法がある。私もサシェも魔法を使えないが、エリシアは使える。それも、『魔女』と呼ばれるほどの超一流の魔法使いだ。
火は出せるわ、水は出せるわ……しかも、手早い。から、作業も結構すんなりと進む。
ま、勝手が違うだけで要領は同じだし、全部目分量で計るわけにもいかないから、それなりに慎重さは必要になるんだけどね。
「さて、と……出来た!」
それなりに時間をかけ、作り方を教えたり教えられたりして……ついに、人数分のチョコを作ることに成功する。
うんうん、異世界での初めての料理だったけど、なかなかいい出来じゃないの。
「んん、おいしー!」
「ちょ、サシェ!?」
「味見味見ー」
二人も、それぞれ渡す人たち用のチョコを作り終えたようだし……基本は、渡す人は私とほぼ変わらない。プラスで何人かいるくらいだ。
本当は家族とかにもあげたいんだろうけど、チョコだし日持ちするものじゃないし……それはまた、次の機会に。魔王を討伐して、平和になった後にでもやってもらおう。
作り方自体は、もう二人とも完璧だしね。
「じゃ、早速渡しに行きますか」
三人で、チョコを渡すために目的の人物を探すことに。やっぱり、先に探すのはグレゴ、師匠、ボルゴの三人かな……ウィルは、お城に行けば会えるだろうし。
さてどこに……いや、グレゴならどこにいるかの検討はつくな。あの筋肉バカのことだし……
「ふっ、ふっ……!」
……いた。いつもの平地で、一人で剣を振っている。剣の鍛練は一日でもサボると鈍るから、って理由で、常に剣を振っている筋肉ダルマだ。
予想通り、額に汗流してトレーニング中だ。しかも、その傍らにボルゴまでいる。
「いやー、精が出ますな男性諸君」
「……アンズ? なんだその芝居がかった台詞は」
チョコを入れた袋を手に、二人に話しかける。自分でも思ってたが、妙に芝居がかった台詞にボルゴはともかく、グレゴは不思議そうだ。
あまり突っ込まれないためにも、さっさと用事を済ませてしまおう。
「はい、これ」
「……なんだ、これは?」
「アンズの世界では、お世話になってる人にチョコをあげる日があるんだって」
グレゴとボルゴに、それぞれ渡す。紙袋に包まれた、チョコを。……すごいや、彼氏に渡すときはあんなにドキドキしたのに、この二人相手だとすごく普通に渡せる。
「じゃ、もらっていいのか?」
「当然でしょ。じゃないと作った意味がないもんね」
「う、うん……ほ、ほら、私もあげる」
「私もー」
「あ、ありがと……」
それぞれが二人に、渡していく。若干照れた様子でグレゴにチョコを渡すエリシアと、サシェから嬉しそうにチョコを受け取るボルゴが印象的だった。
「さ、食べて食べて」
「い、今か?」
「じゃないと溶けちゃうから」
ということで……グレゴとボルゴは、包み紙を剥がし、チョコを……
……食べた。
「ん、うまいな」
「ホントだ、おいしいよ三人とも。ありが……」
「食べたね?」
「食べたわ」
「食べた食べた」
美味しいと言われることに、嬉しさはやはり感じるが……それよりも、二人がチョコをちゃんと食べたことを、確認。
「はい、これで三倍返し決定!」
「さっ……な、なんの話だ!?」
「エリシアが言うように、確かにこれは、お世話になった人にチョコを渡す……それも女が男に。そしてチョコを貰った男は、後日三倍返しをしないといけない決まりがあるのよ!」
「なにぃ!?」
今二人は、チョコを食べた。なので、もう言い逃れはできない。聞いてなかった、と言っても、チョコを食べたことに違いはないのだから。
がっくりと肩を落とす二人。それでも、美味しいからかチョコは食べ進める。
「じゃ、次は……師匠どこにいるか、知らない?」
「あぁ……ターベルトさんなら、城だよ。王子に話があるって」
「わぉ、いいタイミング!」
師匠が城に、ウィルに用事があるのなら、今二人は一緒にいるってことだ。これは好都合。
そんなわけで、城へと向かう。師匠は今、ウィルの部屋にいるということで、そこへと通してもらい……
「ししょー、いつもお疲れ様!」
「おぉ、なんだ?」
師匠へ、チョコを手渡す。単に老け顔のグレゴと違って、師匠は年齢もそれなりだから、まるでお父さんにチョコを渡しているみたいだ。
困惑する師匠に趣旨を説明し、ウィルにもチョコを渡す。
「ほぉ、ありがとうな。三倍返し、期待しとけ」
「おいっ、なんでターベルトさんと王子には食べる前にばらすんだ」
「だって二人なら、ちゃんとお返しくれるでしょ?」
それに私にとっては、師匠はこの世界で一番お世話になっている人だ。戦い方を教わり、心意気を教わり、人とのつきあい方を教わり。
だから、師匠には隠し事はなしだ。
「まさか、チョコを貰えるなんて」
「王子さまの三倍返し、期待してますよ?」
「アンズ、お前……」
「あっはっは!」
笑い声が、響く。師匠もウィルも、チョコを美味しい美味しいと食べてくれた。チョコ作りは、成功だ。
こうして、また……三人で、なにかを作るっていうのも、いいかもしれない。ううん……三人だけじゃなくても、みんなで、ワイワイやれることが……とっても、楽しいんだ。




