表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

196/546

運は尽きてない



 ザクッ……!



 背中に、痛みが走る。それも、少々の痛みではなく、それも一瞬ではない。背中に刺すような……文字通り鋭利な物が、次々と突き刺さっていく。


 一応、念のためにと背中方向に渾身の魔力を込め、壁を展開したけど……迫り来る無数の剣を防ぎきるには至らず、壁を割り背中へと、突き刺さる。



 ザクッザクッ、ズッ……!



「ぐ、ぅっ……!?」



 いちいち嫌な音を立てて、背中に一本、また一本と突き刺さっていく。それを防ぐ術はもはやなく、ただただ背中で受け止めるのみ。


 背中を貫き、腹部にまで貫通しているのが、わかる。腹部にまで貫通する……それはつまり……



「がっ、あぁ……ぁぐっ……!」



 私を逃がさないように抱き締めているグラジニにも、剣が突き刺さっているということだ。私の背中を貫いた剣は、腹部に届き、密着しているグラジニの腹部にまで達する。


 まさに、自分の身を犠牲にして、だ。



「ぅ、ぐっ……いっ、つ……!」



 口から、血が流れる。自分で抑えようと思って、抑えられるものではない……声が、腹の底から絞り出される。


 今自分の姿がどうなっているのかわからない。けど、見るも無惨なものには違いないだろう……背中に無防備に剣を受けている、姿なんて……


 ……あ、やばい……ちょっと意識が、ぐらついてきたかも。別に油断してたわけじゃないけど……まさか、ここまで捨て身の手に出るなんて、思いもしなかった。


 さすがに、無防備な背中にこうも剣を差し込まれては、このままじゃまずい……



「グルルルァ!」



 ……あぁ、なんか寒くなってきたかも。これはあれかな、放っといたら死んじゃう的な、危ないやつかもしれないな。でもなんか、寒いし、眠くなってきたような……



「……あれ?」



 寒さを感じる……しかし、その直後から、背中に感じていた痛みを感じない。いや、痛み自体は今も感じているけど……


 次々剣が突き刺さってくる、あの痛み。加えられる痛みは、なくなっている。これは、なんで……



「ったく、だらしないな」



 途切れそうな意識の中でも聞こえる、どこか小生意気で偉そうな声。その声の主は誰か、見なくてもわかる。ってことは……


 この寒いのは、私の感覚的な話じゃなくて……実際に、寒いのか。ユーデリアの、冷気によって。


 耳を済ませば、辺りを吹雪いている風の音とは別に、ガシャンガシャン、という金属がなにかに当たる音も聞こえてくる。


 おそらく、さっきユーデリアがやっていたように、無数の剣を凍らせ、地面に落としたのだろう。だから、剣による追撃もなくなった。



「お、のれ……じゃま、を……!」



 グラジニ、まだ、生きてるのか……私が言えた台詞でも、ないけどさ。


 とはいえ、こいつも虫の息だ。ただでさえ腹に腹が空いていたのだ、無理もないだろう。



「離れ、ろ!」


「うぅ!?」



 動きが、止まった……ならばいつまでも、このおっさんに抱きつかれているわけにもいかない。


 力押しに、突き放す。その際、私の背中から貫通してグラジニの腹部に突き刺さっていた剣が、抜ける。生々しい音を立てて、剣の切っ先を血に濡らして。



「かはっ、あ、ぁ……!」



 剣が抜かれたことにより、剣が突き刺さっていた場所からは血が吹き出す。痛々しい……身体中に、もはや穴が空いている風だ。


 まあ私も、まだ剣が突き刺さったままでひどい有り様になってるんだけど……ただ、剣が背中だけで首や頭に刺さってないのが、不幸中の幸いか。


 急所に突き刺さってしまえば、さすがに痛いでは済まない。即死だってありうるのだ。この状態だって、たまたま心臓の位置から外れてはくれたものの。


 ……たまたま、か。あれだけの剣が降ってきて、突き刺さって、急所はなんとか避けていた。……こんな私でも、まだ運ってやつは尽きてないらしい。



「はぁ、はぁ……っ」


「おいおい、大丈夫かよ」



 大丈夫か……か。正直、今にも倒れてしまいそうだ。なんせ、背中に何本と突き刺さった剣が、腹部まで貫通しているのだから。


 血を、流しすぎたか……この場合、回復魔法でダメージは回復しても、血まで戻るわけじゃないから、くらくらするんだよな。


 そう、いくら重傷でも、死んでなければ回復魔法で治せる……今は、痛みで集中できそうにないから、無理だけど。せめて、痛くなくなるまで時間をかけるか、手っ取り早くこの剣を抜くかしないと。


 幸いなのは……剣が突き刺さっていることで血が吹き出るのを防いでいること。そして、先ほどまでの冷気により、傷口が凍り必要以上に血が流れないこと。



「そ、れでまだ、生きている、のか……化け、ものめ……!」



 身体中に剣が突き刺さっている私とは対称的に、身体中に穴が空いているグラジニ。生きているのか、とお前にだけは驚かれたくないが……


 もう、この男に抗う力は、残っていない。私はゆっくり、近づいていく。



「化け物、か……それも、悪くない、かもね……」



 ここまでされて、まだ生きている……今までも化け物と言われることはあったが、これは本格的に認めざるを得ないかもしれないな。


 元英雄、化け物……好きに、呼ぶといいさ。



「安心してよ。村人も全員、あなたのところに送ってあげるから」



 手を、振り上げて……



「……くそっ」


「だから……じゃあね」



 思い切り、振り下ろした。



 ザシュッ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ