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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

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呪術と呪術



 『呪剣』により暴走したレバニル。その最期は、あまりにも悲惨と言う他ないものであった。


 その体は、まるで液体のように溶け……数秒と経たないうちに、原型を歪めてその場に流れていった。


 そこに残ったのは、レバニル"だったもの"……液体となり、地面を汚していくのみだ。あれを液体と表現してはいるが……人が溶けたものなのだ。なんと表現するべきか、いまいちわからない。


 正しい表現があるのかすら、わからない。



「ぅえ……」



 その光景を見て、ユーデリアはあからさまに顔を歪めている。いや、気持ちはわかるけども……少しは隠そうよ。気持ち悪い、と顔に書いてある。


 故郷で散々な景色を見てきたユーデリアだろうが、さすがに人が溶ける姿を見たのは初めてだろう。私だってそうだ。



「あれも、『呪剣』の代償……?」



 レバニルがあんな最期を迎えた理由として、考えられるのは『呪剣』を使用した影響だ。『呪剣』は剣自体の能力も強力だが、その使用者にも影響を与える。


 私が初めて会ったコルマ・アルファードがそうであったように。あの男は、体が丈夫になる、というものだけだったが。あの変態的な言動は、多分元からだろう。


 体が丈夫になる、とは言うが、言ってしまえばゾンビみたいなものだ。いくら倒しても、立ち上がってくる。だから、動けなくなるまで潰すしかなかった。不気味だったが……本人への影響は、実はあまりなかったと思う。


 しかし、レバニルは……暴走した挙げ句、あんな最期を遂げた。『呪剣』を使用した期間の問題か、それとも使用者の精神力の問題か、はたまた『呪剣』の種類により使用者にもたらす影響が違うのかは、わからないけど。


 ともかく……今、目の前で起こったことが、現実だ。わからないことを考えても、仕方ないことだ。



「……で、あの剣はどうすんの」



 村人は、放っておいても問題ない。ただでさえ脅威になり得ないのに、レバニルの死に放心してしまっている。当然と言えば当然だが。


 よって、残る脅威はあの『呪剣』のみ。たかが剣一本、動き回るだけのそれと油断するわけには、いかない。


 斬られるだけでまずいのだ、ここは慎重に……



 ドクッ



「んっ……!?」



 しかし、そう考えた瞬間……胸の奥が、熱く脈打つ。右肩に違和感を感じ、腕のあった切断面から、なにかが生えてくる感覚がある。


 それは、初めての感覚ではない。それは、何度か味わったことのある感覚。どす黒いなにかが、生まれる……



「……こんな、ときに……」



 先ほど相性の悪い魔物を相手にしていたとき、現れろと願っていた呪術(うで)が、今になって……! やはり、私の意思なんてまったく気にしてくれないらしい。


 私の右腕から、どす黒い腕の形をした呪術が、生えてくる。それは、私以外には見えない不可視の腕。



「ちょっ……」



 しかもその腕は、私の意思とは関係なく動き回る。その例は今回にも(たが)わず、空中を飛び回っている『呪剣』へと伸びていく。斬られたら、その場で消滅してしまうというのに……!


 いや、もしかしたら……呪術(うで)の部分だけ消してくれるとか、そういったご都合的なものは……考えない方がいいな。この腕には、ちゃんと痛覚だってある。千切ろうとすれば、痛みを感じる。


 よって、この腕は私の体の一部と考えている。呪術(うで)の部分だけでなく、体ごと消え去ってしまう可能性が高い。


 可能性、じゃ済まされない。斬られれば即消滅なんだ、こうして考察している時間すら惜しい! だから、せめて言うことを聞いてほしいのに……!



「く、ぉ、この!」


「……なにやってんだ?」



 『呪剣』へと伸びる腕を、なんとか引き戻せないかあれこれ試すものの、そんなものでうまくいくはずもない。それどころか、腕が見えないユーデリアには、変な動きをしているように見られるばかりだ。


 その間も、呪術と『呪剣』はついにぶつかり合い……



 ガギンッ



 振り下ろされた『呪剣』の斬撃 を、受け止める。真剣白羽取りの要領で、片手だけで。なんとも器用な腕だが……消えていない。あくまで斬られていないから消えないのか、それとも同じ呪術同士だからか……


 その後も、『呪剣』と腕との攻防は続いていく。続いていくとはいっても、振り下ろされた剣撃を受け止めるか、避けるかだけど。


 ただ……攻防が起こっているとわかるのは、腕が見える私だけ。ユーデリアにとっては、ただ空中で剣が勝手に動いているだけだ。



「なんであの剣、あんな変な動きをしてるんだ……ま、いいや」



 空中で変な動きを繰り返す剣は、ユーデリアにとっては隙だらけにしか映らないだろう。その隙を狙い、冷気を放つ。動き回られなければ、すぐに冷気の餌食、凍ってしまう。


 ……そのすぐ傍にある呪術の腕も、果たして凍ってしまうんだろうか。凍ったとして、それは他の人にも見えるようになるんだろうか。



「……!」



 しかし、思い通りに凍ってはくれない。『呪剣』は飛ぶ斬撃を放ち、迫り来る冷気へとぶつける。すると、冷気が消滅していくではないか。


 あの力……人以外にも通じるのか。それも、魔法とも違う冷気まで。



「ちっ、うっとうしいな!」



 ユーデリアは次々に冷気を放つが、そのどれをも斬撃で打ち消されてしまう。空でも飛ばない限り、あの剣には届かない。


 そう……空でも、飛ばない限り。



「よしっ」



 目の前で起こる光景に、私は小さくガッツポーズ。ユーデリアには見えないだろうが、呪術の腕は一瞬の隙をつき、『呪剣』の刀身を握りしめた。


 そして、力を加え……刀身を、砕き割った。



 パキンッ……!

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