表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/546

流れる涙は誰のもの



 全身ではなく、半身が凍っていくガルバラの体は、地面に接している部分としっかり膠着(こうちゃく)しているため、どれだけ力を入れても動けやしない。


 そもそも、すでに動けるほどの体力は残ってないだろうけど。



「……なんで全部凍らせない?」


「なんか話してたんじゃないの?」



 他の村人同様、全身を凍らせないのは……どうやら、ユーデリアなりに気を遣っていたらしい。まだ会話の途中だろうと、思わぬ気遣いだ。


 確かに、ガルバラの前でエルドリエを死の淵まで追いやって、その反応を見てはいたけど……聞きたいことも聞けたし、もはや、話すことはなにもない。



「や、もういいよ。そのまま凍らせちゃっても」



 別に私は、殺し方にはこだわらない。私自身の手で殺そうが、ユーデリアが氷付けにしてしまおうが、どうだっていいのだ。そこのところ、もしかして誤解してないだろうかこの子は。


 殺しの方法にこだわるほど、私は変人じゃない。



「きさ、まら……かなら……うらんで……や……」



 ピキパキ……!



 私たちに対する恨みをぶつけながら、ガルバラは今度こそ全身を凍らせていく。まるで、キンキンの氷に水を注いだときのように……パキパキと音を立て、身を凍らせる。


 絶望、悲しみ、困惑……村人たちが浮かべるそのどれの表情とも違い、ガルバラは、怒りの表情を浮かべていた。


 最期本人が言っていたように、本当に恨みを遺していったかのような、般若みたいな表情を。



「……ぶっ!」



 ガルバラが完全に凍り終えた直後……ひときわ大きな声が上がる。それは命のカウントダウンが迫るエルドリエのもので、瞬間に口からまるで噴水のように、血が吹き出す。


 ふっ、と息を吹くようなわずかな時間……吹き上がった血が重力に従い地面に落ちると、血の雨はエルドリエの顔を濡らしていく。


 ……エルドリエの目からは、光は失われていた。胸に風穴が開き、それでも微かに生きてはいたエルドリエ……終わりゆく命の鼓動を感じながら、その中でもがけない無力さにうちひしがれ、ついに彼女は命を落とした。



「……終わった、か」



 ズキンッ……と、少しだけ左目が疼いた。疼いて、なんだか目の前の景色が歪んできて、頬を温かいものが伝っていく。これはなんだろうと、そこを触れると……指先は、濡れていた。



「なんで、泣いてんだ?」


「さあ、なんでだろ……」



 これがなにか、言われないでもわかっている。頬を濡らすこれは……左目から流れた、涙だ。


 私の意思とは関係なく、涙は流れてくる。この涙は誰のもの? ……きっと、これがエリシアのものであるのと関係しているのだろう……証拠に、涙が流れるのは、左目からだけだ。


 私自身、悲しくもなんともない。だけど、不思議と涙は出る……しかも片目だけ。不思議な感覚だ。



「問題ないよ。きっと、じきに収まる」



 魔力の抵抗があったり、突然涙が出てきたり……まるでエリシアの意志が残っていると思われる左目。実際にそんなファンタジーなことはないとは思いたいが、そもそもこの世界がファンタジーだし……


 ……とはいえ、私がいた世界だって、そういう不思議な話は聞いたことがある。臓器移植をしたらその前と後で食べ物の好みが変わったとか、性格が変わったとか、経験していないことを経験していると思うようになったとか……


 そういった、不思議なことは実際にもあるらしい。だから、ファンタジーな世界に関わらず、左目にエリシアの意志が残っているのはあり得る話なのだ。


 まあ、目玉を食べてその影響で、その目玉が自分のものになる、なんてのはファンタジーだと思うけど。



「……エリシアの故郷、か」



 ユーデリアの時とは違い、今回は意図せずエリシアの故郷に来てしまった。そこで得たものは決して多いわけではないが、重要なものでもある。


 この先出てくるかわからないけど、かなり珍しいものに間違いない魔導具……それに、この腕の正体が呪術だと知れたのは、大きな進歩だ。嬉しくない進歩ではあるけど。


 まったく、この腕といい『呪剣』といい……私は、呪術ってやつに縁があるよな、まったく嬉しくないことに。しかも呪術は、ユーデリアの故郷である氷狼の村を滅ぼした一端でもある。


 『呪剣』にしろこの腕にしろ、私はユーデリアに、私が呪術に関連していることを話してはいない。話してどうなるものでもないし……そもそもユーデリア自身、過去に故郷で起こった出来事に関係しているのが"呪術"だと認識しているのか謎だ。


 ……もしユーデリアが呪術を認識していて、恨んでいて、私も呪術に関するものを使っていることを知ったとして……それでユーデリアに敵意を向けられて、殺されることになったとしても、私は……



「どうかした?」


「ん、なんでもないよ」



 まあ、そのときはそのときだ。私自身、自分がどうやって死ぬかなんて考えてないけど……もし殺されるってなったら、ユーデリアがいいかな。


 なんて、柄にもないことを考えながら私は……もう私とユーデリア以外生者のいなくなった村を、見回す。マルゴニア王国ほどではないにしろ、村全体が氷付けになっており、ユーデリアと戦っていたであろう村人の氷像がそこらにある。


 それら以外も、子供や年寄り……戦いには参加せず、ただ巻き込まれただけの人たちも氷付けに。よほど、ユーデリアの冷気が強力だったのだろう。


 このまま永遠と氷付けのまま、終わりが来るまでの時を過ごして……



「……そういえば、いつか溶けたりしないの? せっかく氷付けにしたのに、割らずにそのまま放置してきちゃったけど……」



 いくらユーデリアの冷気が強力とはいえ、永久的に氷付けになるとは考えにくい。そうなると、氷はいつか解け、人が復活してしまうのではないか。


 マルゴニア王国のように、国を覆うほどの雪が降り積もるなら、話は変わるだろうけど……



「あぁ、それなら問題ないよ。少しの衝撃だけで……」



 答えるユーデリアの台詞を遮るように、その場にビュッ、と強い風が吹く。すると、近くからパキンッと音が聞こえて……


 ……氷像となったガルバラは、粉々に砕けていた。



「……こういうこと。今の風みたいな、ちょっとした衝撃で割れるから」


「なるほど」



 今吹いた風程度で割れてしまうほどに、脆い。ならば心配はいらないな。例えば地震なんが来たら、一発で全部割れてしまうだろう。


 この世界に地震があるのかは、知らないけど。



「……」



 いずれ、ここに残るのは氷付けになっていない、冷たくなったエルドリエの死体だけ。だけど、みんなと一緒に逝ったんだ……寂しくは、ないよね。


 最後にエルドリエの体を見つめ……ようやく涙の止まった左目をぎゅっと瞑り、背を向ける。涙は止まっても少しだけ疼く左目を、隠すように眼帯を巻いて……もうなにも見せないために、覆い隠した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ