第15話 この世界を好きになる
旅の道中では、野宿をすることが多かった。旅なのだから帰る家があるはずもなく、その日を屋根もない空の下で過ごすということは多々あった。
「えぇ、野宿ぅ?」
「こんなとこで寝るのぉ?」
外で寝たことなどなく、ましてや魔物がうろうろしている危険な地帯で寝ることに抵抗のあった私や、同じく野宿に抵抗感のあったエリシア。私には元の世界じゃ暖かいベッドがあったし、エリシアだって外で寝るほどの生活はしてこなかったはずだ。
はぁあ、家が恋しいよぉ……
「心配ないない! 任せて!」
そんなときに、みんなを引っ張ってくれたのはサシェだ。野生の中で育った彼女は、むしろこういう風に外で夜を明かすということが多かったようだ。なので、私たちに野宿の知識がなくても、彼女の知識が役立ってくれた。
サシェが面白おかしく野宿の楽しさを語ってくれたから、初めての野宿にそこまでの嫌悪感は感じなかった。サシェってば今まで野生の中で育ってきたから人とのコミュニケーションに難ありと思っていたら、全然そんなことはないんだもん。
「くんくん……うん、これは大丈夫!」
なにより驚いたのが、サシェの嗅覚だ。これは野宿の時以外でも活躍したサシェの特技(?)なのだが、なんとその辺の木に生えている木の実や道端の草、川を泳いている魚ですら、サシェの鼻によって食べられるかそうでないかを判別することができる。
最初はそりゃ疑わしかったが……
「さ、サシェが食べられるって、言うなら……」
と、第一にボルゴが毒味……でなくて味見をしたことで、安全性が証明された。
サシェ曰く、これは自然と身についたものであるらしい。や、野生児って恐ろしい……
外で寝るときに気を付けること、魔法を使わなくても火をつけられる方法、自然の中で簡易的な草ベッドを作る方法……この旅は、サシェがいなければ一日目から詰んでいたかもしれない。
もちろん、毎日毎日が野宿というわけではない。食料調達や情報収集のために、いろんな村や集落、街や国に訪れた。そこでは、私たち勇者パーティーのことはすでに伝わっていたようで、どこでも手厚い歓迎を受けた。
人々からもてはやされるというのは、ぶっちゃけ悪くなかった。そこでは豪華な食事をいただいたり、暖かいベッドで一夜を過ごしたり……目的が物騒だけど、旅も悪くないなと思う。
「はー……こうしていろんなところを巡って、いろんな人たちと出会うと……この世界、守らなきゃって思うよ」
いつしか私は、そんなことを思うようになっていた。最初は、ただ元の世界に帰るために魔王を倒さなければいけない、と思っていた。
けれど、この世界で……マルゴニア王国で三ヶ月を過ごし、旅に出て、いろんな場所で、いろんな人たちに出会って。本当に、この世界を救いたいと、いや救わなければいけないと思った。
もちろん、いい人ばかりがいるわけではない。中では歓迎されない場所や、野盗以外にも私たちのことを罠に嵌めようとしてきた人だって、いた。
それでも、私は……この世界の人たちのことが、好きになっていった。私の元いた世界にだって、いろんな人がいる。みんながいい人なわけじゃないけど、私はあの世界が好きだ。
この世界のことも、私は……ちゃんと、好きになっていった。
「せえぇええい!」
だから私は、この世界に害を成す魔物を、倒す! 奴らは普通の生き物に比べて凶暴で、人間も生き物も問わず襲う。街の外に出て魔物に襲われそのまま命を落とした、なんて話も聞くくらいだ。
魔物は人を襲う……それは確かな事実。なのに、なぜか魔物は人が密集しているはずの街や国には基本的に襲ってこない。その代わり、集落などにはよく襲ってくるようだ。
その違いの理由は明らかになってないが、魔物には知性がないなりに縄張りがあるからそこに近づく、もしくは縄張りの近くに集落を作ったせいではないか、と言われている。
とはいえこれは説の一つに過ぎず、これを知っている者もそう多くはない。なので、大きな街や国には実力のある人間が何人かいる。彼らが門番のような役割をしているから、魔物が寄り付かないのではって見方もある。
結局、正確なところはわからないのだ。マルゴニア王国だけでなく、いろんな国でも。いや、むしろ魔族関係については、マルゴニア王国が一番研究が進んでいたようだ。
「うーん……むつかしいことわかんないー!」
「俺もこういう考え事は好かんなぁ」
勇者パーティー頭使わない組二名は、旅に出る前から魔族について考えることを放棄していた。サシェはともかく、師匠もあまり頭を使うのは得意でないらしい。なのに、戦闘になると恐ろしく頭がキレるのはなんでだろう。
魔族について考え、この世界に住む人々のことを考え……旅に出てから、考えることがいっぱいだ。やれやれ……『勇者』も楽じゃないぜまったく。
「……どんな奴なのかな、魔王」
人々に害を成す魔物を生み出し、この世界を滅ぼすと言われている存在。考えてみれば、私は……魔王について、なにも知らない。まあ、魔物のことすらわからないのに魔王のことはわからないだろうけど。
ファンタジーの中なら、魔王ってのは人の姿をしているものが多い。これは現実とはいえ、もし魔王が人の姿をしていたら私は、ちゃんと魔王を倒せるのか?
……考えても仕方ない。魔王の姿がどうあれ、いずれは……この手で、倒さなければいけない相手だ。そう、この世界を、救うために!
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