魔導具
謎の杖の力により、杖の持ち主ガルバラの魔力が増幅している。まったく厄介なものだ……しかもこの間、呪術という厄介な力と戦ったばかりなのに。
単なる魔法対決なら、負けるはずもない。だけど、あんな風に訳のわからない武器を使われては、確実なものは言えない。
「魔法がある世界だ……なんでもありか」
魔法に呪術に魔物に。なんでもありの世界だ、力を増幅させるなんてチート臭い武器も、あったって不思議じゃない。
……と、のんきに観察してる場合じゃないか。あの杖に、どの程度魔力を増幅させる効果があるのか……それとも、限界がないのか。どちらにせよ、まずは杖を壊す方が先決だろう。
まさか、無制限に魔力を増幅させるなんてことはないと思うけど……確証はない。だから、杖をまずは、壊す!
「へぇ、なかなか面白そうじゃん」
杖の能力にユーデリアも気づいたらしく、笑みを浮かべる。まったく、戦闘狂かよこの子は。
ユーデリアの体から冷気が発せられ、体が人型から獣型へ変化していってるのがわかる。ユーデリアも、そろそろ暴れたくて仕方ないらしいな。
なら、村人の相手はユーデリアに任せる形にして……私は、ガルバラの持つ杖を壊す!
「ふっ……!」
魔力により身体強化を行い、踏み込んだその場から一気に飛び出す。まさにロケットスタート……その勢いを乗せ、ガルバラへと拳を叩き込む。
「むぅ!?」
ゴッ……!
……しかし、拳は届くことなく止められていた。ガルバラ自身の手のひらによって。自分でも、この拳は重いと自負している……それを、止められた。
この男、拳を受け止めるだけの力と、私の動きを追うだけのいい目を持っている。
「ぐ、ぬぬ……!」
「く、ぉ……き、さまのような娘に、負けてなるものか!」
どれだけ力を込めても、押しきれない。けれど、向こうも向こうで、私を押し返せないようだ。
これが、ガルバラの純粋な力のみとは考えにくい……やっぱり、魔力で身体強化をしているんだろう。それも、杖による増幅込みで。
だってあの石、光ってるし。
「! ガルバラさん!」
「野郎、いつの間に……!」
「っ、ダメだお前たち!」
今になって私とガルバラの衝突に気がついた村人たちが、ガルバラに加勢しようと動き出す……が、それを止めるのはガルバラ本人だ。
なぜ、そんなことを? 答えは、一つだ。
「ガルルルァ!」
「!? お、狼!?」
村人たちに襲いかかる獣……ユーデリアがいるからだ。彼が、私に注目していた村人たちの隙をつき、襲う。その体に、冷気を纏って。
狼? ただの狼じゃない……彼は……
「あの外見、体から発せられる冷気……まさか、氷狼か!」
「へぇ、詳しいんだ」
その正体に気づいたのは、私と対峙しているガルバラだ。私の拳を受け止めておきながら、他に意識を向ける余裕があるとは。
「伝説上の生き物とされていたようだが……まさか、実在したとは! しかも、このような形で目にすることに、なるとはな……!」
この世界では氷狼は希少な生き物だ。存在すら知っているのか怪しい人たちもたくさんいるが……少なくともこの村には一人、いた。
「気をつけろ、そいつは氷狼! ただの狼と油断するな!」
「氷狼? なんだ聞いたことねえぞ……」
「さっき、子供の姿をしてなかったか?」
突然現れた謎の生物に、困惑する村人たち……うん、向こうは任せておけば、問題なさそうだ。
問題なのは……
「っ、さっきより、力が……! おっさん、その杖、なんつーチートアイテムよ……!」
「ちーと? なにを言っているのかわからんが……こいつは魔導具だ。はて、そんなことも知らぬのか?」
ペラペラしゃべる……と思ったが、これは知っていて当たり前、みたいな事実なのか? ガルバラは、意外そうな表情で私を見ている。
魔導具……聞いたことは、ある。確か魔力を動力源とする道具、であるらしい。けど、見るのは初めてだ。
エリシアはもちろんそんな道具は使ってなかったし、身近な人も。マルゴニア王国の魔法術師隊ならもしかしたら使ってたかもしれないけど、あんまり関わりなかったしなぁ。
「魔導具、ね……!」
もう一つ。魔導具とは、どこにでもあるものではないらしい。元々その場所にあったものか、誰かが作ったのか……それは知らないが。
ともかく、魔導具一つがあるだけで、こうも変わるものなのか……!
「っ、し!」
ガルバラは、受け止めていた私の手を弾く。くっ……まさか、力で押し返されるとは。
元々の力も強いのだろうが、それが魔力によりさらに増幅させられている。魔力により筋力が、大幅にアップしている。
「せい!」
「くっ……!」
間髪いれずに、今度はガルバラが拳を放つ。とっさにそれを同じように私も手のひらで受け止めるが……
受け止め、きれない!?
「ぐ、ぅううう!」
驚いたことに、その場から吹っ飛ばされてしまう。とはいっても、少し浮いて下がるくらいではあるが……
私は片手で、ガルバラも杖を持っているため使えるのは実質片手。追撃の拳はない……が、それは魔法とは別の話。
私が浮いたその一瞬に、ガルバラは杖によって魔力を増幅させ……巨大な火の玉を、作り上げる。この一瞬で、あんな大きさまで……!
それを、躊躇なく放つ。宙に浮いている私には、それから逃れる術はなく……
ドッ、ゴォオ……!




