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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

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もういいかな



 この母親が、(エリシア)に謝れる時は、もう永遠にやってこない。


 この母子だけじゃない。これまでに殺してきた人間の家族、友人、恋人……それらの繋がりを、私は断ち切ったのだ。


 とはいえ、これは覚悟していたことだ。後悔も懺悔も申し訳なさも、私にはない。



「ごめんなさいね、貴女たちには関係のない話なのに」


「いえ。エリシアのことを聞きたいって言ったのは、私なので」



 この家には、今やエルドリエ一人しかいない。エリシアが村を出た後に、父親は病気で死んだのだという。いくら魔法があろうと、魔法は万能ではない。


 治せないものもある。できないことは、たくさんある。それが、魔法というものだ。


 子供も夫もいなくなり、エルドリエはこの家で暮らしてきた。一人でも暮らしてこれたのは、家が裕福であったおかげであり、なにより村の人たちの手助けがあったからだという。



「村のみんなも、エリシアにはひどいことをしたと思ってる。だから、あの子が帰ってきたときには……」



 ……エリシアの名前が出たときの、村人たちのあの複雑な表情はこれが原因か。エリシアに対して引け目があるから、あんな表情をしていた。


 過去はともかく、私が知っているエリシアは、村の人間に対して後ろ暗い感情があるとか、そんな風には見えなかったけどな。



「あの、貴女が知っているあの子の話も、ぜひ聞いてみたいのですが」



 自分が知っているエリシアのことは話した……だから次は、自分が知らないエリシアのことを知りたいのだと、エルドリエは言う。



「あの子、どこかの国ですごい地位についたって聞いたの。でも、世の中のことには疎くて、よく知らなくて」



 ずいぶんおおざっぱな情報だが……間違っては、いない。マルゴニア王国という大国で、『魔女』と呼ばれるほどの魔法術師になったのだ。


 そこまではおそらく、この村の人間ならば知っていることだ。そして、魔王討伐の旅に出たということも……



「そうですね。エリシアは……魔王討伐のメンバーに選ばれて、『剣星』や『剛腕』と呼ばれる人と旅をしたんですよ」


「まあ、聞いたことがあるわ。そんなすごい人たちと」



 やはり、その呼び名は知らない人がいないほど、有名のようだ。それに、そのメンバーと共にいるからこそ、エリシアがすごい人物になったのだと、認識しているようだ。



「『魔女』って呼ばれてましたよ、エリシアは。ま、本人はその呼ばれ方嫌がってたけど」



 『魔王』と、響きが似ている……そういった理由で、エリシアは自身の呼び名が好きではなかった。わからないでもない……魔女ってのは、私の元いた世界じゃマイナスイメージが強い。


 たとえ周りはそのつもりはなくても、不吉に感じてしまうものだ。



「魔法の練習、頑張ってたものねあの子。今、どんな風になっているのか見てみたいわ。って、見えないんだけどね」



 閉じられたまぶたを軽く撫で、エルドリエは微笑む。エリシアが村を出たのが十八歳の頃なのだから、エリシアと別れて約四、五年。その間エリシアは村へ戻っては来なかったのだろう。


 四、五年か。……私は、この世界に召喚されてから一年、家族と会うことはできなかった。それだけでも寂しかったのだ。彼女の寂しさはどれほどのものだろう。


 ……その家族が、死んでいるなんて……本当に生き別れることになったなんて、そう知ったとき、果たしてこの女は、どんな顔をするのだろうか。


 私と同じように、憎しみに囚われたりするのだろうか。それとも……



「でも、不思議だわ。アンさん……貴女と接していると、まるであの子と接しているように感じるわ」



 ……エリシアと接しているように、か。それはきっと……気のせいでは、ない。


 エルドリエは、目が見えない。だけど、魔力を感じることはできると言っていた。私の魔力は、エリシアのものだ……つまり、私とエリシアは同じ魔力なのだから、誤認しても仕方がない。


 だが、魔力が似ていると感じても、同じと感じることはないだろう。血の繋がった同士でもない人間が、どうして同じ魔力を持っていると思うだろう。


 私の魔力がエリシアのものなのは、私がエリシアの魔力の源である目玉を食べたからだが……どうしたら、目玉を食べたなんて発想が出てくるだろう。



「そうですか……」



 私は、こみ上げる笑みを抑えるのに必死だった。まあ、どんな表情をしても、この人には見えないんだけど。


 ……私って、こういうことで笑いそうになるほど性格悪かったっけ。



「……エリシアは、いい子でしたよ……」



 エリシアがあんないい子に育ったのも、この人の影響が大きかったのだろう。村を出たとはいえ、それまでにこの村で培ってきたものは彼女の力になったはずだ。


 もしもエリシアが、この村に戻ってきたら……きっと、村の人たちと仲直りはできたのかもしれない。だけど、そんな未来は永遠に訪れない。



「……アンさん?」



 急に黙りこんだ私の様子に、エルドリエは困惑したように首をかしげている。目が見えないのだから、声が聞こえなくなれば不安になるのは当然だ。


 気になっていた、エリシアの過去も大方聞けたし……もう、いいかな。



「……エリシアと、会わせてあげましょうか?」


「え?」



 ……正確には、会わせることはできない。けど、エリシアの魔力になら……触れさせることは、できる。


 私は、左目の眼帯を外し……抑え込んでいた魔力を、一気に解放させる。



「! この、魔力……」


「そう、エリシア……あなたの娘のものだよ。あの子はもう、この世のどこにもいない……せめて、あの世で会えることを願ってるよ」

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