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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

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厄介者



 回復魔法は、要は傷を癒す魔法だ。エルドリエのように失明した視力を取り戻す、や私のなくなった腕を生やす、なんてことはできない。


 なくなったものを、復活させることはできない。それが、回復魔法の限界だ。時間が経てば、治るはずのものも治せなくなる。


 その点で、私とエルドリエは同じ傷を負った者同士ではある。



「視力を失ったその日から私は、あの子から距離を置いた。まだ五歳の子供が……怖くて、たまらなかったの」



 自分の子供とはいえ、無理もない話だろう。魔力が暴走し、家族だけでなく周りの人にも被害をもたらす可能性だってあるのだ。


 エルドリエの目がつぶれ、父親の回復魔法でももう手遅れだった。結果としてエリシアは、母親に一生消えない傷を残すこととなった。


 自責の念に駆られたエリシアは、できる限り母親のサポートをしようとしたが……それは父親により、叶わぬこととなった。またいつ、魔力を暴走させるかもわからない。


 エリシアは家の中で、居場所を失った。そして、家の中で居場所がないということは……



『もうウチの子と遊ばないでくれる?』



 外ではもっと、居場所がない。どこから広まったのか、エリシアが母親に危害をくわえたという話はいつの間にか、村中に広がっていたという。


 エリシアは完全に孤立し、村で厄介者と呼ばれるようになった。


 その後のエリシアはというと、別人のように人が変わってしまったらしい。無邪気に明るかった姿は身を潜め、無口なおとなしい子になっていったという。


 ……無口でおとなしいエリシア、か。考えられないな。



「エリシアのしたことは、笑って許せるようなものではないわ。……でも、あの時もっと、あの子と真剣に向き合えていたら」



 後悔、しているのだろうこの母親は。だが、視力を失い、それまで見ていた景色を奪われれば……恐れを抱くのは、攻められない。たとえ、その対象が自分の子供であろうと。


 しかも、なにも見えなければ子供がどこにいるかわからない。子供も、自ら母親に近づかなければ……二人がふれあうことは、ない。


 父親がエリシアを遠ざけていたならば、なおさらだろう。



「……けど、今は見えてるみたいに感じるけど」



 そこで、ユーデリアが口を挟んでくる。無粋な……と思いはしたが、その内容は私も気になっていたことだ。


 エルドリエの目は、閉じられている。まぶたを開けるかはともかく、本人の言うように視力は失われている。なのに、エルドリエはまるで、見えているかのように振る舞っている。


 村人にこの家に案内され、そこでこの人に出会った。家の中へと招かれてから……席につくに至るまで、彼女の動きに迷いはなかった。


 それに、村人も彼女を心配した様子はなく、彼女を残して去っていった。エルドリエは誰かの手伝いも、必要としていないのだ。



「さすがに、十年以上この状態だと雰囲気で、ね。家の中なら一人でも移動できるし、外にだって出れるわ。それに、魔力で誰かいることは察知できるし」



 目が見えない世界は私にはわからないが……要は、慣れらしい。初めて行く場所ならともかく、見知った場所であれば今となっては支障はないらしい。


 そんな彼女に、村の人たちもよくしてくれるらしい。



「……もっと早く、あの子に謝れればよかったんだけどね」



 エリシアもエルドリエも、成長するにつれ心境は変わっていった。ただし、その心境は正反対に。


 決して母親に許してもらえないだろうと思っている娘と、娘を許す覚悟を持とうとしている母親。そんな二人は、似た者親子と言うべきか……自分の気持ちを素直に相手にぶつける勇気が持てなかった。


 そして、その日が訪れた。十八歳になったエリシアは、家を……村を出た。家族とも、村人とももはや付き合いの切れていたエリシアが村に居続ける理由は、ない。



「村を出た……いえ、追い出した、のかしらね結果として」



 エリシアは自発的に村を出たが、そこに追い出された、という形がまったくないかと言われると、素直にはうなずけないのだろう。


 とにかく、それなりに暮らしのスキルを身につけたエリシアは、その身一つで村を出たのだ。とはいえ、まだ成人もしていない女一人……かなりの苦労があったことは、想像に難くない。



「……そこからは、貴女の方が詳しいと思うわ」


「ん……」



 確かに……エリシアから、十八で村を出たとは聞いたことがあったが、その理由は聞いたことがなかった。深く聞くべき子とでもないと思ったし、本人も話そうとしなかったから。


 村を出たあとは、エリシア本人から聞いた通りで正しいのだろう。行く先々の場所で、自分の魔法を使って人々の役に立つことをしていた。その行いがマルゴニア王国の耳に入り、声をかけられたというのだ。


 ……皮肉なものだ。自身の魔法のせいで自分の居場所を失ったのに、その魔法のエキスパートとしてその名を轟かせることになるなんて。



「きっとあの子は、私を恨んでるでしょう。けど、一目会って……せめて、謝りたいの」



 エリシアが『魔女』として、村どころか世界でも有数の魔法術師になったことは、母親であるエルドリエの耳にも入っていたらしい。そんな娘が、今さらここに戻ってくることはないだろう。


 それでも、許してもらえなくても、せめて謝りたいのだと。エルドリエは、娘にしたことを心から反省している……けど。



「……謝りたい、ですか……」



 残念だけど、それはもう、永遠に叶うことはないよ。エリシアが恨みを抱いて復讐に来ることもないし、エリシアに会うことだって叶いはしない。


 エリシアが『魔女』と呼ばれることになったことは知っていても……エリシアが死んだことは、知らないんだ。


 エリシアを、あなたの娘を殺したのが、私であることも。

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