第14話 平和な一幕
私は二体の魔物を倒すだけでもそれなりに時間がかかったというのに、師匠はたった一撃で……か。まだまだ師匠には、敵わないなぁ。
「ターベルトさん、今度こそは魔物残してくださいよ!」
「わかったわかった、すまんって」
「別に私は、全部任せちゃってもいいと思うんだけど……」
「この怠け者魔女め!」
師匠のとんでもパンチに対して、もの申すグレゴとむしろ師匠に全部任せたいエリシア。二人は、互いににらみあって火花を散らせている。
旅に出る前からだけど、グレゴとエリシアは……なんか、いつも喧嘩してるよなー。いつからだろう……初めて会ったときからかもしれない。曰く、なんか気に入らない、らしい。二人揃って。
ただ決して、仲が悪いわけではない……と思う。
仲が良いほど喧嘩する、って話を聞いたことがあるけど、この二人にはまさしくその言葉が似合うと思う。けど、二人とも実は仲良いよね、なんてことを言うと、決まって否定するんだけどね。二人揃って。
「ま、まあまあ二人とも……落ち着いて」
「あぁん!?」
「なによ!?」
そんな二人の仲裁に入るのは、ボルゴだ。最初は引っ込み思案で、自分から話しかけることなんてとてもできない性格だったが、サシェがいつもボルゴに話しかけてくれるおかげで、変わった。ボルゴの方からもみんなに歩み寄ろうとしている。
だからって、わざわざ二人の喧嘩を止める役を担わないでもいいとは思うんだけど……いや、見ていられないだけなのかもしれないけどさ。
だけど、ボルゴのそんな弱々しい仲裁も二人には意味がない。むむむ、とにらみあうグレゴとエリシア、それを止めようとあわあわしているボルゴ、なにが起こっているのかよくわかっていないサシェ……見ていて面白いものがある。
「はっはっは、二人とも! 仲が良いのは良きことだが、あまり眉間にシワを寄せると老けるぞ!?」
「いや、仲良くなんか……ぐはっ!」
「老けるとか言わな……ごはっ!」
「仲良く仲良く! 喧嘩するにも仲良くな! あっはっはっは!」
にらみあってばかりの二人を見かねて……というわけではないだろうけど、師匠はグレゴとエリシアの仲裁に入る。その際、二人の背中をバンバン叩くおまけつきで。
本人は軽くのつもりなのだろうが、グレゴとエリシア……いや常人にとってはそれは重い一撃となる。さっき見せた"軽い一撃"がいい例だ。それを何度も打ち付けられては、咳き込んでしまうのも無理はない。
二人のにらみあいは中断され、代わりに激しく咳き込み……なんとか落ち着こうと、大きく呼吸を繰り返している。ご愁傷様。
「わぁターベル! すごい力!」
「むん? そうか?」
「はぁはぁ……し、仕方ない。今回はこれくらいに、しておいてやるバカ魔女……」
「ぜぇぜぇ……そ、それはこっちのセリフよ……アホ筋肉ダルマ……」
にらみあいを続けた末に今咳き込んでいるグレゴとエリシア、本人の自覚なく二人を行動不能に陥らせた師匠、そんな師匠の力を見てキャッキャと喜んでいるサシェ、自分の仲裁ではなんの意味もなかったと落ち込むボルゴ……これが、いつもの日常。
今が魔王討伐の旅の途中であろうと、それは関係ない。こうしたやり取りが、いつも私の周りで騒がしく起こっている。
あぁ…………平和だなぁ。少なくとも、魔物を退けた後でこんなことをする余裕があるくらいには、平和と言えるだろうな。




