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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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【幕間】適正を持つ者



 マルゴニア王国を滅ぼし、氷狼の村で男たちを殺した人物……それがユーデリアという名前の氷狼と、この世界を救った『英雄』だと判明した。その目的は、謎のままだが。



「わざわざこの世界に戻ってきて、かつての仲間を殺し、マルゴニア王国を滅ぼした……なんの目的があるんだ」



 『英雄』がなにをしたいのか、いくら考えても答えは出ない。異世界の勇者という情報すら真偽は怪しいものだが、ノット自身も聞いたことはある。


 表に姿を現すことはないが、表の情報は入ってくる。それが、ノットのいる世界というものだ。



「だがまあ、納得したというものだよ」



 予想外の人物……しかしそれと同時に、納得できたものもある。マルゴニア王国を滅ぼす……それはつまり、そこに住まう『剣星』と『魔女』を殺したということ。


 そんな芸当が出来る人物が、果たしているのか。それが疑問であったが、これで解消された。『英雄』であれば、あの二人を相手に勝利することも不思議ではない。


 そうなるに至った経緯だが、これについては正直どうでもいい。



「問題は、逃げ出した氷狼と、世界の『英雄』が共に行動していること。国を滅ぼすほどに、過激な行動をしているようだが」



 奴隷として捕まえた氷狼。それと一緒にいるところを見ると、『英雄』が氷狼を逃がしたのだろう。その恩返しとして、氷狼が供をしているというところだろうか。


 これは、少々厄介だ。氷狼一匹だけなら、どうとでも処理できる。しかし、そこに『英雄』が加わるとなると、話は別だ。


 子供とはいえ、その力は計り知れない……



「……けど、あんたの目的はなんだ? 逃げ出したとはいえ氷狼は一度捕らえたし、マルゴニア王国が滅んだっていっても私らに影響があるわけじゃない」



 驚きは、確かにあった。氷狼と『英雄』が行動を共にしていること、なぜか仲間や国を消していること……しかし、よく考えてみればノットにはなんの不都合もない。


 捕まえた氷狼が逃げたというのは、以前氷狼の村を襲ったノットにとっては少しもやもやするものの……それだけだ。



「そもそもとして、氷狼一匹を捕まえるってのが不思議だったんだ。今まで無理に聞くつもりはなかったが、そろそろ教えちゃくれないか」


「おい、その辺に……」


「それに……私だって『計画(プロジェクト)』に一枚噛んでる点では、仲間だろう? 氷狼のガキと『計画』、関係があるってことだろうが」



 ノットはついに、自分の中にあった違和感をぶつける。ガニムが制止を求めてくるが、そんなのは知ったことではない。


 雇われの身であるノットは本来、雇い主の思惑など気にしない。だが、元々気になる依頼だった上に、『計画』の存在、『英雄』の出現、これらが重なり状況は変わってくる。



「……そうだね、話しておこうか」



 ノットに食いつくガニムを手で制し、男は口を開く。その表情に、ごまかそうという魂胆は見えない。



「……確認しとくぞ。私があんたに雇われた時の依頼内容はこうだ。『氷狼を一匹だけ捕らえ、殺さない程度に無力化しろ』だったな」


「あぁ。その後はバーチに任せた」


「つまり、氷狼を奴隷として売り飛ばしたのはバーチの仕業ってことだ。その後のことは任せてたから気にしてなかった。で、その後話を持ちかけられた」


「とある『計画』がある、協力してくれないか……とね」



 一連の流れは、こうだ。氷狼を一匹、生きたまま捕らえるまでがノットの仕事。その後はバーチに任せていた。


 本来ならば、そこで契約終了。おさらばのはずだが……男はノットに、新たな話を持ちかけてきた。



「その『計画』の内容……忘れた訳じゃない。むしろ、馬鹿馬鹿しいと思ったさ」


「だがキミは、話に乗ってくれた」


「面白そうだったからな」



 聞かされた『計画』の内容は、あまりにも突拍子がなくて……だからこそ、面白いと思った。雇われではなく、協力したいと思ったのだ。



「その『計画』と、今回の件。『英雄』と氷狼の破壊行動が、無関係じゃないってことか」


「あぁ、そうなる。氷狼には、死んでもらっては困る。とはいえ、あんなにいらなかった。だから、一匹だけ生かしているんだ」



 その『計画』と無関係ではない氷狼の存在。そして氷狼と共にいる『英雄』の存在。これは、さすがに男にも予想外であった。


 それに、ガニムが視た映像によると……やはりあの『英雄』は、とてつもない強さだ。いくら素人とはいえ、呪術の力を得た男たちとの殺しあいで生き残るとは。


 あの炎は、触れただけで体を炭にするほどの力を持つ。しかし、彼女は一瞬だけとはいえ、触れただけでは炭とはならなかった。



「彼女は、"適正者"か……?」



 呪術が効かない……とは断定はできない。しかし、もしそうであれば……彼女は思っていた以上に厄介な存在になることは間違いない。


 本来呪術とは、人の身に余る力。それを適正なき者が自分の力にすれば、それは自分の身を滅ぼす。男たちが、そうであったように。


 ノットやガニムは、呪術の力に耐えうる適正を持った者だ。彼女もそうであれば、味方に引き込めばこれ以上ない力となるが、敵対するとなると……



「……面白い」



 『計画』を実行するにあたり、なにもかもがうまくいきすぎて退屈していたところだ。そこに『英雄』というイレギュラー……退屈はしないで、済みそうだ。

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