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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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【幕間】氷狼と『英雄』



 対象と定めた者……今回で言うと、氷狼の村を襲った男たちの中の一人。その視界に収めたものを、視ることが出来る。それがガニムの呪術の力であるが、能力はそれだけに留まらない。


 視ることが出来るのは、視力の失われたガニムの右目……それを潰すことにより、対象者に、ガニムが視たものと同じ景色を見せることが出来る。



「それにしても、その右目どーなってんだ。確かに潰してたよな?」


「ガニムの右目は特殊なんだ。潰しても……いや、正確には能力を発動した後、時間が経てば目はまた元通りになる」


「腕もいでもまた生えてくる、みたいなもんか。気持ちわり」



 潰しても、再生する右目……ガニムは、自身の右目の視力を代償に、他者の視界を覗きこむ能力を得た。とはいっても、その力も万能というわけではない。


 ともあれ、ガニムが視た光景は、男とノットにも共有された。ちなみにガニムが視たのは、氷狼の村で一番最後に死んだ男のものだ。



「……氷狼の子供……これは、奴隷にした者で間違いないかい? ノット」


「あぁ、違いねぇ。これで確信に変わったわけだ、あのガキが生きてたってな」



 自身の右腕を撫で、ノットが笑う。その笑みには、いったいどんな感情が込められていたのか。


 ほぼ右半身を、使い物にならなくしてくれた礼……それを、たっぷりしなければならない。



「それと……もう一人いるのが、氷狼のガキと一緒にマルゴニア王国を滅ぼした奴か? 情報通り、ガキみたいだな。なんかどっかで見たことある気がするが……ったく、音もありゃすぐわかるのによ」


「贅沢を言うな。見せてやるだけありがたく思え」



 氷狼の子供と、一緒にいる人物。女の子供だ。その腕が片方失われていること以外は、ごく普通の……種族は人間だろう。


 事前に聞いてはいたが、本当にこんな小さな子供が、マルゴニア王国を滅ぼしたうちの一人だというのか。それとも、ただ氷狼と行動を共にしているだけか。たとえば、氷狼の部下みたいな存在。


 あの氷狼とて、氷狼とはいえ子供。部下のような存在を作っていても、別段おかしくは……



「っ……まさか、この女は……」



 そう考えていたノットとガニムだったが、思考を遮るものがあった。それは男の声……それも、なにかに驚いたかのような。


 その表情は、若干の驚愕に染まり……目を、見開いている。こんな顔、ノットは見たことがない。



「お、おい……?」


「こいつは……間違いない、『英雄』……」


「は?」



 なにに驚いているのか、わからない。それに、意味のわからない言葉を吐いている。いきなり口走る『英雄』という言葉……それにどんな意味が……



「……って、見覚えあると思ったら……!」


「『英雄』……アンズ・クマガイ……?」



 直後、ノットとガニムも、男の言葉の意味に気づく。『英雄』が指しているものの、その意味を。


 彼女は……かつて、この世界を救った勇者。いや、『英雄』と呼ばれた人間だ。魔王を討伐したとされる人間であり、勇者パーティーというものを率いた人物。


 詳しいことは知らないが、確か勇者パーティーメンバーは彼女含め六人。その半数が命を落とし、残ったのは『英雄』の他に『剣星』と『魔女』。


 その二人は、マルゴニア王国の人間で……



「ってことは、『英雄』は『剣星』と『魔女』を……共に戦った仲間を、殺したってのか!?」



 ……マルゴニア王国を、滅ぼした。氷狼ともう一人が。氷狼もよほどの力を持っているが、『剣星』と『魔女』を相手にできるとは思えない。


 つまり……『英雄』は、かつての仲間を殺したということだ。



「意味、わかんね……マルゴニア王国を滅ぼした連中を突き止めるはずが、新しい謎が増えちまったぞ?」



 かつての仲間を、殺す。それはノットにとっては、なんの不思議もない行為だ。たとえかつての仲間だろうが、必要とあらば殺す……それがノットの生き方だ。


 だが、それはノットに限った話。『英雄』なんていう、世界を救うために危険を侵すほどのお人好しが、顔も知らない人たちのために動ける人間が、よりによって苦楽を共にした仲間を殺すだと?


 いったいなにがどうなれば、そんなことになるのか。



「『英雄』……そして、氷狼の子供。名を、ユーデリアというようだ」


「あん?」



 困惑するノットをよそに、男は冷静に分析しているようだ。その際に、聞き慣れない単語……名前らしきものを、告げる。


 しかもそれは、氷狼の名前だという。しかし、今見た映像には音声はない。つまり、なにが起きているかはわかっても、なにも聞こえない。そこにいる者の名前など、わかるはずもないが……



「ユーデリア……と、『英雄』の口を読んだだけさ」


「あぁ……そう」



 どうやら、男は『英雄』が喋っていることを読み取ったらしい。いわゆる、読唇術というものだ。だが、まさか自分が直接見たものではない映像から読み取るとは。


 暗殺者として、そういったスキルを一通り揃えているノットでさえ、さすがに今のは真似できない。



「『英雄』アンズ・クマガイに、氷狼のガキユーデリア、ね……」


「どのような理由があってこの二人が行動を共にしているかまではわからんが……なかなかに、興味深い」



 かつて世界を救った『英雄』と、故郷を滅ぼされ奴隷にされた氷狼のユーデリア。実に興味深い二人だ。それに……



「『英雄』は、異世界から召喚された人間と、言われていたな。魔王を討ち、元の世界に戻ったはず……」


「異世界ねぇ。ホントかどうか知らねえが、そんな奴がわざわざ舞い戻ってきて、かつての仲間を殺したってのか?」



 わからないこと、だらけだ。生き残りの氷狼、異世界の『英雄』、そして仲間を殺したという事実……正体が判明しても、その目的がわからない。


 もしも本当に、『英雄』が異世界の人間だというのなら……その目的は、いったいなんなのか。

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