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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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【幕間】視たもの



「……反応が、途絶えたか」



 薄暗い一室、そこに設置してある椅子に座る男は、小さく声を漏らす。今しがた、自らが送り込んだ男たちの反応が、途絶えたのだ。


 正確には、男たちに仕込んでいた、杏の世界で言う発信器、の反応が消えただ。考えられる可能性は二つ。


 一つは、仕込みに気づいた男たちにそれを破壊された。しかし、その発信器もどきは呪術を使った特別なもので、体内に直接埋め込む形で行っている。


 バカな男たちがその存在に気づくことは考えられないし、万一あり得たとして、気づいたとしてもどうすることも、できないだろう。


 ならば、二つ目の可能性……



「死んだか……いや、正しくはその存在ごと消滅した、か」



 男たちの命が、絶たれたこと。ただ、単に命を失っただけでは、反応が消えることはない。


 反応が消えるということは、体内の発信器ごと破壊するほどの衝撃が人体に影響を及ぼしたということ。


 つまり、肉体をぐちゃぐちゃにされたか、文字通り消滅したか。いずれにせよ、人という存在は保てなくなったということだ。



「はい。一人残らず、呪術の炎によって身を滅ぼしたようです。なんの成果を挙げることもなく」


「せっかく与えてやった力を無駄にして、たった二人を捕らえることも出来ないのか……やはり、金で雇っただけの連中に期待するのは無駄か」


「おい、そいつぁ私に喧嘩売ってるのか?」



 椅子に座った男に、床に膝をつき頭を下げる男が一人。さらに、部屋の扉に寄りかかり、腕を組んだ女が一人。


 女は、腰まで伸ばされた朱色の髪を持つ、見た目麗しい女性だ。抜群のプロポーションを惜しげもなく晒すスタイルだが、彼女の右腕、そして右肩から腹部にかけての大きな凍傷の痕が異質さを醸し出させる。



「あぁ、いやすまない。キミは別さ、ノット。確かにキミも雇い兵だが……あんな有象無象とは格が違う」


「はっ」



 その女、ノットは鼻を鳴らして視線をそらす。うさんくさいその男の言葉だ、どこまでが本心かわかったものではない。



「……で、どんな内容が"視えた"んだよ、ガニム?」


「それを今からお伝えするところだ。黙っていろ雇われごときが」


「あぁ?」



 ガニムと呼ばれた、膝をついていた大柄の男は立ち上がり、とても仲間に向けるようなものではない目を、ノットに向ける。同じ部屋にいて、おそらくは目的も同じで、それでもノットを仲間とは認めていない。


 ガニムの右目には大きな傷がある。刀傷のようだ。失明しているのか、目は閉じられている。しかし、左目のみとはいえ、その眼光は凄まじい。


 その視線を浴びれば大抵の者は萎縮してしまうだろうが、ノットは違う。向けられた敵意に、言葉に、気を悪くして近づいていく。


 ノットの背では、ガニムを見上げる形になる。だが、身長差(そんなもの)など関係ないと言わんばかりに、睨みを効かせる。



「なんだその口の聞き方はよ。私がお前になんかしたか?」


「所詮金で動くような輩を、俺は認めん。それに、口の聞き方に気を付けろ。金を貰えばどこへなりと尻尾を振る犬が、主ただ一人へ真に忠誠を誓う俺と対等だと思うか?」


「なんだと……? こっちにはこっちのやり方がある。だいたい、てめえに認められる必要は……」



 雇われ兵であるノットに対し、ガニムは男に真に忠誠を誓っている。だからこそ、ノットのやり方が気に入らないのだろう。逆に、こんな態度を取られてノットも平常心ではいられない。


 一触即発。最悪の二人が今にもぶつかりそうなところへ……



 パン、パン



「はい、そこまで」



 男が手を叩く音と、声が鳴り響いた。



「ガニム、キミの忠誠は嬉しいが……ノットの力は本物だ。いがみ合わないでくれ」


「……主が、そう言うのでしたら」



 今にもぶつかり合いそうな二人であったが、男の一声により二人の……正しくはガニムの敵意は、一気に消えた。それを感じとり、ノットも敵意を収める。


 男に雇われているだけのノットに対し、ガニムは男に真に忠誠を誓っているようだ。



「それより、どうだ? キミが"視た"ものは」


「はい、今お見せします」



 再び男に頭を下げる男は、閉じられていた右目を開き……黒目のない、白濁の瞳を露にする。大きな傷により瞼を開くことが出来なかった、わけではない。しかし、視力は失われていることに変わりはない。


 次の瞬間、ガニムは驚くべき行動を起こす。視力のない右目を、自らの指でくりぬいていく。



「ぬっ……!」



 突然の行為は、ガニムが狂ったのではと思わせる。しかし、男もノットも驚いた様子はない。


 右目をくりぬき、空洞となった箇所から血を流しながらも、ガニムは自らの目玉を手のひらに乗せ……それを、握りつぶす。



「……ふむ」


「へぇ……」



 次の瞬間、男とノットの脳内に、ある映像が流れ始める。それは、二人にとっては初めて見る光景……ガニムが"視た"映像だ。



「氷狼一匹と、小娘一人……」


「ガニムがその右目で"視た"ものを、他者の脳内に転送する……便利な能力だなぁ。欲しいとは思わねえけど」



 その映像は、ガニムが"視た"もの……しかし、それは直接見たものではない。別の人間を通して視たものだ。ガニムの能力に、よるものだ。


 ガニムの能力、それは……



「対象と視界を共有して、さらにその視界を別の奴に見せることが出来る……だったか」


「共有ではない、一方的にだ。あんな連中と、誰が共有など」



 その視力のない右目で、対象と定めた者の見たもの、つまり視界を己も視ることが可能。さらに、視たものを他者の脳内にて見せることが出来る……


 それこそ、ガニムの能力。ガニムの呪術だ。

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