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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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ここで起こった出来事



 起きたユーデリアは、鼻血を拭いながら恨めしげな目を私に向け続ける。まあ、鼻の穴に小枝が突き刺さってたんだ……痛いよね。


 とはいえ、気絶していたのを起こしたのは私なんだし、それまでに苦労もさせられたんだし謝るつもりはない。



「……で、覚えてないのかな?」



 とりあえず、ユーデリアに対して気になっていたことを、問いかける。この質問の意味は……もちろん、先ほどユーデリアが狂っていた時の、記憶の有無について。


 ……まあ、聞いてみたところで、その答えの大方の予想はついているんだけどね。



「覚えて……って、なんの、ことだ?」



 ほら、やっぱり覚えてない、か。ユーデリアは、なにを聞かれたのか、私がなにを聞いているのかわからないといった表情で首をかしげている。


 あの時の様子は、完全に理性を失っていた。その時自分がなにをしていたか、周りでなにが起こったかは覚えていないだろう。


 可能性の一つとして、あの時理性を失ってても自分がなにをしていたかの記憶は残っている……というのも考えたが、どうやらそれは都合のよすぎる考えだったらしい。



「……なにが、あったんだ? 確か、ボクは……」


「迷惑行為を思う存分に働いてくれたよ、はぁ」



 どうやら、この短時間の出来事はユーデリアの中には記憶の片隅にすら、残っていないらしい。あれだけのことをしておいて……


 なので私は、ユーデリアがなにをしでかしたか……いや、ユーデリアが理性を飛ばしている間になにが起こっていたかを、説明する。


 この村を襲う輩が現れたこと、それとタイミングを同じくしてユーデリアが理性を飛ばしたこと、奴らは魔法ではない呪術という力を使っていたこと、最期はその力で自滅に近い形で消えたこと……



「……で、そこらへんに転がってる氷の破片が……」


「理性がなかったボクがやったこと、か」



 変に誤魔化しても仕方ない……なので、すべて正直に話す。


 ユーデリアが男たちに牙を向いたこと……はともかく、私にも襲いかかってきたことまでも。



「それは……迷惑を、かけた。すまない、アン」


「今後はああいうことがないように頼むよ? この子だって、氷付けにならないとこまで必死に逃げてたんだから」


「ヒィイイン」



 いつの間にか姿を見かけないなと思っていたが……賢いこの(ボニー)は被害を(こうむ)る前に、一足先に安全な場所まで逃げていたのだ。


 これまでの旅の経験が、この子に危機察知能力のようなものを身に付けさせたのかもしれない。



「あぁ、悪かったな……」


「ヒン!」



 獣にしかわかりあえないものがあるのか、ボニーはユーデリアにすり寄るようにして、多分甘えている。


 ここで起こったことは、ユーデリアにすべて正直に話した……だがそれは、今の説明の中に嘘は混ぜていないという意味でだ。ユーデリアに話していないこと……つまり隠していることは、ある。


 それは、私が見た、この村で起こった過去の出来事。それは、ユーデリアには話していない。それはユーデリア自身の気持ちを汲んで、という理由もある。


 あんな残虐な過去、友達でもなければ仲間でもない、ただ行動を共にしているだけの相手(わたし)に話したくはないだろう。それに……



「それにしても、呪術か……」



 今の説明を聞いて、なにやら考え込んでいるユーデリア。


 ユーデリアが直接見た、ノットの炎や『呪剣』の力。それも呪術であるのだが、ユーデリア自身それを認識しているかは不明だ。


 客観的に見ていた私ならともかく、当事者であるユーデリアが、バーチの言葉を一言一句覚えてるわけがないし。家族がやられてるのに「呪術ってなぁに?」とはわざわざ思わないだろう。


 それに、ユーデリアはあの時かなり錯乱していたっぽいし、もしかしたら結構覚えてない部分もあるのかもしれない。


 ただ……なにやら考えているから、思うところはあるらしい。おそらく、呪術の炎と、ノットの炎の関連性に疑いを持っているのだろう。



「…………」



 それに……『呪剣』も、呪術の力。考えてみれば、ユーデリアの家族や仲間をめちゃくちゃにした剣で、私はユーデリアと共に戦っていたわけだ。


 ……やっぱり言えないな。私が過去を見たことを話すということは、『呪剣』が呪術の力であることも話すことになる。そこだけ濁しても、絶対突っ込まれるし。


 私が『呪剣』を使っていたことに変わりはない。知らなかったにしろ、氷狼を破滅に追いやった一因を私が使っていたというのは、気分のいいものではないだろう。



「……で、男たちをけしかけてきた"あの男"ってのが、黒幕だと」


「う、うん……そうらしいよ」



 ぶつぶつとなにかを言っており、おそらく自分の中で考えをまとめていたであろうユーデリア。その瞳には、密かな怒りの感情がある。


 この村を滅ぼしたバーチやマルゴニア王国兵士……それらへの復讐は完了したものの、またこの村を襲撃してきた連中が現れたのだ。正しくは私とユーデリアが狙いだけど。


 ともかく、この村に、自分たちに害を為す存在を、無視はできないだろう。それに、ユーデリア自身気づいているかわからないが、その存在は実際に氷狼の村を襲わせた人物なのだ。


 ユーデリアに、私が過去の光景を見たことは伝えていないが……ユーデリアが覚えてれば、その可能性に思い至っているはずだ。



「まあ、まとめると……私たちを狙う何者かがいる、ってことだろうね」



 いろいろあったけど、結論はこういうことだ。なぜ私たちを狙うのか、わからないけど……


 というか、なぜこのタイミングであの男たちは、ユーデリアを狙ってきたんだろう。ユーデリアが奴隷から逃げ出したタイミングで言えば、もっと早くに追っ手が来てもおかしくはない。


 追っ手がなかったのは、あの場にいた目撃者を皆殺しにしたから……つまり、ユーデリアが逃げたことが伝わる手段を切ったということ。


 逆に言えば、どこかでユーデリアの姿が確認されたから、今になってユーデリアを捕まえるための追っ手がやって来たということだ。ならばどこで、ユーデリアの姿が確認されたのか……



「……心当たりがありすぎるな」



 これまでに、結構派手に暴れてきたもんな。しかも、一匹しかいない氷狼の生き残りなら、見る人が見ればそれが逃げ出した奴隷だと一発でわかる。


 とはいえ、この村に来るまでの道中、派手に暴れたのは……マルゴニア王国と、その後に行った国くらいだ。となると、そこで目撃された可能性が高い。


 逃げられたか、それともどこかに連絡を取られたかはわからないが……可能性があるとしたら、その二ヶ所のどちらかで見られた、か。



「なんだろうと関係ない。邪魔する者は殺す……だろ」


「……そうだね、うん」



 結局、どれだけ考えてもわからないものはわからないし……やるこは、変わらない。"あの男"という人物が私たちを狙っているなら……好都合。返り討ちにすれば、いいだけのこと。

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