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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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呪術の炎



 目の前で、炎に包まれる男。しかし、それは男を燃やすためのものではなく……男が、身にまとうものだ。


 自ら、得意気に。炎の正体は、魔法ではなく……呪術だと、男は言った。



「呪術……」



 聞いた単語を再度口の中で噛み砕き、考える。いや、思い出す。呪術という、つい先ほど聞いたばかりの、聞き覚えのありすぎるものを。


 呪術とは、過去に氷狼の村を襲った連中……バーチとノットが、使っていたものだ。即死してもおかしくない傷を負いながらも超再生で傷口を治す体を持つバーチと、指パッチンで人を燃やす炎を出せるノット。


 それだけではない。斬った者の自我を奪う『呪剣』も、呪術の力が関係している。呪術とはなんの力かは明確にはわかっていないが、書いて字の如く呪いの、もしくは呪われた術。


 どちらにしろ……ろくな力じゃないことには、違いない。



「すげー力だ……これなら、誰にも負ける気がしねぇ!」



 呪術を使った男は、バカみたいに高笑いしている。使った、とは言っても、それは男の力ではない。男が体内に摂取した、小瓶の中の液体の力だ。


 中身が不明の液体だけど、あの男が自ら飲み、飲んですぐにあの炎が表れたことから、関連性は疑いようもない。


 ボロボロだった男の体は、すっかり綺麗に回復している。あの回復能力……ノットのような再生の炎の力か、それともバーチのような超速再生の体を得たのか。



「へははっ……ガキぃ、泣いて謝るなら、半殺しで許してやるぜぇ?」



 力を得たことで、男は完全に調子に乗っている。キモい……


 ……とはいえ、その力がはったりじゃないことはわかっている。先ほどあの呪術で、私の放った魔法をかき消したのだ。その力は、本物だ。



「……」


「おらおらどうした? ビビって声も出なくなったかよ?」



 ただ、この男は勘違いをしている。一つは、圧倒的な力を手にいれたという慢心……もう一つは、いくら強い力を目の前にしても、私は降参なんかする柔い女じゃないってことを。



「お断りだよ、ばぁか」


「!?」



 べっ、と舌を出して、答えを示す。直後に、その場で踏み込み、一気に男の懐に飛び込む。


 男は、まさかこんな正面から向かってくると思ってなかったのだろう。驚愕に目を見開く……そんな暇を与えない速度で、私は握りしめていた拳を放った。



「うらぁあああ!」



 本当なら、ここで拳の連打を浴びせたいところ。だけど今の私には、右腕がない。だから、最初から思い切り、一撃を打ち込む!


 打ち込んで、そして……



「!? ぐ、ぁあああっ!?」



 腹部にめり込ませた左手が、焼けるように熱い。じゅうじゅうと、まるでかなりの温度で熱したフライパンに拳を押し当てたかのような……



「ぐぉおおお!」



 幸い、男がすぐに吹き飛んだことで手は離れ、焼けるような痛みは数秒程度だったが……なんだ、今の熱さは。


 確かに、男の体は燃えていたから、普通に考えれば燃える体をなぐれば熱い。ただ、どんな上級魔法でも、私はこの拳で打ち払ってきた。火であろうと雷であろうと、大抵のものならダメージすら残さない。


 だのに、今のは……感じたことのない、感覚だった。呪術というのが、それほどまでに強力だということか?


 殴った拳を見て、私はさらに驚いた。



「こ、れは……」



 拳が、真っ黒になっている。殴った面だけが、綺麗に。焦げた……という表現が正しいのかもしれない。だけど、あんな数秒で、こんなに真っ黒になるほどに?


 幸い、手は動く。開いて握ってを繰り返しても、痛みもない。見た目……いや、表面が焦げている。



「てめえ! よくもぉ!」



 吹き飛んだ男が、今度は体勢を立て直し、走ってくる。体当たりでも、するつもりか……?


 本来ならば返り討ちにするところだが、ここは様子見……



「せい!」



 まるで牛のように体当たりしてくるその体を避け、代わりに地面に転がっていた石をぶん投げる。


 石とはいえ、私が投げればそれは弾丸の威力と速さを持つ。この世界には銃も弾丸もないから、誰にも真似できない必殺技の完成だ。


 うまくいけば、体を貫通するだろう威力の石。それは、なんの妨害もなく男の体に当たり……



「いっ!?」



 ……燃え付き、炭になって跡形もなく消え去った。


 体に当たるというより、炎に触れた瞬間にという感じだ。もしかしたら、この拳もあと数秒でも触れ続けていたら、炭になっていたのかもしれない。真っ黒になっているのは、その寸前だったと?



「……これは、ヤバイな」



 近づくものを凍りつかせるユーデリアの次は、近づくものを炭にする炎か。勘弁してほしいよまったく。


 いっそのこと、ユーデリアとぶつけてみようか。なんでも凍らせる冷気と、なんでも燃やす炎……最強の矛と盾ぶつけて強いのは、って話を思い出すな。


 あれが魔法ではなく呪術である以上、魔法の源魔力のような、源があるのかわからない。時間をかけて戦っても、こちらが有利になるとは、限らない。



「おい、それそんなにいいもんなのか?」


「あぁ、最高だぜ。あの生意気なガキを簡単に始末できそうだ!」



 ……いつの間にか、囲まれてしまった。とはいえ、あの男みたいに呪術の炎で燃えてるわけじゃないんだ。包囲網から抜け出そうと思えばいつでも……



「へぇ……そりゃあ、いいな」


「……は?」



 燃える男に、話しかける別の男。そいつが、汚い笑みを浮かべる。なにがおかしいのか……その答えは、直後にわかることになる。


 男が取り出したのは、なにかの液体が入った小瓶。……そう、小瓶だ。透明な液体の入った。


 まさか……



「ならこの女を生け捕りにした奴が、手柄独り占めってのはどうだ?」


「おもしれぇ。最初(はな)から協力するつもりなんざないしな」


「同感だ。それに、せっかくの手柄を他の奴に分けられるのも納得いかねえしな」



 他の男も、続いて他の男も……全員が次々と同じように、小瓶を取り出す。その中には、やはり透明な液体。


 その直後に、なにが起こるのか……そんなの考えるまでもない。だから、止めるためにまず近い男に殴りかかるが……



「わっ……!」


「おっとぉ、邪魔すんなよ」



 すでに燃えている男が、炎の壁を作り行く手を妨害する。


 その間に、男たちは小瓶の中の液体を、飲んでいき……



「お、ぉおおおお!」


「すげー、力が(みなぎ)ってきやがる!」



 ……呪術の炎が、次々と燃え上がる。



「……これ、マジで?」

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