謎の男たち
この男……先ほどまで怯えていた態度を見せていたのが嘘のようだ。この姿は、動きは、間違いなく私の命を取るためのもの。
だけど、おあいにくさま……油断している相手ならば成功しただろうけど、最初から警戒していた私に、その刃は届かない。
「くそっ、なんなんだお前は!」
「さっき聞いたし、それに答えるつもりもないよ」
魔法による見えない壁で、男の剣擊を防ぐことはできた。このまま、この男の正体や目的を聞き出してもいいけど……
……そうも、いかないらしい。
「なにしてやがる、情けねぇ!」
「うるせえ!」
別の場所から、男にかけられる声がある。それは、少し離れた所から姿を現した、別の男によるもの。同じく、隠れていたのか。
……いや、隠れていたのは、この二人だけではない。周囲の物陰から次々と、人影が姿を現す。すでに、私たちは囲まれている状態だ。
やれやれ……ユーデリアのことを、らしくないとか言えないなこれじゃあ。こんな人数に囲まれてて、殺気を向けられていないとはいえ、気づかなかったなんて。
もしかしたら私の心も、大きく乱れていたのかもしれない。過去の光景を見たことによって。
「くそっ、動かねぇ! 魔法か!?」
「あんたたちいったい……」
「あの氷狼と一緒にいるってことは、奴の仲間だな!?」
……こいつらが何者か。聞いても、素直に答えてはくれないだろう。ならば、やはり力付くということになるのか。
それにしても、こいつらはユーデリアのことを「あの氷狼」と言った。つまり、ユーデリアのことを知っているということか?
ユーデリアが奴隷時代の頃に関わりがあった連中か、それとも……
「ならこいつが、マルゴニア王国を滅ぼしたって残りのガキか!? 女じゃねえか!」
好き好きに喋るな。女じゃねえか、か……まあせいぜい、油断でもしてくれるといいよ。
それよりも……マルゴニア王国を滅ぼした、だって? なんでこんな連中の口から、マルゴニア王国の名前が出る?
今の言い方だとまるで、マルゴニア王国を滅ぼしたのはユーデリアであること、そしてユーデリア以外にもいたということが、わかっていたという口振りだ。
こいつら……
「何者……?」
聞くべきことが、増えたな。なんで氷狼の村の居場所がわかったのか、なんでマルゴニア王国を滅ぼしたのがユーデリアだと……いや氷狼だと知っているのか。
この男の身のこなしだけでも、こいつらがただの盗賊やチンピラ程度じゃないってことはわかる。
つけられていた? ……いや、それなら気づかないはずがないし、そもそも着いてこれないだろう。それに、私がユーデリアの仲間だと、初めて知った素振りだったし。
「構わねぇ! 全員でやっちまえ!」
周囲の男たちが、一斉に襲いかかってくる。まったく、ユーデリアも落ち着かせないといけないのに……
それとも、こいつら全員を差し出せば、ユーデリアの気も済むかな?
「多少魔法が使えようが、この数相手なら……!」
「……!」
別の角度から放たれる刃を、危なげなく避けていく。同時に、刃を受け止めていた魔法の壁を解除して……そのために勢いが殺せず、二人の男が激突する。
「いっ……」
「てぇ! なにしやがっ」
「せいや!」
激突し、多少なり隙が生まれた二人を、まとめて蹴り飛ばす。二人の男は、まるでボールのように吹き飛んでいった。
続けて三人の男が襲いかかってくるが、こんなレベルが何人かかってこようと同じだ。ただ者じゃないのはわかるが……それでも……
「グレゴや師匠に比べたら、全然なってないよ」
超一流の人たちに比べれば、こんなのは素人に毛が生えた程度。
剣擊を避け、受け止め、破壊する。一連の動作は流れるように行われ、自分でも驚くほどに鮮やかだ。
「な、なんだこい……ぶっ!?」
男たちの顔を、体を、ぶん殴り意識を飛ばしていく。殺してもいいが、聞きたいこともあるし……一人だけ、残しておこうかな。
あとは、ユーデリアのところに持ってって、煮るなり焼くなり好きにして……
「な、なめるなガキィ!」
「! 魔力……」
襲いくる男たちを倒していく最中、ふと魔力を感じる。それは、剣を振り回す男たちとは違い、離れたところにいる男から感じたものだ。
その男からは魔力を感じ、それが形となって表れる。火を、水を、雷を……あらゆる属性の魔法を、光線状にして放つ。
これは、かなりの魔力だ。マルゴニア王国の魔法術師一人よりも、レベルが高いかもしれない。やっぱりただ者じゃない、か。
「……だけど、甘いな」
バチィッ!
「っ……な、に……!?」
複数属性の魔法が私に直撃する直前。高い威力を持ったそれは、一瞬にして弾き消える。
魔法を撃った男は、なにが起こったかわからない様子だ。自分でも自信のある一撃だったのか、なんとも間抜けな顔をさらしている。
「エリシアの魔力には、全然敵わないよ」
複数属性の魔法を撃ってくれたお礼だ。私からも一発、玉の形の火属性魔法を放つ。
「くっ、おぉお!」
男は、迎え撃つために次々魔法を放つが……そのどれもが、火の玉一発にすら敵わない。打ち消すどころか勢いが殺されることもなく、火の玉は男を直撃、燃やし尽くす。
「ぎゃ、あぁあああ!?」
「ありゃー、熱そうだね。なら、冷ましてあげる!」
火の玉は体全体に広がり、男の体を包み込んでいく。あれでは、焼き尽くされてしまうのは時間の問題だろう。
なので私は、男の体を魔法で操り……人形でも操るように、男の体を振り回し、ユーデリアのところへとぶん投げる。
そこには、当然止まない冷気があり……燃える火くらいなら、鎮火してしまうだろう威力。だが……
「あぁ、ああぁ……!」
「!」
火が消えるどころか、男は冷気に包まれ……氷付けに、なってしまった。




