第12話 いざ魔王討伐の旅へ
旅の道中では、様々な戦いや出会いがあった。人も、そうでないものも。
私がこの世界『ライヴ』に呼ばれた一番の理由……それは世界を滅ぼそうとしている『魔王』と呼ばれる存在だ。その配下となる生き物が、魔物と呼ばれる存在。本来『ライヴ』には存在しなかったはずの生き物らしい。
魔王の配下、とは言ったが、魔王によって生み出された、というのが正しい。魔王と同種の魔力をまとっているため、そう判断されている。されている、というのは、魔物には知能がないのだ。
ただ、知性を失った獣と言ったらしっくり来るだろうか。修行中に何度か、魔物を相手にするために国の外へ出たことがあるが……あいつらは、まるで痛覚すらないような動きを取る。
とはいえ、恐ろしいのはそれだけ。知性がないということは、恐ろしいと同時に、逆に落ち着いて対処すれば問題はないということだ。修行中は、師匠に助けられもしたけど魔物を倒すことはできた。
問題は、魔物より上位の存在……魔獣と呼ばれる生き物だ。これとは、直接会ったことはない。そんなに、ほいほい現れるような生き物ではないらしい。
魔獣とは、言ってしまえば魔法を使える魔物。さらに、魔物に比べて知性があるらしく、魔物十匹相手にするより魔獣一匹の方がよほど大変らしい。
ちなみにそれらをひとくくりに、みんなは魔族と読んでいるようだ。
魔族に対して疑問はたくさんある。たとえば、魔獣はどこから生まれたのかというもの。魔物は魔王が生み出したと言われているが、魔獣は違うのではないかと言われている。
魔獣を生み出せるなら、最初から魔物ではなく魔獣ばかりを生み出せばいいからだ。
だから一説には、魔物が独自に進化したものではないかとされている。結局魔族に関することについては、あまりよくわかってはいないらしい。
魔王がなぜ存在するのか、なぜ世界を滅ぼそうとしているのか……それらも、謎のままだ。ただそこにあるものとして、受け入れるしかない。魔王を倒すために、私は旅をしている……それだけ、はっきりしていればいい。
だが、戦うのはなにも魔王だけではない。旅の途中、私たちの荷物を狙う野盗に襲われることもあった。いや、荷物だけじゃないな……言ってしまえば女を狙った野蛮な男が、狙ってくるのだ。
だってほら、私はもちろん、妬ましいくらいのスタイルの持ち主のエリシアや、意外と女性らしい身体つきをしているサシェ……男が狙ってきても仕方ないとは思うんだけどさぁ。
まったく、こっちは世界を救うために旅をしているというのに。そんな下品な奴らの相手まで、さすがにしてられない。
そんなときは、動けなくなるまでこてんぱんにしてしまう。さすがに命を取るなんて乱暴なことはしないけど、少しは痛い目にあってもらわないと。
「はぁー、モテるのは悪くないけど、時と場合を考えてほしいよ」
「アンズ、彼氏いるじゃない」
「それはそれだよ。モテるってことは女としての魅力があるってことじゃん? だったら誰であれ、そう思われるのは嬉しいことだよ。ま、私は彼一筋だけどねー」
「そんなもんなんだー」
それに、あんな野蛮な人たちに言い寄られても困るよねー。
不思議なことに、そういった人たちに対しては、容赦なく拳を振るうことができた。けれど……
「グルルル……!」
現れた複数の魔物を、初めて見た私は足が動かなかった。魔物なら、これまでにも倒してきたのに……どうして、動かないの?
違いは、あった。修行中の時は、魔物の数は多くても二体。対して旅に出て、目の前に現れたのは五体は越えている。その数の差に、威圧感に私は気圧されてしまっていた。
それはエリシアも同じようだ。これまで、こんなに多くの生き物を相手に、その命を奪うなんて行為をやってはこなかった。それもあるのだろうか。
あんなに訓練したのに、情けない話だ。どれだけ鍛えても、その時に動けなければ意味がない。情けない……情けない!
「……んっ」
そうして、自分自身の不甲斐なさを嘆いている最中。後ろから、なにかがものすごい速度で私の横をすり抜け……目の前の魔物の眉間へと、突き刺さった。
「ギャアアアー!?」
魔物は、しばらくその場で暴れたあと……その場に、倒れた。おそらく絶命したのだろう。
なにが起きたのか……振り向き、確認するとそこにいたのは、弓を構えたサシェであった。なにかを放った直後の様子……なにかとは、矢であることに間違いないだろう。
サシェは今、動けない私に代わって……矢を打ち、見事魔物の一体を仕留めたのだ。威嚇して派手に動いていなかったとはいえ、魔物の眉間を一発で仕留め、しかもその後の反撃を許さず命を奪う。
よほど当たりどころがよかったのか、矢になにかを仕込んでいたのかはわからないが……ともかく、たった一発で魔物の命を奪ったのだ。すごい腕前だ。
これまでにサシェの腕前を見せてもらったことはあった。でも、こんな緊迫な状態で見るのは初めてだ。さすが『弓射』と呼ばれるだけのことはある。
「アンズ、大丈夫……私、全部仕留められるよ」
仲間を殺され(仲間意識があるのかはわからないけど)、四つん這いで私たちを敵だと認識した魔物たちは、一斉に向かってくる。唸り声を上げ、大きな口を広げて牙を見せる。
あれに噛みつかれたら、ひとたまりもないだろう。それを見てもサシェは、怯えるどころかあれをすべて仕留められると言う。
おそらくそれは嘘ではないだろう。同時に、私やエリシアを安心させるために、自分がすべてやるという意味で言ったのかもしれない。
けれど……仲間に、いや友達に! あんな勇敢な姿を見せられておいて、いつまでもこんな情けない姿を見せていられない!
「ううん、大丈夫サシェ……もう、大丈夫!」
私だって、やってやる! だって、『勇者』なんだから!
男性陣の台詞どころか姿の描写もありませんが、ちゃんといますので! 後ろで見守ってますので!




