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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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消えないトラウマ



 過去の光景から戻ってきて、今目の前にあるのは間違いなく現在だ。


 ユーデリアも、ボニーも、ちゃんといる。それに、私が過去を見ている間に立てていた、氷狼たちの墓がちゃんと出来ていた。


 いくつもの墓石が並ぶ。これを、ユーデリアが一人でやったのか。まだ小さいというのに、たいしたものだ。


 一人一人をちゃんと埋め、供養したんだ。その作業は、どれだけ精神が疲弊したことだろうか。けれど、ユーデリアは疲れた表情を一切見せていない。



「……さっきからなんだ、人の顔チラチラと見て。キモいんだけど」


「ひどくない!?」



 正直、あんないい子がこんなにグレてしまった理由は、わからなくはない。目の前で家族が殺されれば、誰だってこうなるだろう。


 それを良いと言うつもりも、悪いと言うつもりも、私にはないけれど。



「とにかく……用は、いや、お別れは済んだ?」


「……あぁ。待たせちゃったな」



 ユーデリアの用……それは村で無惨な死を遂げた村人の、供養。それが終わった今、この村に留まる理由はもうない。


 それに、私としては得たものも多かった。ユーデリアは待たせたと言うけど、その間私は過去の映像を見ていたんだ、待たされていた感はない。



「……いいの? 別に一日くらい、ここにいてもいいんだよ」


「……いい。どうにか、なっちゃいそうだし」



 ただ供養してさよならというのも、味気ない話……だけど、私の提案をユーデリアは却下する。


 この、誰もいなくなった村で……過ごしていたら、自分がどうなるかわからない。そんな様子だ。その気持ちは、なんとなくわかる。


 だから、この村に残る、という選択肢も彼の中には存在しないのだろう。たったひとりぼっちで、正気を保てるわけがない。



「……」



 この村で、起きたこと。それを見たことは、ユーデリアに話すつもりはないし、ユーデリアも私に話すつもりはないだろう。


 さっき見た光景で、ユーデリアの過去すべてを知ったとは言えない。私が見たのはあくまで、この村で起きたこと。この村から連れていかれた後のユーデリアがどうなったのかは、わからない。


 それを私から聞くことは、しない。ユーデリアが自分から話すか、今回のようになんらかの方法で知ることになるか……それとも、知らないままかはわからない。



「……なんで……」



 この左目は、過去の映像を映し出したのだろう。仮にそういう力が元々備わっているとして、なんでこの場所で……?


 それも、私の意思とは関係なしに、だ。いきなり左目に異変が起こって、気がついたときにはこの左目は過去の映像を映し出していた。


 まったく、訳わかんないことばかりだな……私は謎解きしにこの世界に戻ってきたわけじゃあないんだけど……



「! 誰!」


「?」



 瞬間、背筋を撫でられるような感覚があった。瞬時に振り返るものの、そこには誰もいない。当然、正面にいたユーデリアや、ボニーの仕業でもない。


 この、感覚は……殺意だ。久しく感じることのなかったものだが、間違いない。しかも、私が気づいた瞬間、殺意を引っ込めた。


 ……誰か、いる。



「おい、どうかしたのか?」


「……なにも、感じないの?」



 どうかしたのかと、そう問いかけてくるのは、ユーデリアだった。まさかの人物のまさかの問いかけに、私は若干困惑していた。


 野生の勘が働くユーデリアであれば、私よりも早く殺意に気づいてもおかしくない。だけど、殺意が引っ込められたとはいえユーデリアは、まるで気づいていない様子だ。


 ……やっぱり……平然を保っているけど、それは、そう見せているだけだ。一瞬とはいえ、あんなにもはっきりとした殺意を感じ取れないなんて……ユーデリアらしくない。


 いつものように振る舞っていても、それはフリだけだ。村や村人、家族の惨状を前に、彼の心は大きく乱れている。



「……誰か、いる。今、殺気を感じた」


「誰か……?」



 姿は見えない。けれど、確かにいる。この村に……いや、私たちに殺気を向ける、誰かが。


 どうして、誰もいなくなったこの村に、このタイミングで? ……それとも、狙いは村じゃなくて、村に訪れた……



「私たち?」



 もしそうならば、誰かが私たちのことを見張っていることになる。たまたま村に訪れた誰かが、たまたま私たちが村に訪れたタイミングと合致し、つい殺意を向けた、なんてことはあるはずがないし。


 ……つい殺意、ってなんだよ私。



「……とにかく、隠れている誰かさんを炙り出して、目的を聞けばいいだけ……」


「……誰が」


「うん?」



 誰が隠れていようと、なんの目的があろうと、引きずり出して目的を聞いてしまえば問題はない。そう、思っていたのだが……なにやら、ユーデリアの様子が、変だ。


 うつむき、何事かをぶつぶつと呟いている。



「あの、ユーデリア……くん?」


「この村をまた、踏み荒らすのか……」



 ……これは、まずい。なにがって言われると困るんだけど、とにかくまずい。


 どうやら、『殺意を持った誰か』が村にいることと、殺意を持って村を滅ぼされた『過去』が、重なってしまったらしい。『現在(いま)』、あの時のトラウマともいえる光景がフラッシュバックしているのか?


 証拠に、すごい唸っている。バーチを前にした時と同じくらいの怒りの感情を感じる。



「お、落ち着いて! 今は私もいるし、あんなことには……」


「グルルルァアアア!!!」



 ……過去のトラウマは、そう簡単に消えるものではない。それは、あの時の光景を今でも夢に見る私だからこそ、わかる。


 ユーデリアは、狂ったように吠え……その身から、いろんな感情がごちゃ混ぜになった冷気が、暴風となって吹き荒れた。

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