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異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

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過去と現在



 ……時間にして、どれくらいだっただろう。あれだけ平和で笑顔の満ちていた村が、この短時間で大きな様変わりをした。


 辺りにあるのは、おびただしい数の死。敵も味方も、関係なくそこに倒れている。血のにおいが、辺りを包み込む。


 とは言っても、これは過去の映像。においを感じることは出来ないし、なににも触れない。ただ、そうであろうことは、容易に予想できた。


 この村で起きた悲劇は、こうして実際に見ることで、より鮮明に伝わってきて……



『バーチさん、後処理完了しました!』


『……わかった』



 先ほどと同じ兵士が、バーチに再び話しかける。後処理……つまり、この村で死んだ兵士の回収が済んだ、ということだろう。


 兵士たちの死体はどうやら、ユーデリアとは別の荷馬車に乗せられているようだ。あの空間は腐臭漂う吐き気のするものになっていることだろう。



『では、お前たちはこれより、マルゴニア王国に戻っていてくれ』


『バーチさんは?』


『少し、やることがあってな』



 それから、一言二言を交わした後……兵士たちは、専用の動物に荷馬車を引かせ村を去っていく。……兵士の死体は乗った荷馬車を、乗せて。


 残されたのは、バーチ、ノット、そしてユーデリアが乗せられた荷馬車。そこには、怪しい雰囲気が漂っている。



『……で、人払いは済んだわけだが?』


『あぁ。捕らえた氷狼を、あの人の所へ連れていく』



 そこで交わされる会話は、予想したものの一つであった。わざわざユーデリアだけを別の荷馬車に乗せ、兵士たちを先に帰らせた理由。


 それは、バーチとノットに共通し、そしておそらく兵士たちは知らないであろう事柄に関わるためだ。そこに、氷狼(ユーデリア)というピースが加わったのだ、"あの人"に繋がる話なのは、むしろ必然だ。


 この二人はこれから、"あの人"の所へ行くのだ。……もし、このまま二人に着いていけば、私もその場所に行くことが……


 幸い、足は動く。私は、過去の映像を見ているが、なにも一視点からしか見れないわけじゃない。まるで、過去の世界に来たかのような感覚。そこで私は、誰にもなににも干渉出来ないが、過去の住人として、存在している。


 つまり、歩けば景色も動くし、村を出れば光景も変わるだろう。だから、あの二人に着いていくことは可能なのだ。


 ……氷狼の村を襲わせた張本人である人物を、知るためにあの二人に着いていけば……私は、まだ見たことのない光景を見ることが……



「ブルヒィイイン!」


「!? いっ、いたぁあああ!?」



 話し込む二人の後を着けていく気持ちが大きくなりつつあった私の頭が、突如強烈な痛みに襲われる。いや、頭というよりは、正確には髪。


 これは髪を、引っ張られている!? むしろ噛まれている!? その痛みに、目がチカチカする。



「いぃいいい!」



 とにかく離してほしくて、首を振ったりして抵抗する。痛い、逆効果だ。


 痛みに思わず目をつぶり、何度もまばたきする。すると、先ほどまで見えていた過去の光景が、徐々に映らなくなっていき……



「ぁ……」



 思わず、右目を覆い隠していた手を退けてしまう。すると、もうそこに『過去』はなくて……『現在(いま)』の姿が、映し出されていた。


 あっけない、過去の映像の幕切れだった。



「……って痛い痛い痛いからぁ!」



 しかし、そちらにばかり気をとられてもいられない。髪が痛いのだ、抜けてしまいそうだ。


 なんとか後ろを確認し、髪を引っ張っているものの正体を見つけると……そこには、ボニーがいた。ボニーが、あのいい子が、私の髪を抜き取ろうとせんとばかりに引っ張っているのだ。



「ちょ、っと痛いから! ホントに! タンマタンマ!」


「ブルル……」



 私の必死の呼び掛けが届いたのか……髪を引っ張っていたボニーの力は、急激に抜けていく。そして、口に咥えられていた髪も、解放された。


 うぅ、なんかベトベトだ。なんだって、こんなことを……



「ブルヒィィン」


「わっ、と」



 またも、突然の行動。先ほどまで私の髪を抜こうとしていたボニーは、次に私の頬を舐めてきたのだ。くすぐったい。これは、いったい?


 気のせいか、ボニーが心配そうな瞳をしているような気がして……



「もしかして……引き戻して、くれたの?」


「ヒィイイン」



 それは、私の勝手な妄想かもしれない。都合のいい解釈かもしれない。


 ただ、あのままだったら……私は過去の映像に囚われすぎて、戻ってこれなくなっていたんじゃないか。過去にのめり込みすぎて、現在(いま)へ戻れなかった可能性が……あったかもしれない。


 過去だと割りきっていても、現在と完全に切り離して考えることは、出来なかったかもしれない。


 そうならないために、ボニーは、私の意識を戻すために、あんなことを?



「ったく、よしよし」


「イィイン」



 ボニーの鼻辺りを撫でてやると、多分喜んでいる様子を見せる。人懐っこいというか、本当に賢いっていうか……



「……なにしてんの」


「ぅおおぉう!?」



 そこへ、声をかけてきたのは……ユーデリアだ。過去のではなく、正真正銘現在の。


 突然のことに驚いたのと、先ほどの光景が離れないのとで、顔を直視出来ない。



「べ、別にー? そっちこそ、どうしたの?」


「いや、お参りが済んだからさ……」



 と、答えるユーデリア。あぁ、そうか……ユーデリアは、村人の墓を作ってて、その間の時間私は、過去の映像を見ていたんだった。


 過去から戻ってきたタイミングと、ユーデリアが戻ってきたタイミング、ぴったしだ。……あれ、もしかしてボニー、単にユーデリアの用事が済んだからボーッとしてた私を引っ張っただけなんじゃ?



「なんか辛気くさい顔してないか?」


「べべっつにー? なんでもないけど?」


「……あんなそんなキャラだっけ?」



 仕方ないでしょ! いくらなんでもあんなもの見せられた直後に、当事者と平然とした顔で向かい合えるほど私の神経は太くないよ!


 ……まあそれはそれとして。この左目が、なぜ過去の映像を見せたのかはわからない。けれど、判明したことはいくつかある。ユーデリアの過去も含め、謎の人物の存在も。


 逆に……『呪剣』がどうしてコルマの手に渡ったのか、呪術とはなんなのか。増えた謎も、ある。

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