表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した  作者: 白い彗星
氷狼の村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/546

村を滅ぼす火



『みんな逃げろ、火事だ!』



 村の中から、野太い声が響く。それは、誰のものかはわからない……だが、村の異変を知らせるには、充分なものだった。


 その声の大きさに、内容に、切羽詰まった様子に。村人たちは、それぞれ反応を見せる。


 なにが起きたか理解しすぐに動く者。混乱からその場に留まる者。逃げるよう隣人に声かけを行う者。獣型に変化し火事の下へ向かう者。


 ただの火事ならば、氷狼の冷気によって凍らせれば済む話だ。落ち着いて考えれば、それくらいわかる。なぜ、そうしないのか。


 みんながみんな混乱している、とは考えにくい。ならば、こうまで大騒ぎしている理由。それは……



『あっちからも火が上がってるぞ!』


『こっちもだ! どうなってんた!』



 あちこちから、火が上がっていくからだ。遠くの家が、近くの家が、草木が、燃え上がる。


 生き物とは、本能的に火を恐れる動物だ。それは、いくら人の姿になることが出来る氷狼であっても、変わらないらしい。人々は火に恐れ、子供は泣き出す。


 それでも、ここで起こっているのが火事だけだったならば、対処は容易かったはずだ。火事だけ、だったならば。



『おい、なんだお前たち!』



 それは、この村の住人以外の存在を指す言葉。その言葉が示す先には……複数の、鎧を来た人間がいた。


 あれは、マルゴニア王国の……!? あいつらが、この村に火を放ったってことか!



『あんたら、兵隊か? ならちょうどいい、村にいきなり火が……』



 ザクッ……



 詰め寄る男性は……その言葉を、最後まで言わせてもらうことなく、命を落とした。フードを被った一人の人物に、首をかっ切られて。


 血が吹き出し、力なく倒れていく。側にいた女性が血を浴びて、放心状態から気を取り戻す。



『いっ、いゃあああ! あなた! あなたぁああ!!』



 女性は叫び、倒れた男性へと近寄っていく。自らが返り血を浴びているにも関わらず、しゃがみこみ男性の体を揺する。


 だが、そんなことをしても男性には反応一つない。当然だ……今の一太刀で、男性の命は完全に断ち切られていたのだから。



『あぁ、あなた…………どうして……どうして、こんな、ことを……!』



 その言葉から察するに、男性は女性の主人なのだろう。


 悲しみに暮れる女性は、声を涙で震わせ……次第に、怒りに震わせていく。その細く白い腕を、藍色の体毛が覆い隠していき……顔を、体を、人間から獣の体へと変化させていく。


 食い縛る歯は鋭い牙へと変化して、その怒りの矛先を、主人を殺した人物へと向けて……



 ザシュッ……



 完全な氷狼へと変化する前に、男によって命を散らされた。


 力を失った女性はそのまま重力に逆らうことなく、地面へと倒れる。その際、主人と重なるように地面へと倒れていたのが、せめてもの救いだっただろうか。


 最期は、二人一緒にいられて。



『きっ、貴様ぁああああ!!』



 村に共に住む人が、隣人が殺され……村人たちは、怒りを露にする。もはやそこにいるのが、王国の兵士であろうと関係ない。


 仲間の仇をとってやると言わんばかりに、次々に獣型へと変化していく。



『仲間の敵討ち……か。短絡的な思考だな』



 言いながら、夫婦の氷狼を葬った人物が呆れたような言葉を漏らす。自分がやった行いを、悔いた様子もなく。


 その人物は、ゆっくりフードを脱ぎ……素顔を、露にする。その正体は……



「……バーチ……!」



 男の顔は、忘れるはずがない。マルゴニア王国で、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアの側近として存在していた男。ユーデリアの故郷……つまりこの村を滅ぼした張本人。


 名を、バーチ。ユーデリアの復讐の直接的な対象だった男だ。



『おいおい、なにしてんだよ。これじゃ処分するのが面倒になっただけじゃねえか』



 さらに……バーチの隣に、フードを被った人物が新たに並ぶ。誰だ……バーチと、同じ格好?


 兵士のように、鎧で身を固めているわけでもない。マルゴニア王国の人間じゃ、ないのか?



『わざわざ氷狼を獣状態にさせなくても、人間の姿の時に隙をついて殺しときゃ楽なのによ。あんな派手にしやがって』


『なぁに。伝説の生き物、氷狼とヤってみたいと思っていたんだよ……本気の殺し合いをね』


『そーかい、この戦闘バカが』



 バーチと、親しみさえ感じる会話をしている。いったい何者だ……声色から判断すると、女か?



『わざわざ素顔さらす必要もないだろ』


『なぁに、フードで見えにくくなって戦いに支障が出るのも嫌なのでね』


『戦闘バカじゃねぇ、変態だ』



 そうしているうちにも、村人は次々と獣型へと変化していく。これだけの数の氷狼……まさに、圧巻だ。



『貴様ら……どうやって、この村の居場所を知った!』



 村人の一人が、吠える。大人である分、ユーデリアよりも一回り以上大きい。それが何人、何十人といるのだ。こりゃあ、並の人間じゃ太刀打ちすら出来ないだろう。


 しかし、バーチとフードの人物は臆する様子もない。後ろのマルゴニア王国の兵士たちは、ともかくとして。



『はんっ。それに答える義理は、ないね』



 なぜこの村の居場所がわかったのか……その質問に答える者は、いない。代わりに、フードの人物が答えるのは別の言葉だ。


 それと同時に、右手の指をパチンと鳴らす。すると……



『!? ぎゃ、あぁああ!?』



 村人の中から、悲鳴が上がる。それはなぜか……わざわざ確認するまでもない。なぜなら、村人の集団から火の手が上がっているからだ。


 村人の集団は当然、火の手から逃れるためにその場から離れていく。数々の悲鳴が上がる中わかったのは……一番最初に聞こえた悲鳴と、火の手はどうやら同じ所から起こっているらしい。


 そして、火の手プラス悲鳴の原因はというと……



『あぁああ! あつ、熱いぃい! 助げて、ぐ……!』


「人が……燃えてる……?」



 火の元……それは、村人の一人が燃えているせいであった。村人は、その火から逃れるために、道を開ける。


 なんで、人が燃えている? 魔法によるものか? いや、誰も魔法を撃った気配はなかったし……



『はっ、最初からこうすりゃいいのさ』


「……あいつか?」



 先ほど指を鳴らしたあのフードの人物。あいつが、なにかしたのか?


 さらに、もう一度指を鳴らす。すると、今度は別の村人から火の手が上がる。



『ぅ、あぁああ!?』



 村人自体、なにが起こったのかわかっていない様子だ。ただ、指を鳴らしただけで……


 ……まるで、体の内側から燃えていくような。



「なんだ、あいつ……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 前に出てた、なんか怪しい感じの部下の女の人ですかね。 指パッチンで炎、いいですよね。かっこいい。でもこれは敵だから許すまじ! 体の中から燃えるだなんて、おそろいしい魔法です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ