寂寥の交わり
筆者自身の、この、止め処なく流れてくる気持ちを文字にしないと壊れてしまいそうだった。
「ねえ、私達ってさ」
バックストリートボーイズが控えめに流れるバーの店内、突如として発せられた女の錆びたような声が弱々しく僕の鼓膜を震わせる。
「『さ み し さ』の『さ』と『さ』の距離みたいよね」
「つまり、どういう事?」
僕は誤魔化すように残りのグレンフィディック12年のオン・ザ・ロックを流し込んだ。
「そのままの意味よ。誰かの文章を引用させてもらったわ。」
そう言って女は気怠くセブンスターに火を点けた。
「だけどさ」
頼む宛の無いドリンクのメニュー表をパラパラとめくりながら僕は女に言う。
「漢字の『淋しさ』になれば一つ一つになった気がする。さんずいに林の。」
「お上手ね。でも私、『淋しさ』って漢字は好きじゃないの。」
女はセブンスターの真っ白な煙が暗い店内の闇に溶けていくのを眺めながら言った。それは、さっきより幾分か錆が落ちたような鋭い声な気がした。
「だって、まるで二人で泣いているみたいなんだもん。『林』って漢字の木と木の距離は近いけど。 」
会話の間、僕達の目が合った事は一度もなかった。