ヒトは見かけによらない
いつもママには「じゅんばん通りに話しなさい」って言われてたけど、わたしには、むずかしいの。
だから、おぼえてるところから書くことにするわ。
ポカポカで、お空にはマシュマロみたいなくもがうかんでる日だったわ。
ママに「おつかいに行ってきて」って言われたの。
ほんとはテレビを見たかったんだけど、ママは「おてつだいのほうがだいじ」って言うにきまってるから、おつかいに行くことにしたの。
ポーチにおさいふとメモを入れて、いざ、しゅっぱつ。
それでね。おうちを出るとき、ママに「あやしいおじさんについてっちゃダメよ」って言われたの。
あやしいおじさんっていえば、おもちゃとかおかしをくれるおじさんのことよね?
学校の先生に聞いても、おとなりさんに聞いても、同じ答えがかえってくるわ。
だから、へんなおじさんに声をかけられても、ぜったいにおへんじしないでおこうってきめたの。
それがいけなかったのかしら?
おかいものがおわって、おうちにかえるときに、お姉さんに道を聞かれたの。
ちょっとおけしょうがこかったけど、やさしそうなお顔をしてたから、うっかりしちゃったわ。
あれだけ「よそのヒトの車にのっちゃダメ」って言われてたのにね。
右にまがらなきゃいけないところで、きゅうにスピードを上げてまっすぐに走り出したの。
うんてんしてるお姉さんに「そっちじゃない」って言おうとしたら、かがみに写ったお姉さんの目にビックリしちゃった。
だって、車にのる前のやさしい目じゃなくて、おとなりさんのおにわにいるゴエモンみたいに、こわかったんだもの。
それで、キーって音を立てながら車がとまって、それから、それから……。
えーっと。気がついたら、このおへやにいたの。
キレイなおふとんがあって、カワイイぬいぐるみもあるし、おいしいオヤツだって食べられるけど、おへやのそとに出ることだけはダメなの。
エアコンがきいててかいてきだけど、まども時計もないから、いつ、どこにいるのか、まったくわからないの。
パパやママ、それから学校のみんなは、きっとしんぱいしてるわ。でも、どうしたらいいの?
教わった通りにしなかったから、こんなことになったのね。でも、あやしいおじさんじゃなかったんだもの。
みんなも、ヒトを見かけではんだんしちゃダメよ。がようしがたりないから、これでおしまい。