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アバターは変更できません  作者: 401
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05「チュートリアル:クラス変更/スキルの使用」

 ぴょんと二階の窓から飛び降りる。

 結構怖かったが、問題なく着地出来た。まあ、四階から落ちても痛いで済んだのだ。この程度なら問題にならないのは道理だろう。


「あっつい……」


 しかし、落下には耐えられても、この熱気は今までと同様に受け取らなければならないらしい。

 容赦なく照りつけてくる太陽を仰ぐ。今は九月初頭。まだまだ残暑が厳しい時期だ。


 僕は人目につかない場所に隠れ、メニュー画面を起動。髪型と装備を変更する。

 ぱさりと黒い長髪が揺れ、地味なスウェットが派手な色のパーカーとショートパンツに切り替わった。


「うーん……」


 ゲームの装備だから仕方ないが、ちょっと露出が高すぎやしないだろうか。パーカーの下のタンクトップは大きく胸元が空いているし、ショートパンツは丈が短い。おまけにぴったりと尻にフィットして妙な気分になる。


 一昨日は気にする余裕も無かったが、こうして女の子っぽい服を着るのは、やっぱり恥ずかしい。どちらかといえばかっこいい系の装備を選択したのだが、やっぱり自分の服を着てきた方がよかった気もする。


 だが、もしそれを母さんあたりに見られたら、知らない女子が勝手に息子の服を着ているように見えるわけだし……


「ウチに何か用?」

「母さ……っ?!」


 いつの間にか母さんが近くに立っていた。

 飛び降りるところを見られてはいないはずだが、物音を聞いてやってきたのかもしれない。思わず反応しそうになった口を抑える。


「かあ……?」

「い、いえ……ハンカチが、飛ばされちゃって」


 苦笑いをしながら何も入ってないポケットに手を突っ込み、パーカーのフードを被る。


「ああ、そうなの。てっきりウチの子の知り合いかと」

「あはは……勝手に庭に入ってすいません、それじゃあ」


 早足でその場を立ち去る。話しているとボロが出そうだ。

 僕はぎこちない足取りで、街に向かって歩いていった。



 ゲームの敵と戦ったり体がアバターに変化したあの日から二日経過し、今日は日曜日。必要になりそうなものの購入と、注文したカラーコンタクトレンズを受け取るために出かけることにした。


 昨日は色々と大変だった。部屋に引きこもって母さんを誤魔化すことに始まり、トイレの仕方に混乱してあわや漏らしかけ、スキルの暴発で部屋の壁に穴を空けたりと、そりゃもう散々だ。


 あ、ちなみに壁の穴は装備の耐久値を回復するスキル「リペア」を使うことで修復出来た。ゲームではレア度の高い装備は自己再生するために死にスキルと化していたが、一応取っておいてよかった。メリーズグリムに斬られた制服のズボンも修復出来たし。


 ともあれ、昨日を何とか凌ぎ切った僕はこうして街へと繰り出していた。


 服のカラーリングが派手なせいか、あるいは真っ赤な目のせいか、普段より感じる人目が遥かに多い。

 せっかくなので試しにメニュー画面を一瞬だけ開いてみるが、周囲の人達が驚く様子はない。やはり、この画面は僕にしか見えないらしい。


 他にも意識して他人を注視すればレベルやHPが確認できること、大抵がレベル1であることなどを発見しつつ、学校帰りに立ち寄る雑貨屋へと足を踏み入れる。


「えーと、買うものは……」


 赤い瞳を隠すためのサングラス、顔を隠す用の大きめなマスク、長く細いタオルを何本か……


 使いそうなもの、使えそうなものを雑貨屋で購入していく。出来うる限り早く元の姿に戻るつもりだが、その間の面倒事を避けるためにもここでケチるわけにはいかない。


 守るべきは日常だ。そう思いつつ、いっぱいになった籠をレジカウンターに置いた。顔馴染みの店員さんがぎょっとした目でこちらを見る。僕の赤い瞳に驚いたのだろう。


「あ、これカラコンなんですよ、似合ってます?」

「え、ええ……」


 軽く笑いかけるようにして言うが、店員さんは戸惑った顔だ。……そういえば、相手からしたら初対面か。知らない少女がいきなり馴れ馴れしく話かけてきたら困惑するだろう。


 他人に変身する展開はマンガで読んだことがあるが、現実でソツなく振る舞うのは意外と難しい。

 今後のことを考えて練習しておくべきかなあ、と思いつつ店を出た。

 結構荷物が多くなったが、小指で軽々と持てる。筋力もかなり上がっているようだ。


「ゲームじゃ攻撃特化にしてたけど、こうなると技量に振った方がいいかなあ……」


 メニュー画面を開き、自分の能力値(ステータス)を見る。


宵神 朱忌/Aki Yoigami

 HP:17651/17651 MP:5002/5002

 MainClass:切断能力者(ディバイダー)Lv101

  SubClass:射出能力者(ブラスター)Lv100 


 基本表示の後に、「物理」「異能」「技量」「速度」「継戦」「感覚」といった項目が並んだ。これらのパラメータはレベルアップした後、自分でどれぐらい上げるか調整することが出来る。


 「技量」は命中率に関わるパラメータで、ゲームでは操作の腕前(プレイヤースキル)さえあれば攻撃が命中したために全く上げていなかった。


 だが、ゲームで攻撃を当てられても、現実だとそうはいかない。レベル36程度のモンスターに苦戦した以上、この能力値を上げるのは最優先だろう。


 画面を操作して、先日のレベルアップによって上げられる分を全て「技量」に注ぎ込む。

 試しにしゅっと虚空に向けてパンチを繰り出してみるが、特に変わった感じはしない。


 もうちょっと上げないと実感できないのだろうか、などと思っていると、メニュー画面のミニマップに映る青い光点が、路地裏から僕の現在地を示す場所に近づいてきた。


 振り返る。髪を脱色し、アクセサリーを纏ったいかにも軽薄そうな男が僕の肩を叩こうとしていた。

 目があった瞬間男は少し眉を上げたが、そのまま軽い調子で話しかけてきた。


「こんなとこでどうしたの? 待ち合わせとかしてる?」

「え? いや、してないですけど……」


 少し身構えつつ返事をする。

 もしや、僕が常人でないことに気づいたのだろうか。メニュー画面が僕にしか見えないことは事前に確かめたが、虚空を指でなぞっているのは怪しかったかもしれない。


「じゃあさ、このあと何か用事ある? よかったら一緒にどっかいかない?」

「……!」


 いや……これはもしやすると、ナンパというやつではなかろうか! 実物を見るのは初めてだ。しかも相手が僕だとは。この男も運が無いな、可哀想に。

 というかいくら見た目がこうだからって、こんな卑屈で性根が悪そうな相手に声をかけるなんて、運だけじゃなく見る目もない。


「うーん……」


 僕は顎に手を当てて悩む。少し試したいことがあったのだが、この辺なら人気も無いし、ちょうどいいかもしれない。


「えーと、そのぉ、ですね……」


 後ろ手でメニュー画面を操作しながら、少し言い淀む。僕は面の皮の厚みには自信があるが、流石にこういう事を言うのは少し恥ずかしい。


 やや消極的な態度で困った風な笑顔を浮かべる。男は押せばイケると踏んだのか、段々と距離を詰め、ついには手首を掴んできた。軽く振り払おうとしてみるが、男はニヤニヤと笑みを浮かべ、離そうとしない。おお、悪質だ。これなら言える。


「なあ、ちょっと付き合ってくれればそれでいいからさ――」

「帰ってテメエの貧相なモンせんずり扱いてろ、ボケ」


 少し照れて頬を掻きつつも、思い切って言ってみた。

 男はあっけに取られたような顔を晒した後、真っ赤になって僕の胸倉につかみかかった。


「このアマ……!」

「《精神誘導(マインドリード)》」


 スキルのアイコンをタップすると同時に、男がピタリと動きを止めた。

 困惑した顔でぱっと手を離し、僕の顔を眺めてくる。


「あ、ん? なんだ……?」

「僕のこと、どう見えます?」

「……俺の友達(・・・・)、だよな? いや、でも、なんで……今会ったばかりなのに……」

「おお、なるほど。一つ聞きますけど、頭がぼんやりしたり、体が痛んだりはしませんか?」

「いや、そんなことはない……けど、なんで俺はお前をナンパしようとしてたんだ? お前、()だよな?」

「どっちだと思いますか?」


 僕は再度アイコンをタップし、スキルを解除する。男がハッとした顔でこちらを見た。


「なん――なんだ、今の……!?」

「催眠術ですよ。《誘眠(スリープ)》」


 別のアイコンをタップ。男が頭を抑えながら、ふらふらと壁を背に座り込み、いびきをかき始めた。男の頭の上に睡眠の状態異常を示すアイコンが浮かぶ。


「……ふむ」


 僕は再度メニュー画面を開き、自分の能力値を見た。


 MainClass:切断能力者(ディバイダー)Lv101

  SubClass:精神感応者(テレパス)Lv1


「レベル1の初期スキルだけど、意外と使えるなぁ」


 僕は変更したサブクラスを元に戻しながら呟く。


 ゲーム「イマジナリークロノス」では大抵のMMORPGの類に漏れず、キャラクターがどのようなスタイルで戦闘するか決める職業(クラス)システムが存在する。


 剣士や魔術師などの職業(クラス)があるファンタジー系のRPGと違い、念動力や瞬間移動など職業(クラス)が超能力をモチーフとしたものになっているのが特徴だ。


 僕は催眠術をモチーフとしたスキルを持つ精神感応者(テレパス)職業(クラス)を変更し、この男相手に実験してみたのだ。ゲームでは精神感応者(テレパス)は全くの手付かずでレベルも1だったのだが、ちゃんと効果が発揮されている。


「ゲームじゃ敵からの狙われやすさ(ヘイト)を上がりにくくするだけのスキルだったけど、これなら色々便利そうだ」


 精神感応者(テレパス)が最初から習得しているスキル《精神誘導(マインドリード)》。設定(マテリアル)には「相手が抱く自身への認識を操作する。敵対心を抱きにくくする他、精神感応者(テレパス)が一般人に紛れ込む際にも使用される」と書かれていた。


 記憶は残るようだが、どう見ても女子にしか見えない今の僕を男と思わせることも出来たし、応用性はかなり高そうだ。これなら、明日からも普段通り学校に通うことができるだろう。


 少し浮き足立って自宅へ帰る。途中のコンビニで注文したコンタクトレンズを受け取り、日が沈み少し薄暗くなった街を歩く。


 家の近くで立ち止まる。また母さんと鉢合わせになったらまずいな、と思いつつ母さんの位置を確認するためにミニマップを広げた。


「ん……?」


 ミニマップの端に、赤い光点が映っている。

 マップに映る光点はキャラクターの種類によって青、緑、赤などに色分けされている。青はプレイヤー、緑はNPC、そして赤は――(エネミー)だ。

 二日前から今日まで青い光点しか見ていなかった僕は、一瞬その赤い光を見て固まる。そして慌ててマップを大画面に切り替えた。


「学校……?」


 僕はスマホを取り出し、地図アプリとマップを照らし合わせる。赤い光点のある場所は、間違いなく僕の通っている高校を示していた。


 通報してから二日しか経っていないし、まだ警察がいるとは思うのだが……。

 念のため、行った方がいいかもしれない。スマホをポケットに突っ込み、学校に向かって駆け出した。

精神感応者テレパス

 補助系クラスの一次職。条件無しでいつでも変更可能。

 基本的な支援スキルや、各種耐性ステータス上昇のパッシブスキルを持つ。


精神誘導(マインドリード)

使用条件:精神感応者テレパスLv1以上

効果:一定時間ヘイト上昇率を減少させる。スキル熟練度に応じて効果時間、性能が上昇。

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