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アバターは変更できません  作者: 401
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04「チュートリアル:キャラクター情報の確認」

「ええ、はい……校舎にでっかい犬と刃物を持った女の人が……いや、今はいないですけど……床やら窓やらが壊れてて……え? 僕の名前? ……えーと、日暮(ひぐれ) (つかさ)です」


 がちゃんと受話器を元に戻す。

 司、勝手に名前使ってすまんな。今度ラーメン奢る。


 さて。


「逃げるか」


 警察が来る前に家に戻ろう。本物の日本刀を持ったコスプレセーラー女子(中身は男)なんてどう考えても怪しい。というかさっき自分で言った「刃物を持った女」として逮捕される可能性大。

 とりあえず刀だけはメニュー画面のアイテム欄(インベントリ)に仕舞い、僕は家に向かって駆け出した。


「う、おっ?!」


 戦いの時は気にする余裕がなかったが、めちゃくちゃに足が速い。

 一息で校庭を走り抜け、ジャンプ一つで軽々と塀を飛び越えられる。陸上選手も真っ青だ。

 ちょっと楽しい。電柱や道路標識を蹴りながら、ぴょんぴょんと人気の少ない道を駆け抜ける。


「――っと」


 車が走ってくるのを見て、咄嗟に物陰に隠れた。……いかんいかん。目立ったらヤバいって確認したばかりじゃないか。


 こそこそと、しかし素早く家へと向かう。メニュー画面のミニマップで周囲の人間の位置を確認出来ることに気づいてからは、スムーズに移動できた。

 どうにか人に出くわさずに家へとたどり着く。隠れながらなのに普段よりずっと早い。いつもの通学時間の何分の一なのやら。


「……ただいまー……?」


 僕にしか聞こえないような声で呟きつつ、鍵を使って扉を開ける。

 家の中は真っ暗。母さんはもう寝ているらしい。


 ひとまず、掃除ついでに風呂に入ろう。僕の身体は消火器と土煙のせいでひどく汚れている。別にちょっとわくわくとかはしていない。ムラムラもしていない。ただ身体が汚れたから風呂に入るだけ。これは自然な行動。と自分の心に言い訳しつつ、風呂場に入る。


「えーっと……」


 この服、どうやって脱ぐんだろうか。さっぱり分からないので、メニュー画面から「装備解除」を選択する。

 フッと服が消えて、ゲーム内でアバターを脱がせた際に表示される、上下セットの簡素な黒いインナーが(あらわ)になった。


「…………」


 ……お、思ったより胸あるんだな、この身体……。いや、確かにキャラメイクしたのは僕だが、ゲームでは基本的に肩越し三人称視点でプレイしていたために、自分についているのを見ると思った以上に大きく見える。カップ数にするとBとかなんだろうか。全然わからん。


 メリーズグリム相手に戦っていた時以上の心拍数を感じつつ、ハーフトップに手をかけた。……やばい、鼻血出てきそう。

 全年齢対象のゲームだと局部の造形(モデリング)はまずされることがないが、この身体にはちゃんと、その……あった。


 胸に手を伸ばしかけたところで目的を忘れていることに気づき、浴室に入る。

 ひとまずシャワーで身体についた粉やら砂やらを洗い流した。


「…………」


 幾ばくかの不安と期待を感じつつ、浴室の鏡についた結露を拭う。


 ――鏡面に、水に濡れた美少女が映った。

 大まかな顔形、印象などは三角面(ポリゴン)で構成されていた3Dキャラクターと同じだ。だが、鏡に映る少女は紛れもなくリアル、本物の人間としてそこにいる。ゲームキャラクターとしての整った目鼻立ちや、シミ一つない透き通った肌、可憐になるよう計算してデザインされた容貌をそのままに。


「うわー……」


 え、これ、ポリゴン数何億ぐらい? まるで実写じゃん、PCスペック大丈夫? なんてズレた感想が浮かんだ。まるでも何も実写である。落ち着け僕。


「……けど、微妙に僕の面影を留めてるせいで、イマイチ興奮しづらい……」


 睡眠不足で出来た目の下のクマや、キツネのように釣り上がった目、人を見下した不遜な表情、雰囲気として発せられる陰鬱さ、何故か残っているそれらの特徴のせいで、美少女ではあるが何となく内面が透けて見える。……自分で言ってて悲しくなってきた。


 気を取り直す。ぱちぱちと目を瞬かせると、鏡面に映った少女も驚いた顔で長い睫毛を動かした。真っ赤な瞳が真っ直ぐに僕を見つめる。

 そう、瞳が真っ赤なのだ。目が、ではなく瞳。思わずアルビノを連想するが、これは僕がキャラクターの瞳の色をそう設定したからだろう。髪は自然な黒色なのに、その瞳だけは非現実的、あるいは幻想的だ。


 いつの間にか思った以上に顔を近づけていることに気がつき、少し離れる。鏡に一糸まとわぬ少女の全身が映った。スレンダーかつしなやかな肢体を見て、湯船にも浸かっていないのに頭が茹だる気がした。


 羞恥心と違和感を感じつつ、無心になって身体を洗う。ここまでで既に十分以上経過している、このままではいつまでたっても風呂が終わらない。


「髪なげー……」


 どんだけシャンプー使えばいいんだこれ。困惑しながらもどうにかシャワーを終えた。……風呂はもういいか。ささっと風呂掃除を終え、身体を拭いて服を着替える。身長はそこまで変わっていないはずなのに随分ぶかぶかだ。

 その後、普段の数倍の時間をかけて髪を乾かし終わり、自室に戻った。



 冷めた夕食を食べつつ、片手間にパソコンでインターネットブラウザを立ち上げ、ゲーム「イマジナリークロノス」について検索する。


「……やっぱり、突然ゲームの敵が現実化したなんて書き込みはないか」


 一通り検索結果を眺めていくが、どこのサイトにも特段変わったことは書かれていない。いくつかのSNSでも検索してみるが、これも同様。「あのゲーム終わったのか」などといった投稿が散見されるのみだ。


 ならばとニュースサイトで最近の事件について検索する。が、当然「ゲームに出てくるようなモンスターに人が襲われ身体が変化」なんてニュースはない。そんなのがあったらもっと話題になっているだろう。


 地域の細かいニュースや、海外の事件を虱潰しに調べれば何か手がかりが得られるのかもしれないが……そんなの、時間がいくらあっても足りない。


 二時間ほどニュースを漁った末に諦めてブラウザを閉じ、未だにアンインストールしていなかった「イマジナリークロノス」のアイコンをダブルクリックする。


《「MMORPG・イマジナリークロノス」は2026年8月25日0:00をもちまして、サービスを終了いたしました》

《長らく「イマジナリークロノス」をご愛顧いただきましたプレイヤーの皆様には……》


 サービス終了時と変わらない文面を見て、ため息をつきつつゲームを終了した。

 予想はしていたが、何の収穫もない。元の姿に戻るためのとっかかりさえも見つからなかった。


「またあんなのが襲ってくるんだったら、このままの方がいいんだろうけど……」


 それでも、いつまでもこの姿のままというわけにはいかない。ぱっと思いつくだけでも面倒事が三十個は浮かぶ。差し当たって面倒なのは、髪が長すぎて蒸れることだ。ゲームならパパっと髪型を変更出来たが――


「あ、そうだ、アバター編集!」


 僕は不可視のキーを叩き、メニュー画面を表示させる。キャラクターの容姿は基本的にゲームスタート後から変更不可能だが、課金すれば自由に変更出来る。性別項目だって選択できたはずだ。


 そう思い立って、僕は勢いよく「アバター編集」のボタンをタップした。


《ポイントが足りません。公式サイトのショップページからポイントを購入してください》

「…………」


 慌てて先程閉じたブラウザを再度立ち上げ、ショップページに移動する。


《404 not found -ページが削除された可能性があります-》


 ペしりと額を叩いて無言で天井を仰ぎ見た。


「なんでだ……五百円分残ってたはずなのに……」


 ああ、そういえば余ったポイントは別サービス用に変換されたんだったか。

 再度ため息をつき、髪型だけでも変更する。髪型、アクセサリー、装備の変更は無課金でも可能だ。これはゲームの時と変わっていない。


 背中の中ほどまであった長い黒髪が、肩に届かないぐらいの長さに変化した。……あれ、これ風呂の時にやっておけばすごい楽だったんじゃないだろうか。もう今更だが。

 机の引き出しから卓上用のスタンド鏡を取り出し、顔を見る。


「うーん……」


 百歩譲っても男には見えない。髪だって女子にしては短めというだけで、男として見ればやや長い。僕だって高校に入ってから洒落っ気を出してちょっと伸ばしてはいたが、それでもこれは長すぎる。


「けど、これより短い髪型パーツ持ってないしなあ」


 僕の好みはロングヘアの女の子である。ゲーム内で購入出来るアバター用のパーツの中にはこれより短い髪型もあったが、わざわざ買うことはしなかった。


 ……切るか。


 ハサミを取り出し、適当にじょきじょきと短くする。変な髪型になりそうだが、床屋に行って「スポーツ刈りにしてください」って言うのもどうかと思うし。いや僕は別にスポーツ刈りではなかったが。

 そうやって切っているのだが、一向に髪が短くならない。


「んん……?」


 試しに前髪をひと房手に取り、切る。

 切られた髪はすぅっと伸びていき、何事も無かったかのように元の髪型に戻った。


「もしかしてHP自動回復スキルか、これ?」


 余計なところだけ親切である。常時発動(パッシブ)のスキルなために、解除することもできない。

 落ちた髪をまとめ、適当な袋に包んでからゴミ箱へと放る。

 まあ、仕方ない。髪はこれで妥協しよう。


 後はこの真っ赤な瞳を何とかしないといけない。「カラーコンタクトレンズ 黒」でネットを検索する。


「うわー、高い……」


 男子高校生にとっては苦しい値段だ。しかもこれで二週間分。一月分買えば月のお小遣いがほぼ消滅する。


 躊躇いつつも、泣く泣くコンビニ受け取りで注文。速達にしたので、月曜までには届きそうだ。幸い明日は土曜日。学校もないし、母さんには「新しいゲームにハマったから週末は部屋に引きこもる」と言っておこう。

 ひとまずは、こんな物か。


「後はメニュー画面を確認して、ついでに攻撃系じゃないスキルもちょっと試してみないと……」


 やるべき事は多い。だが、慣れないことが続いたせいで思った以上に疲労していたのかもしれない。まだ午前一時過ぎだというのに、僕は気付かぬうちに眠りに落ちていた。

Height:158.9cm→156.0cm

Weight:51.4kg→47.0kg

Gender:Male→Female


髪型:ストレートロングヘアC→デフォルトショートヘア

髪色:#080016(濡羽色)

瞳色:#E0002A(シグナルレッド)

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