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第78話 火竜の怒り

 レオンはハンス達と地上に堕ちた『火竜(ファフニール)』を改めて見比べる。


(ギルド『天馬の矢』。Bクラスモンスター『火竜(ファフニール)』をいとも簡単に……。人数から見て俺達と変わらない零細ギルドなはず。これがロランの育成能力だっていうのか)


「大丈夫ですか? その人、ひどい怪我をしているようにみえますが……」


 クレアがジェフを見て言った。


「回復魔法をかけるか、街まで戻って治療を受けたほうがよさそうだね」


 アリスがジェフの傷を検分しながら言った。


「ねぇ。それよりも!」


 セシルが話に割り込む。


「エリオが、私達の仲間がまだ一人で『火竜(ファフニール)』と戦っているの!」


 セシルが言うまでもなく向こうの方から『火竜(ファフニール)』のけたたましい鳴き声が響いてきた。


「む。まだ、火竜(ファフニール)がいたのか。アリス、クレアいくぞ。青鎧の彼を助けるんだ」




 エリオは盾を構えながら『火竜(ファフニール)』とにらみ合っていた。


(くそ。レオン達のところに駆けつけたいのにっ)


火竜(ファフニール)』は空を旋回しながらもなかなかエリオのことを見逃してくれず、『火の息(ブレス)』で攻撃してきた。


 そのため、エリオも背中を見せて逃げるわけにはいかず、互いに睨み合ったまま動きが取れない状態だった。


(そろそろ鎧のコーティングもやばいか?)


 エリオは先ほどから自らを覆う鎧の反射(リフレクト)の機能が弱まってきているのを感じていた。


 それは盾と鎧の耐久も限界に近いことを意味していた。


 その時、赤い三本の矢が火竜(ファフニール)に突き刺さる。


(なんだ!?)


 エリオが矢の飛んで来た方向を見ると、弓矢を構えている男性一人と女性二人がいた。


火竜(ファフニール)』は新たなヘイトの矛先を見つけて攻撃目標をエリオからハンス達に変える。


(あの赤い矢、まさか彼らが?)


「む。一撃で倒せなかったか」


「先程の火竜(ファフニール)よりも一段レベルが高いようね」


「なら、もっとダメージを与えるまで。行くわよ」


 アリスが駆け出して『火竜(ファフニール)』の側面に回り込もうとする。


火竜(ファフニール)』は『火の息(ブレス)を吐いて、焼き殺そうとするが彼女を捉えることができない。


(速い! 空を飛ぶ『火竜(ファフニール)』に対して、俊敏(アジリティ)で優越してる。この三人は一体……)


 アリスはその俊足で『火の息(ブレス)』をかわすだけに飽き足らず、弓に矢を番え射撃しようとする。


(スキル『速射』!)


 アリスの放った矢は『火竜(ファフニール)』に刺さる。


「グッギギィ」


火竜(ファフニール)』はアリスを睨みつけた。


 本当はアリス以外の残る二人にも注意を向けなければならないのだが、先ほどから彼女がかわしては矢を放ってくるため、目をそらすことができなかった。


(アリスのスキル『速射』。威力は通常の半分に下がるが、その分通常の二分の一の予備動作で矢を放つことができる。アリスの俊敏(アジリティ)は僕たちの中でも抜けているから敵の注意をかき回すこともできる。ヘイトを集める囮役としてはもってこい。あとは……)


 アリスが『火竜(ファフニール)』のヘイトを集めてくれるおかげで、ハンスは悠々と『抜き足(サイレントラン)』で気づかれないまま『火竜(ファフニール)』の死角に入ることができた。


(あとは通常の『弓射撃』で仕留めるだけだ)


 ハンスが矢を放つと『火竜(ファフニール)』に寸前で気づかれ、かわされる。


(む。外したか)


火竜(ファフニール)』はその長い首を翻して、ハンスの方にその口を向ける。


「『火の息(ブレス)』が来るぞ! 逃げろ!」


 エリオが悲鳴を上げるように叫んだ。


 しかし、射撃態勢のハンスはすぐに動けない。


火の息(ブレス)』がハンスに襲いかかる。


 その時、ハンスの弓矢に埋め込まれた赤い宝石が輝いた。


火竜(ファフニール)』の吐いた『火の息(ブレス)』を吸い込んでしまう。


(あれは……『炎を吸い込む鉱石(ファイアフルト)』!?)


「さあ、お膳立てはしたよ。後は頼む姉妹達よ」


 クレアが弓に三本の矢をつがえる。


(スキル『連射』!)


火の息(ブレス)』を吐いている途中の『火竜(ファフニール)』はクレアの射撃に対応できない。


 クレアの放った三本の矢は全て『火竜(ファフニール)』に命中する。


 駄目押しとばかりに、アリスが『速射』を放つ。


 しかし、それでも『火竜(ファフニール)』はまだ生きていた。


 ハンスに向かって突進してくる。


「素晴らしい勇姿だ火竜(ファフニール)よ。だが、これで終わりだ!」


 ハンスが弓に矢を番えると、『炎を吸い込む鉱石(ファイアフルト)』が反応した。


 通常の射撃とは違うハンスのスキル『魔法射撃』だった。


 火の息(ブレス)を纏った赤い矢が『火竜(ファフニール)』の額に当たる。


 自身の吐いた火の息(ブレス)も付けて射撃された『火竜(ファフニール)』はあえなく地面に墜落する。


 エリオは彼らの戦闘を見て唖然としていた。


(この三人、『火竜(ファフニール)』をいとも簡単に。なんて俊敏(アジリティ)と対空火力、それに連携だ)


「ふう。どうにか倒せたな」


「ハンス。怪我はない?」


 クレアが心配そうに聞いた。


「ああ、大丈夫だ。『炎を吸い込む鉱石(ファイアフルト)』はよく炎を吸い取ってくれたよ。それよりも彼は……、む?」


「どうしたの?」


「茂みの向こうから人の気配がする」


 ハンスは茂みの向こうに目を凝らした。


 すると剣と盾を装備した集団が近づいて来るのが見える。


「あれは、『白狼』!?」


 アリスが顔を強張らせながら言った。


「白兵戦になるか」


 ハンスも厳しい顔になる。


(僕達の戦術はヒット&アウェイ。白兵戦になりそうな場合、逃げろというのがロランの指示だが……、エリオ達の俊敏(アジリティ)盗賊(シーフ)から逃げ切るのは無理だ。どうする? エリオ達を見捨てるか? いや、しかし一度助けるといった手前、見捨てて逃げるのは流石にかっこ悪いか?)


 などと、ハンスがあまりかっこよくない葛藤をしているうちにも、『白狼』の『剣装備の盗賊(ソード・シーフ)』達は、木陰を回って近づいて来る。


 ハンスが悩んでいるとエリオが飛び出した。


「エリオ!?」


「地上戦は僕に任せろ!」


 エリオは向かってくる『剣装備の盗賊(ソード・シーフ)』達の真っ只中に突撃していき、青盾・青鎧の反射(リフレクト)効果で彼らの武器を叩き折っていく。


『白狼』の『剣装備の盗賊(ソード・シーフ)』達は瞬く間に敗走した。


「やるわねあの人。一人で数人の盗賊(シーフ)を追い返しちゃったよ」


「凄い防御力ですねぇ」


 アリスとクレアが感心したように言った。


「やあ、大丈夫かい?」


 エリオの下に駆け寄ったハンスが手を差し伸べる。


「凄い防御力だったね。ナイスファイト」


「いや、君達こそ、『火竜(ファフニール)』を倒すなんて凄いよ。それにしても……」


 エリオはハンス達の装備に目を移した。


 彼らは対空射撃の装備以外、最低限のものしか身につけていなかった。


 こんな装備でダンジョン内を生き抜けるのだろうか?


「僕達はヒット&アウェイで対空戦以外すぐ逃げるようにしてるんだ」


 エリオの視線に気づいたハンスが説明する。


「だから僕達は空を飛ぶモンスターしか狩れない。でも、君の対地上での戦闘力と僕達の力を組み合わせれば……、面白いことになりそうだね」


 ハンスは親しみを込めた微笑を浮かべながら言った。


「う、うん。あの、君達はいったい……」


「エリオ! 大丈夫?」


「怪我はないか?」


 セシルとジェフに肩を貸したレオンが茂みの向こうから近づいてくる。


「リーダー。みんな。無事だったか」


「ああ、お前も無事そうだな」


「リーダー。この人達は……」


「ああ、たまたま通りかかったらしい。同じ『精霊の工廠』の提携ギルドということで助けてくれたんだ」


「えっ? 『精霊の工廠』の?」


「あー、うむ。積もる話は置いといて、とりあえず街に戻らないか? 弓使い(アーチャー)の彼、重症なんだろ?」


「おお、そうだったな」


「待って、この揺れは何?」


 クレアが不思議そうに言った。


 言われてみれば、とその場にいる7人は先ほどから感じる微弱な振動を不審に思った。


 揺れだけではない。


 森の木々からは鳥が飛び立ち、『火竜(ファフニール)』を始めとした竜族はけたたましく鳴き声をあげている。


 まるで天変地異の前触れのようだった。




 その頃、大同盟を撃退した『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』は今さら自らの快適な睡眠を妨害した冒険者達に腹を立てていた。


 そこで火山の火口付近でジャンプしては地面を踏みつけして、ひたすら火山を刺激する。


 そうしていると、火口からマグマがせり上がってきて、やがて火山は噴火する。


 溢れ出たマグマは溶岩となって、山を下り、岩を溶かしたり、新しい堆積物を形成した。


 ダンジョンの地形は変わり、溶岩は火山の周囲の森を越え、街にまで侵食した。


巨大な火竜(グラン・ファフニール)』は、自分の起こした災害が人間界を脅かしたのを見届けると満足して、また深い眠りにつくのであった。

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