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第70話 大同盟

「さぁ。早く港に船を付けろ。『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を討伐しに行くぞ。この『竜頭の籠手(ドラグーン)』をぶっ放したくてウズウズしてるんだよ俺は!」


「隊長、スキルの状態は万全ですが、装備には整備が必要です」


「なにぃ。そうなのか?」


「当然ですよ。船に乗りこんで1ヶ月。おまけに海の上だっていうのにそんな風に四六時中潮風に晒して」


「それなら、『竜の熾火』だ。世界一の錬金術師ラウル・バートレーの下へ! 奴に会うのも久しぶりだな。腕が錆びてなけりゃあいいんだが」


「無理ですよ。もう今夜は閉まってます(というか夜は入港できません)。今夜はもう錨を下ろして、明日の朝、港に入りましょう」


「あー。ウズウズするぜ。早く『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』相手に俺の力を試してぇ」




 翌朝、ギルド『魔導院の守護者』は『火竜の島』に入港した。


「よぅし。お前ら準備はできてるだろうな? 『竜の熾火』へ行くぞ。街の盗賊供に財布を擦られないよう気を付けろよ」


 彼らは全員魔法陣の意匠をあしらった武具・鎧を身に付け、ギルドの旗章を掲げ、シンボルカラーである紫のマントを羽織り、装いも華やかに、物々しく大通りを練り歩いた。


 街の住人は、この物珍しい見せ物を見るべく列を作り、大通りはさながらパレードの様相を呈した。


「ねえ、セイン。たかが錬金術ギルドへ行くのになんでこんなフル装備で行くの?」


「決まってるだろ? 我がギルドの武威をこの島の連中の目に焼き付けるためだよ」


「にしてもこれはやり過ぎじゃない? パレードみたいだよ」


「バーカ。最初が肝心なんだ。舐められたら終わりだぞ」


『白狼』のジャミルとロドは人混みに紛れてパレードの様子を見守っていた。街の広場にたどり着いたセインはパレードをするだけでは飽き足らず、中央のステージに立ち、群衆に向かって演説を始めた。


「私はギルド『魔導院の守護者』第三部隊の隊長セイン・オルベスタ。『魔導院の守護者』第三部隊と聞いて、諸君はこう思うかもしれない。『魔導院の守護者』といえば、去年は結局『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を狩れなかったじゃんとか、去年は第1部隊が来たのに、今年は第3部隊かよ、と。しかし、案ずることはない。私はスキルに磨きをかけ、強くなってこの島に戻ってきた」


 セインは『竜頭の籠手(ドラグーン)』を上空に向けた。


 籠手(ガントレット)の手のひらに開いた穴の部分から、火が吹く。


 会場には火柱が立った。


 天を衝く炎の弾丸に会場はどよめく。


「おお、なんて火力だ」


「『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』より凄いんじゃないか?」


「これは期待できるぞ」


「頼む。勇者よ。我々を救ってくれ」


「見たか。この俺の装備『竜頭の籠手(ドラグーン)』ならば『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』の分厚い鱗にも一撃で風穴を開けることができる。君達が『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』の災害に悩まされるのも今日が最後だ。我々は島由来の資源レアメタルを荒らすだけ荒らし、もらうものをもらえば、さっさと立ち去るといったようなことはしないあそこに!」


 セインは火山の頂上を指差した。


「あそこに眠るSクラスモンスター。『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を、倒して諸君に永遠の安寧をもたらすことを約束しよう」


 群衆から喝采が上がった。


 なにせ外から来たギルドときたら、ここ最近、資源だけ持ち帰ってダンジョンを荒らすだけ荒らし街には一銭のお金も資源も落とさず帰っていくことがほとんどだった。


 地元住民のために戦ってくれるとはっきり宣言した冒険者ギルドは久しぶりだった。




「チッ、いい装備つけてんな、(やっこ)さん」


 群衆に混じって彼らの演説を聞いていたジャミルは彼らを一人一人ステータス鑑定していく。


「全員、ステータスはBクラス以上。その上武器には魔法の装飾が施してある。武器攻撃も魔法も高水準のスキルを持っているに違いない。特に奴……」


【セイン・オルベスタのステータス】

 腕力パワー:80

 耐久タフネス:80

 俊敏アジリティ:80

 体力スタミナ:120

 魔力:120


「基礎ステータスが全体的に高水準な上、魔力は一級だ。おそらくスキルについても凄まじいものを持っているに違いない」


「それにしても、よくもまああれだけの魔導騎士を揃えたな。魔法と武器のスキル、両方持ち合わせてるやつなんて滅多にいないだろうに」


「『魔導師の街』には、魔法学の最高権威と言われる魔導院がある。そこには世界各国から魔法を研究するために集まってきた学者どもが在籍していて、住民は全員、幼い頃から魔法を履修することが義務付けられるそうだ」


「魔法先進地帯ってわけか」


「おまけにギルド『魔導院の守護者』は魔法陣が装飾された武器を扱えなければ入れないという。奴らの部隊に前衛とか後衛とか明確な役割分担はない。全員が剣・盾・弓矢を扱う戦士であると共に、魔法を操る魔導師だ」


「戦いにくそうな相手だな」


「なぁに。ここは俺達の島で奴らにとってはアウェーだ。人の庭に入ってきたこと、後悔させてやるぜ」


「しっ。アイツ、まだ何か話すことがあるようだぜ」


 セインは群衆に向かって演説を続けた。


「人々の中には我々が『火山のダンジョン』について無知であることを不安に思う者もいるだろう。しかし、Sクラスモンスターを討伐するのに、我々は単独で討伐に向かうような愚を犯さない。我々は島の冒険者ギルドに広く協力を求め、大同盟を結ぶことを提唱する」


 群衆がざわつく。


「大同盟?」


「なんだ? 大同盟って?」


「大同盟とはどういうものですか?」


 群衆の一人がセインに尋ねた。


「大同盟とは文字通り我々『魔導院の守護者』と島のギルドで手を取り合い、一致団結して『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』の討伐に向かうことだ」


「大同盟への参加資格は?」


「一切ない。ギルドの規模やスキルのレベルなどの足切りは一切外して、島中の全てのギルドが参加可能だ」


 また群衆から喝采が上がった。


 人々は彼らこそ『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を討伐してくれる勇者ではないかと期待した。


 群衆の反応とは裏腹に、ジャミル達は皮肉な笑みを浮かべる。


「大同盟だとよ。どうする? アイツらと一緒に『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を討伐しに行くか?」


「まさか」


「ん? どうやら奴ら移動するようだぞ」


「『竜の熾火』の方だな」


「隠れるぞ。まだ顔を覚えられるのはマズい」


「初めて顔を合わせるのはダンジョンで」


「殺し合いの場で、だな。ククク」


 彼らは雑踏に紛れて身を隠した。




 ロランも群衆に紛れて、彼らのスキルとステータスを鑑定していた。


(『魔導院の守護者』か。『西の大陸』屈指の魔導騎士ギルド。噂は伊達じゃないな。確かに全員、凄まじい魔力とステータス。加えて……)


【『火炎の剣』のステータス】

 威力:80

 耐久:80

 特殊効果:火炎付与


【『火弾の盾』のステータス】

 威力:80

 耐久:80

 特殊効果:火炎無効化


(魔法で鍛えられた特殊効果付きの装備。アイナの『外装強化(コーティング)』にも反射(リフレクト)の効果があるが、彼らには必要ないだろうな)


 魔導騎士達は『竜の熾火』の方へ向かっていた。


(やはり向かうのは『竜の熾火』の方か。強力な魔導騎士の部隊と世界有数の錬金術師集団。上手く噛み合えば、確かに最強の組み合わせになるが……。さて、どうなるかな?)




 ロランと『白狼』の面々が『魔導院の守護者』の動向を注視するように、彼らの動向を一心に見守っている少女が一人いた。


 彼女の名ははカルラ。


 生粋の島民である。


 彼女のセイン達を見る瞳には、煮えたぎる憎悪にも似た感情が宿っていた。




「ギルド『魔導院の守護者』の皆様、ようこそおいでくださいました」


『竜の熾火』の工房アトリエに辿り着いた『魔導院の守護者』の面々は、メデスとラウルによって迎えられた。


「いよう。メデス殿。元気だったか?」


 セインは陽気に話しかけた。


「ええ、おかげさまで」


「よおセイン、俺の作った『竜頭の籠手(ドラグーン)』を壊してないだろうな?」


「ラウルか。安心しろ。ほれ、この通り」


 セインは袖をまくって、『竜頭の籠手(ドラグーン)』を見せる。


「むしろスキルを向上させて、前より使いこなせるようになったぜ。が、少し船旅が長過ぎた。整備を頼む」


 セインは『竜頭の籠手(ドラグーン)』の留め金を外し、ラウルに渡す。


「ふん」


「他の皆様も装備を職員にお預けください。我々が責任を持って整備いたしますよ」


「ようし。お前達、装備を預け次第、寛いでいていいぞ。メデス殿、早速商談に移ろうか」


 セインとアルル、メデス、ラウルの四人は、商談する部屋へと向かって机を囲んだ。




 セインは金貨のどっしり入った袋を机に乗せる。


「全部で2000万ゴールドほどある。これでしばらくの間は整備料としては問題あるまい?」


「ええ、もちろん。ありがたく頂戴いたします」


「さて、では本題に入るが、我々は今回、『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を狙っていてな」


「ほお、『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を……」


「ああ、広場でも宣言してきたところだ。そこで君達にも支援を頼みたい。特に我々はこの土地に疎くてな。情報提供は欠かさずして欲しい」


「無論、我々としても全面的に協力させていただきますよ」


「では、ちょっといいですか?」


 アルルがこの場で初めて発言した。


「盗賊ギルド『白狼』の動向を知りたいのですが。まだあなた達は彼らのことを支援しているのでしょうか?」


「その件ですか……」


 メデスは悩ましげにため息をついた。


「我々も奴らとは縁を切りたいと思ってはいるのですがな。いかんせん、あれでも地元最大の冒険者ギルド。我々としても切っても切れないのですよ」


「つまり、僕達がダンジョンにいる間も彼らに武器とサービスを提供し続ける、そういうことですか?」


「……そうなりますな」


「それ、やめてもらえません?」


「ふむ?」


「僕達はただでさえ、『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』という強敵と戦わなければならないんです。その上、背後を脅かされるなんてたまったものじゃない」


「そうは言ってもですな……」


「何もずっと関係を断てと言っているわけじゃないんです。僕達がダンジョンにいる間だけでも……」


「おい、いい加減にしろよテメェ」


 ラウルが言った。


「俺達がどこの誰と取引しようが俺達の勝手だろ。お前らにそこまで干渉される筋合いはねえよ」


「おい、ラウル……。お客様に対して……」


「そもそもだ。お前ら『西の大陸』随一のギルドだろ。それがたかが、盗賊ギルドごときにビビってんじゃねえよ。それとも何か? 俺の『竜頭の籠手(ドラグーン)』を使っておきながら、盗賊ごとき倒せないってのか?」


「……」


「テメーらがそういう態度なら。こっちは取引を断ったっていいんだぜ」


「おい、ラウル……」


「ふっ、そうだぞ。アルル。何をそんなに弱気になっている。たかが、盗賊ごとき、俺達の魔法を備えた鎧に傷一つつけることはできん。ギルド長、ラウル、ご心配には及ばない。我々は盗賊ごときに足をすくわれるほど間抜けではないよ。見事、『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を倒し、レアメタルを獲得した上で、盗賊どもも殲滅してみせますよ」


「フン。分かりゃあいいんだよ。アルルとやら。テメーも分かったか?」


「隊長にこう言われちゃあ、副隊長の僕としてはこれ以上とやかく言うわけにはいきませんね。分かりました。もう何も言いませんよ。ただ、念のため聞いておきますが、盗賊ギルドに便宜を図るあまり、我々の装備に細工をする。そのようなことはないようにお願いしますね」


「みくびらないでいただきたい。我々は錬金術ギルド。客を選ばないというだけで、義務を怠ったことなど過去一度もありませんよ」


 メデスが言った。


「だと、いいんですけどね」


「さ、堅苦しい商談はこれで終わりだ。仲直りの握手を。ほら、お前も。ようし。それじゃあ、どうせ今日はダンジョンに潜れないんだ。情報集めがてら酒場に行くか。たらふく飲むぞ」


「セイちゃん、羽目外しすぎ」


「ちゃん付けはやめろ! ほら、さっさと行くぞ」


「ハイハイ」


 メデスとラウルは彼らが出て行くのを見守った。


「やれやれ、えらく楽天的な奴らが来たものだな」


「『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を倒すとか言ってたな。フン。口先だけじゃあなけりゃあいいが」


「ラウル、『竜頭の籠手(ドラグーン)』の整備は抜かりなく頼んだぞ。あれを整備できるのはお前だけなんだ」


「ああ、分かっているよ」




「『アースクラフト』採取クエスト?」


 レオンはロランの提案に面食らった。


「ああ、今こそ絶好のチャンスだと思う」


 レオンは頭をかいた。


「なあ、ロランよ。今、この島の冒険者ギルドは真っ二つに割れている。大同盟に与するか敵対するかだ」


「ああ、知ってる」


「それがなんで、『アースクラフト』採取クエストなんだ?」


「継戦能力を高めるためだ」


「継戦能力?」


「そう。僕の見たところ、この島の零細ギルドはダンジョンでの継戦能力に問題を抱えている」


「……」


「鉄や銀、そしてレアメタルを始めとした資源が簡単に手に入ることから、この島の冒険者ギルドは『アースクラフト』の価値を軽視している。そして、みんな『魔導院の守護者』の大同盟に注目している。今こそ、小規模ギルドの小回りを生かす時だ。盗賊ギルドの注意も『魔導院の守護者』に向いているはず。他のギルドの注意が逸れているうちに、『アースクラフト』の採取クエストに力を入れて……」


「ロラン、お前は島の外から来たもんだから知らないだろうがな。この島にやって来る奴らは各大陸の代表ギルドであり、精鋭部隊だ。選ばれた者の集団なんだよ。毎回、この島にやってきては、レアメタルを根こそぎ奪っては帰って行く。今回もそうだろう」


「……」


「俺達、零細ギルドとしては少しでもおこぼれに預かるために、奴らに取り入らなきゃならねえ。情けねえと思うかもしれんがな。それが俺達の、零細ギルドの現実なんだよ」


「レオン、何もそんなに突き放さなくても」


 エリオが二人の会話に割って入ってきた。


「ロランの言うことも少しは……」


「それにだ」


 レオンはエリオの言うことを遮って、続けた。


「もう既にギルドから指示が出てんだよ。『魔導院の守護者』を支援するように、とな。ギルドから指令が出た以上、俺達としてはこれ以上どうしようもねえんだ」


 レオンはそれだけ言うと、『精霊の工廠』を立ち去って行く。


「悪いな、ロラン。協力できなくて」


 エリオが申し訳なさそうに言ってくる。


「いや。こっちこそ。無理言って悪かった。さ、君も行けよ。準備があるんだろ?」


「……」


 エリオは申し訳なさそうにしながら工房アトリエを出て行く。


「『暁の盾』もダメか」


 ディランはため息をついた。


 すでにロランとディランは一通りのギルドに、『アースクラフト』採取クエストをこなしてくれないかと、持ちかけて回り、全て断られたところだった。


「この島の人々は相当自信を失っているみたいだね」


「ああ、こればかりは一朝一夕にはどうにもならん」


(島の外から大手ギルドが来ただけでこの有様か。しかし、どうする? このままじゃ、絶好のチャンスをみすみす逃すことになる)


 ロランは歯噛みした。


(どこかに、そう、例えば『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を倒すくらいの気概を持つ冒険者ギルドはないものか……)


「おい、ここが、『精霊の工廠』か」


 ロランは突然聞こえてきた少女の声にハッとした。


「君は……」


【少女のスキル】

『剣技』    :C→A

『影打ち』   :D→A

『アイテム奪取』:E→A


(これは……『影打ち』に『アイテム奪取』がAクラスのポテンシャル。Aクラス盗賊シーフの資質を持つ者!)


「私はカルラ・グラツィア。この剣を『巨大な火竜(グラン・ファフニール)』を倒せるように鍛えてくれ」

流石に毎日投稿息切れしてきました汗

明日からは隔日連載になるかもです

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文庫第6巻が3月25日(金)に発売です!
ふーろさんが丹精込めてイラスト描いてくださりました。
可愛いピンクのツインテールが目印です。
よければチェックしてあげてください。
i632441
― 新着の感想 ―
[一言] また女キャラですが、もう女落とす要素は不要かな。
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