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追放されたS級鑑定士は最強のギルドを創る  作者: 瀬戸夏樹
第一章、冒険者の街編
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第56話 その後

 ロランはダンジョンに来ると自分の部隊を集合させた。


 来期のダンジョン攻略前、部隊に顔を出せる最後の機会だった。


「よし、みんな揃ってるね」


 ロランは自分の部隊を見回しながら言った。


 さっとステータスをチェックする。


(うん。問題ない)


 ロランは自部隊の状態に満足すると話し始めた。


「聞いての通り、『金色の鷹』からは第二部隊が『鉱山のダンジョン』に派遣される予定だ。セバスタがいなくなったとはいえ、彼らは経験値豊富なベテランの精鋭ぞろい。鍛錬も怠りなく、ダンジョン攻略への準備は万端だ(と、いうのは嘘だけれどね)。君達といえども油断したら足元をすくわれるだろう。各自、ダンジョン探索に備えて準備を怠らないように」


「はい、はーい。質問です」


 ユフィネが手を挙げた。


「なんだい?」


「ロランさんは私達と『金色の鷹』どっちの味方なんですか?」


 部隊の間にピリッとした空気が流れる。


「いい質問だ。一言で言うとどちらの味方でもあり、どちらの味方でもない」


「というと?」


「知っての通り、僕は今や『金色の鷹』のギルド長だ。しかし、『魔法樹の守人』ロラン隊、隊長としての籍も失っていない。そういうわけでロラン隊隊長としての職務を遂行しつつ、『金色の鷹』のギルド長として第二部隊の支援もしなければならない。微妙な立場なんだ。どちらにも過剰に肩入れできない」


「なるほど。つまりロランさんからすれば、どちらが勝っても問題ないと?」


「んー、事情はもう少し複雑だけれども、まあそういうことにしておこうか。とにかく、僕は次回のダンジョン探索には参加せず、両部隊の勝負を公平に見守るつもりだ。一つ言えるのは、勝負は常に時の運。微妙な差によって決まるということだ。君達には決して油断せず悔いの残らないように戦って欲しい。説明は以上だ。他に何か質問はあるかい? ないね。それじゃあ各自最後の調整に入るように」




『魔法樹の守人』でリリアンヌは、警察を迎えていた。


 ルキウスの捜査に関することで相談を受けるためだ。


「では、まだルキウスは捕まっていないのですか?」


「ええ、我々も全力で捜査しているのですが……」


 警察は申し訳なさそうに言った。


 リリアンヌは腕を組んで難しい顔をする。


(ここまで追い詰められて、なおまだ降参しないとは。彼もなかなか往生際の悪い人ですね。もう復権のチャンスがないことくらい分かるでしょうに)


「非常線は貼り続けているので、まだこの街にはいるはずなのですが……。『魔法樹の守人』様の方で何か手がかりは掴めていませんか?」


 警察がおずおずと尋ねた。


「ありませんね。そんなものがあればすぐにでもそちらに報告していますよ」


「はあ……。やはりそうですか」


 警察は悄然として、うなだれた。


 リリアンヌは目の前の男のことが気の毒になってきた。


 ここ数ヶ月、何度も冒険者が事件を起こしていることもあって、当局もかなり神経質になっていた。


 彼も何か手がかりを持って帰らなければ上司にどやされるのだろう。


「元気を出してください」


 リリアンヌは明るい声で話しかけた。


「大丈夫ですわ。犯人の考えを読んで、粘り強く捜査すれば必ず捕まるはずです」


「はあ……」


「私達も協力を惜しみませんから、どうかもう少し頑張って下さいな」


「……そうですな。また一から心当たりを洗い直してみることにしましょう」


 リリアンヌは少しだけ元気を取り戻した警察が『魔法樹の守人』の建物を後にするのを見送った。


「犯人の考え……か」


(『金色の鷹』に復帰するのが無理となれば、ルキウスの狙いは……。まさかロランさんを……)


 リリアンヌの脳裏に最悪のシチュエーションが思い浮かんだ。


 一応、以前からリリアンヌはロランに護衛をつけるよう提案していたが、ロランはそれを笑って流した。


 護衛など必要ない。


 自分はそこまで偉い人間でもない、と。


(ロランさんは護衛など必要ないと仰っていましたが、どうにも心配です。何が起こるか分かりませんし、念のため、私の方で手を打っておいた方がいいかもしれませんね)




 ロランは『金色の鷹』の部隊編成会議に望んでいた。


 会議の席にはアリクやイストを始めとしたお馴染みのメンバーが顔を揃えている。


(もう予算の配分は決まっているし、部隊の顔ぶれについても固定されて、イジるところもない(というか、変に干渉したらまた反発されそうだしね)。これ以上揉めるところがあるとしたら……)


「ギルド長。提案があります!」


 第二部隊隊長のイストが身を乗り出してきた。


「なんだい?」


「ジル・アーウィンを我が第二部隊に加えていただきたい」


(やっぱりそう来たか)


 彼らがダンジョン攻略に自信があったのも、ひとえにこの土壇場でジルの力を頼みにしようと考えてのことだった。


 しかし、ロランとしてはそのような負け戦にジルを使いたくはなかった。


 ロランはイストのステータスを鑑定する。


【イストのステータス】

 腕力(パワー):40-80

 耐久(タフネス):40-80

 俊敏(アジリティ):20-60

 体力(スタミナ):60-100


(よくもまあ、このステータスで『鉱山のダンジョン』に行きたいなんて大それたことを言えたもんだ)

 

 まさしくそれは政争に明け暮れて鍛錬を怠けた冒険者の姿だった。


 今の彼らでは、ロラン隊に勝つどころかダンジョンの5階層に到達した時点で息切れしてしまうだろう。


「ギルド長。『鉱山のダンジョン』攻略は我がギルドにとって最優先事項。どうか最大限の支援をお願いします」


「そうだね。まず始めに本人の意見を聞きたい。イストはああ言ってるけど、ジル、君はどう思う?」


「は。私はギルド長のご命令とあらばどこへでも行く所存です。しかし、私の希望としましてはギルド長のお側に仕えたい、というのが一番です」


 ジルはあらかじめロランに言い含められていた通りのことを言った。


「そうだね。僕も同意見だ。ジルはSクラス。戦局を変え得る力を持っている。どのダンジョンに投入するかは、各部隊のダンジョン攻略状況を見て、有利不利をしっかり見極めた上、ここぞという場面で投入するのが一番だと思う」


 ロランがそう言うと、イストは不満げに顔を歪め、何か言おうとする。


 しかし、ロランはそれを手で制した。


「イスト、君の不満はよく分かる。だが、僕は全体のことを見て判断しなければならない」


「しかしですね、ギルド長……」


「大丈夫。心配しなくても、第二部隊には『魔法樹の守人』の精鋭に十分太刀打ちできる。いやそれどころか圧勝して余りあるほどの戦力が備わっている。僕はそう思っている」


 イストはそれを聞いて喉まで出かかっていた言葉を引っ込める。


「僕は第二部隊に所属している中の数名にはSクラスに匹敵するポテンシャルがあると思っている。今期のダンジョン攻略でSクラス冒険者が複数輩出されることもあり得るだろう。僕が恐れているのはジルを配備することでむしろ君達の成長を阻害し、ポテンシャルを発揮する機会を逃してしまうのではないか、ということだ」


 アリクはロランの言葉を聞いてさすがに呆れたような顔をする。


(ロラン。いくらなんでもそれは……。そんな見え透いたお世辞を言われて誰が喜ぶものか)


 しかし、イスト達はあっさりとロランの口車に乗った。


(なんと! ギルド長はそこまで高く我々を評価してくれていたのか。いけすかない若造だと思っていたが、なかなかどうして見所があるじゃないか)


「ギルド長。来期のダンジョン攻略。必ず成功させてみせます!」


「うん。期待してるよ」


 アリクはあんぐりと口を開けずにはいられなかった。


 第二部隊の面々はスキルとステータスの粉飾をするあまり、自分達の実力さえ忘れてしまったようだ。

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i632441
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