第54話 権力と腐敗
第二部隊の面々がロランから妥協を勝ち取ったことに祝杯をあげる中、ミゲル、アイナ、オスカルら、ロランに装備・訓練の変更を命じられた者達は、隅っこのテーブルに集まって居心地悪そうにチビチビとお酒に口をつけていた。
「よぉ。お前達、飲んでいるか?」
第二部隊幹部の一人がミゲル達に声をかける。
「あ、はい」
「先程、イスト隊長から新しい指示が伝えられた。第二部隊は引き続き、22日までギルド長との交渉を続けるそうだ。お前達も引き続き、ギルド長からの命令を無視するようにな」
「はあ……」
ミゲル達はなんと言えばいいのかわからず俯く。
「なんだお前達、そんな意気消沈して。いいか。お前達は何も悪いことなんてしていないんだからな。堂々としていればいいんだ。ミゲル。ギルド長から何か言われても絶対に従うなよ。もし、ギルド長に目を付けられて何かされたら、俺に相談しろ。第二部隊の威信にかけてお前達のことを守ってやる」
「……はい」
幹部の男はそれだけ言うと、イスト達のいる方へ戻って行った。
ミゲル達はため息をつく。
「はー。エライことに巻き込まれちゃったね」
「ホント、やめて欲しいよね上層部の権力争いに私達末端を巻き込むのはさぁ」
彼らは一様に憂鬱そうな顔をする。
『金色の鷹』ではこのようなことは日常茶飯事だった。
彼らとしても、冒険者としての訓練を疎かにして上司の顔色伺いばかりしている現状に、思うところはあったが、それでも身の安定には変えられない。
「私達何やってるんだろうね」
「仕方ないよ。『金色の鷹』じゃ、末端会員には自分の意見を言う権利もない」
「とにかく、今は下手に動くとどこから鉄砲玉が飛んでくるか分からない。なるべく誰にでもいい顔をして、事なかれ主義に徹しよう」
「そうだね」
「それが一番だな」
イスト達が酒場で酒盛りをしている頃、ロランはクラリアをギルド長室に呼び出していた。
「お呼びでしょうかギルド長」
「クラリア、よく来てくれたね。ちょっと頼みたいことがあってさ」
ロランはクラリアを室内に招き入れると、一旦廊下に顔を出してキョロキョロと周囲を見回した。
すでにディアンナは帰宅済みだったが、念には念を入れて、聞き耳を立てられていないかどうか確かめてから席に戻る。
クラリアはその仕草を見てピンときた。
これから極秘任務を言い渡されるのだ。
「何か、他の人には言いづらいことでしょうか?」
「うん。正直、君にこんなことを頼んでいいものかどうか迷ったんだが……」
「何なりとおっしゃってください」
クラリアは身を乗り出して言った。
「ギルド長のお役に立てるなら、どんなことでも喜んで引き受けさせていただきます」
「分かった。ただし、これは極秘任務だ。決して口外してはいけないよ。僕以外の人間に気取られてもいけない。特にディアンナには悟られないよう、十分気をつけて欲しいんだけど……」
「ディアンナさんに? 分かりました。注意します」
ロランはクラリアが任務の重大さについて理解したことを確認すると、慎重に言葉を選んで話し始めた。
「第二部隊の内偵……ですか?」
「ああ、どうも近頃、第二部隊の様子に違和感を感じてね」
「……と、言いますと?」
「交渉に強気すぎる。まるでこちらの懐事情を把握しているみたいに要求の通るギリギリの線を狙ってくる。多分、裏で誰かがこちらの情報を漏洩しているんだと思うけれど……」
「なるほど。それで私に調べて欲しいことというのは? その情報漏洩者のことについてでしょうか?」
「それもある。だがそれよりも先に第二部隊の真の目的について調べて欲しいんだ(どうせ内通者はディアンナだし。泳がせておいて問題ないだろ)」
「真の目的?」
「駄々をこねて、僕の計画を潰すのが彼らの目的とは思えない。現に譲歩案を出せば、彼らも妥協してきたしね。おそらく何らかの地位向上が目的だとは思うが、なぜか向こうからはそれを言ってこない。給与の増額か、待遇の向上か、契約の更新か……。アリク隊になんらかの理由で張り合っているというのは分かるんだけど、とにかく彼らはまだ真の狙いを隠している気がする。あえて言わないのか、それとも言えないのか。どちらにしてもこれ以上、腹の探り合いをして時間とお金を無駄にするわけにはいかない。彼らが僕に望んでいるものと隠している事情をどうにか突き止めてくれ」
「かしこまりました。やってみます。でも……」
「なんだい?」
「私にこのような難しいお仕事できるのでしょうか?」
ロランは一瞬キョトンとした後、思わず笑ってしまった。
「あはははは。心配いらないよ。君ならなんの問題もなく、任務を遂行できる」
今度は、クラリアがキョトンとする番だった。
【クラリアのスキル】
密約:B→A
情報奪取:B→A
(クラリア、君も自分の才能に自覚が無いんだね)
ロランはこのように自分の才能に無自覚な人間を見るとついつい愛おしく感じてしまうのであった。
(初めて君のスキルを鑑定した時は、果たして育てていいものかどうか悩んだけれど……、でももう迷いはない。例え、君のスキルが僕に牙を剥くことになったとしても、僕はもう何一つ後悔しない。道に迷っているスキルを伸ばす。それが僕の役目だと、リリィがそう教えてくれたから)
「『精霊の工廠』と『魔法樹の守人』関連の仕事はしばらく休んでいてもいいから、とにかく君はこの案件に集中してくれ」
「はい、かしこまりました」
「クラリア、それとさ……」
「はい?」
「ギルド長なんて堅苦しい呼び方しなくていいよ。これからも『ロランさん』でいいから」
「はい。ロランさん」
クラリアは嬉しそうに言った。
その後、ロランは黙々と雑務をこなした。
第二部隊との駆け引きも『魔界のダンジョン』の経営も放置して、自分にコントロールできる雑務だけに集中し、時間を費やした。
その間にもギルバートの工作活動は続いていた。
彼の扇動の手はアリク隊にまで伸びて、今ではアリク隊の末端にも、『ロランの命令を無視すべき』、『ロランをギルド長の地位から追いやるべき』という意見に賛同する者が出始めていた。
このような情勢にあって、ロランはアリクとドーウィンからも、煮え切らない態度を責めるような視線を向けられた。
『魔界のダンジョン』の経営をどうするのか。
いまだ人員を供出するつもりのない第二部隊への対処をどうするつもりなのか。
しかし、ロランはそれらも黙殺し、ひたすら耐え続けて、クラリアからの報告を待ち続けた。
下手に動けば、クラリアを使った動きがバレる恐れがあった。
クラリアはロランの命を受けてから、第二部隊のメンバーにさりげなく接触して、目ぼしい情報を引き出しているようだった。
第二部隊の面々は最近、目立った活躍もなく人気に陰りが出ていたため、久しぶりに若い娘からのアプローチを受けるとあっさりと誘いに乗った。
彼らはクラリアがお酒の席にご相伴して、おだてるだけで、簡単に内情を暴露した。
むしろ自慢げに話すほどであった。
「……というわけでSクラスモンスター討伐部隊については、もう少し先になりそうなんだ」
『精霊の工廠』にて、ロランはジルに申し訳なさそうに言った。
「……そうですか」
「ごめんね。せっかく、『破竜槌』の改良が上手くいきそうなのに」
「いえ、そのようなこと。ロランさん、どうか私のことよりも、ご自身のお仕事を優先してください。ギルド長のお仕事は大変なんですから」
「うん。ありがとう」
(ロランさん、大丈夫かな)
ジルはロランの浮かない顔を心配そうに伺う。
彼女の脳裏によぎるのは、例の控え室で交わされていた会話。
彼らは、ロランが『金色の鷹』幹部の間で孤立していると言っていた。
(どうにかロランさんのお役に立ちたいけれど、でも経営のことは私にもよく分からないし……)
結局、ジルはロランから言い渡された任務を黙々とこなすことに徹した。
その代わり、空いた時間は、『金色の鷹』の庁舎内を徘徊し、ロランについて良からぬ噂を口にするものがいないか目を光らせた。
そして、そのような者を見つけ次第、問答無用で締め上げて、噂の首謀者について問い質した。
(一体、誰が何の目的でロランさんを陥れようとしているのか知らないが、見つければ命令を待つまでもない。ブチのめした上でロランさんの前まで引っ立ててやる!)
しかし、そうして不穏分子を潰して回っても、なかなか噂をばら撒いている首謀者にはたどり着けなかった。
ロランを陥れようとしている者は相当巧妙に立ち回っているようだった。
そして、21日、ついにクラリアはロランの欲しい情報を持ち帰ってくる。
「お待たせしました、ロランさん」
「クラリア。それでどうだった? 何か良い情報は掴めたかい?」
「はい。何名かの第二部隊所属者に探りを入れたところ、今回の騒動の狙いについてアッサリと口を割ってくれました」
「そうか。じゃあ、早速だが、聞かせてくれ。調査の結果を」
「はい。第二部隊の方々は、来期のダンジョン攻略において、アリク隊が『鉱山のダンジョン』を割り当てられることを恐れているようです」
「『鉱山のダンジョン』を? 一体なんでまたそんな……」
そこまで言って、ロランはハッとした。
(そういえば、彼らは会議でも『鉱山のダンジョン』に拘ってたな)
「彼らはギルド長が『魔界のダンジョン』に注力するのは一時的なことで、結局、最も優遇されるのは『鉱山のダンジョン』担当者だと考えているようです。また彼らはロランさんがギルド長に就任する以前から、自分達よりアリク隊の方が優遇されていたことに不満を持っていたようです。ルキウス時代、元々は『鉱山のダンジョン』を担当していたのは、第二部隊だったのに、その役割をアリク隊に取って代わられて、そのことも根に持っているようです」
「でも、総合的な実力や実績を鑑みれば……」
「ええ、ですから、スキルやステータスを粉飾してでも総合的な戦力でアリク隊を上回れるよう躍起になっていたようで……」
「つまり、彼らは来期のダンジョン攻略において、自分達よりもアリク隊の方が優遇されそうなのが気に入らない。そういうことかい?」
「ええ、かと思われます」
ロランは額に手を当てて項垂れた。
(結局は縄張り意識か。そんなことで張り合って、虚偽の申告までして、結果的に部隊の戦力を低下させるようじゃ本末転倒じゃないか)
「こちらの情報を漏洩している内通者については何かわかったかい?」
「すみません。それについても探りを入れたのですが、なかなか口を割って下さらなくて……。ただ、彼らを扇動している人物、その人物はディアンナさんとは別の方のようです。ディアンナさんの名前を出して探りを入れてみましたが、特に不審な素振りは見られませんでした」
「……そうか」
(第二部隊と直接繋がってるのはディアンナではない……。となると、誰か他に第二部隊を扇動している人間がいる?)
「ありがとうクラリア。第二部隊が何を考えているのかよく分かった。あとはこっちでやっておくよ。君は通常の業務に戻ってくれ」
その後、ロランはまたイスト達をギルド長室に呼び出した。
彼らは一様に強面の顔をさらに強張らせて、一切気を許したり、妥協したりしないという様子でロランの前に立った。
「一体何のご用ですかな、ギルド長?」
「君達に協力してほしいことがあるんだ」
「協力?」
「ああ、『魔界のダンジョン』をアリク隊と共に開発して欲しい」
「ギルド長。何度も言いましたが、我々はアリク隊の下では……」
「その代わり!」
ロランはイストの言葉を遮って口を挟んだ。
「君達、第二部隊には、来期、部隊一の予算を支給するつもりだ」
イストはピクッと表情を動かして口を止めた。
「さらに、君達には来期『鉱山のダンジョン』の攻略を任せたい。もし、君達が『鉱山のダンジョン』を攻略することができれば、君達には『金色の鷹』第一部隊を名乗ることを許可しよう」
ロランがここまで言い終わると室内はシーンと静まりかえって、沈黙に包まれた。
(ダメか? これが今の僕にできるギリギリの妥協なんだけど……)
「ギルド長……」
部隊長のイストが、沈黙を破り厳かな調子で口を開いた。
「うん?」
「我々、第二部隊はあなたに忠誠を誓いますよ」
イストはニッコリと笑いながら言った。
第二部隊の面々は、ロランに対して敬礼の姿勢をとる。
「えっと、じゃあ、ダンジョン経営の件は……」
「もちろん、全面的に協力させていただきますとも」
(コイツら……。いいのか? 来期、『鉱山のダンジョン』を担当するということは、『魔法樹の守人』のロラン隊と戦うってことだけど、ホントにいいのか?)
ロランはイスト達の様子を観察するが、彼らは一切の曇りなく、満面の笑みをたたえていた。
そこにロラン隊と戦うことへの不安などは見られない。
(セバスタなき今、君達の実力ではロラン隊に勝つなんて不可能だと思うんだけど……。ホント、いいのか?)
しかし、本人達が了承しているのだから、これ以上口を挟んでも仕方がない。
ロランは、第二部隊が『魔界のダンジョン』の経営に協力してくれることと、来期『鉱山のダンジョン』を担当することについてアリクに伝えた。
するとアリクは不満に顔を曇らせる。
「お前が『魔界のダンジョン』を重視しているのは分かっているんだが……、『鉱山のダンジョン』はずっと我々が担当していたんだ。何もそこまで第二部隊に気を遣わなくったって……」
どうやら彼も来期、『鉱山のダンジョン』を担当できると期待していたようだ。
しばらくの間、グチグチと不満を申し立てる。
しかし、ロランが今後、『魔界のダンジョン』は『鉱山のダンジョン』よりも有望な資源になる可能性があること、さらには『金色の鷹』の雇用を守るため、もといアリク隊の雇用を守るためなんだ、と言うとようやく彼は渋々ながらも納得してくれた。
アリクですら、このようなうわべだけの面子争いに執着があるようだった。
(あれだけ言っても、僕が『魔界のダンジョン』にかけていることは通じなかったのか。幹部にさえ)
ロランは自分の考えがギルドに全く浸透していないのを知って、ガッカリした。
(はぁ。『金色の鷹』の人間って……、ホント……)
ロランは深いため息をつくのであった。
その後、第二部隊はウソのように協力的になった。
『魔界のダンジョン』の開発、訓練の方針、アリク隊との協力、これらの懸案事項に関する問題はアッサリと解消された。
ロランの改革は軌道に乗り始めた。
それからは瞬く間に時間が過ぎ去った。
権力争いに終わりが見え、『金色の鷹』の会員達はホッとしたように自らの鍛錬と仕事に励んだ。
ロランも不安の種が解消し、ギルド経営に精を出した。
ダンジョン経営も部隊の鍛錬も『精霊の工廠』の経営も特に何の問題もなく進んだ。
こうして、今期のダンジョン経営が佳境に入った頃、ロランは一人の男をギルド長室に呼び出した。
その男はあくび混じりに眠そうな顔をしながら室内に入ってくる。
「ふあぁ。一体なんすかー? このダンジョン経営が大詰めを迎えているって時に。こっちは最後の追い込みで忙しいんすけど」
「君がギルバートか」
「ええ、私がしがない下級隊員のギルバートでございますよ。それで? ギルド長ともあろう方が、私ごときに一体何の用ですか、この忙しい時に。大した用事じゃないのなら後にして欲しいんですけど」
「調べさせてもらったよ。第二部隊と第三部隊で横行していたスキル・ステータスの粉飾。あれは君が指示したそうだね」
ロランがそう言うと、ギルバートは眠そうな顔をスッと引っ込めて、真顔になった。
部屋の隅にいるディアンナの方をジロリと睨む。
ディアンナはさっと目を逸らした。
(チッ、こいつチクりやがったな)
ギルバートは仕切り直すようにロランの方に向き直ると、不敵な笑みを浮かべる。
「ええ、そうですよ。セバスタ元隊長時代に始まったスキル・ステータスの粉飾。それを主導したのは、まさしくこの私、ギルバートです」
ロランはギルバートのスキルを鑑定した。
【ギルバートのスキル】
槍術:B
扇動:A
育成:A
スキル鑑定:A
(『育成A』に『スキル鑑定A』。こいつ、これだけのスキルを持ちながら……。これならスキルの粉飾なんてせずとも冒険者を育成できたはずなのに……)
「一体どういうつもりなんだ。こんなことをして。ギルドにどれだけ迷惑をかけたと……」
「確かに俺はスキルとステータスを粉飾した。だが、それの何が悪い? 俺はこのままだと日の目の出ることのない奴らに、一時この世の春を謳歌させてやっただけだぜ。事実、多くの冒険者がルキウスの圧政に苦しむ中、スキル粉飾した奴らは契約を更新して居座り続けた。ククッ。つまり、俺はあいつらを救ってやったんだよ」
「バカなことを……。そんなことがいつまでも通用すると思っているのか」
「なぁ、ロラン。考えてもみてくれよ。お前も身をもって体験しているはずだぜ。このギルドでは、実際の仕事ぶりよりも、声のデカさやうわべを取り繕うことの方が評価される。例え、中身がなくとも、虚飾が入り混じっていようと関係ない。俺も昔はみんなにスキルを伸ばすよう助言してやったんだぜ? なのにこのギルドの連中ときたら……。どいつもこいつも目先の利益と見せかけの評価のことしか考えちゃいねぇ。俺は呆れたぜ。ロラン、お前も見ただろう? 連中の態度を。スキル・ステータスの粉飾を問い詰められても悪びれもしねぇ。誠心誠意ギルドの発展に努める甲斐もないぜ。バカバカしい」
ギルバートは肩をすくめて見せた。
そして、ふとロランに親しみを込めた微笑を送る。
「なぁ、ロラン、かつて追放されたお前なら分かるだろう? 腐り切ってるんだよこのギルドは」
「だが、それも今日までだ。僕がギルド長になったからには、これ以上、そのような腐敗を見過ごしたりはしない! ギルバート、君を『金色の鷹』から追放する」
ギルバートはニヤリと唇を歪めて笑った。
「ククク、なるほど。それもいいだろう。これからはギルドの外からじっくり観察させてもらうぜ。お前が『金色の鷹』でルキウスと同じように腐っていく様をな」
「僕がルキウスと同じようになることはないよ」
「それはどうかな? ロラン、すでにお前はルキウスと同じ失策を犯しているぜ。誠心誠意尽くしてくれるアリク隊よりも、不正を行った第二部隊の連中を優遇するという依怙贔屓をな。お前も知らず知らずのうちに権力の味に慣れてきてるんだよ。『朱に交われば赤くなる』ってな」
「言いたいことはそれだけか? お前がどれだけ詭弁を弄しようとも、決定が覆ることはない」
ロランは出口のドアを指差した。
「即刻、このギルドから出て行け。永遠にだ!」
ギルバートは「フン」と鼻を鳴らしながら、出口のドアノブに手をかけた。
「せっかく助けてやろうと思ったのに。バカなやつだぜ。言っておくがな、ロラン。俺を追放したからといって全てを解決したと思うなよ。『金色の鷹』は必ずお前を蝕むぜ。せいぜい自分で自分の首を絞めないよう、気をつけることだな」
そう言って、ギルバートはギルド長室を後にするのであった。