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追放されたS級鑑定士は最強のギルドを創る  作者: 瀬戸夏樹
第一章、冒険者の街編
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第35話 新人冒険者の育成

『精霊の工廠』主導の下、錬金術ギルドによるダンジョン経営が始まった。


 スコップやツルハシを持った錬金術師達が、列をなして、続々ダンジョンに入って行く。


「ランジュ。これが各錬金術師のスキルリストだ」


 ロランは各錬金術ギルドから提出されたスキルリストに修正を加えたものをランジュに渡した。


「流石ですね」


 ランジュはロランから手渡されたリストを見て感嘆した。


「鉱山の下調べはどうなってる?」


「バッチリですよ」


 ランジュはあらかじめ作成しておいた地図を広げて見せる。


「ダンジョンの8階層に『アースクラフト』の鉱山があります。12階層には鉄の鉱山が、14階層には銀の鉱山があります。ダンジョン内で最も大きい鉱床を持つのはこの三つです。今回のダンジョン経営では主にこの3つのダンジョンを掘ろうかと思います」


「よし。いいだろう」


 ロランは地図に目を通して不審な点がないかどうか確認すると、ランジュに返す。


「ランジュ、今回は利潤を出すことよりも錬金術ギルドの連中をこちらの陣営に引き込むことが目的だ。利潤の追求はほどほどにして彼らに儲けさせてやれ」


「分かりました。冒険者ギルドの皆さんは?」


「手配してある。もうそろそろ来る頃なんだが……。お、来たか」


 ロランは自分の部隊がモニカに率いられて近づいて来るのを目で捉えた。


 通常の部隊員に加えて、リック、レリオ、マリナの3人の新人もついて来ていた。


 新人の3人は初めての任務を前に緊張の面持ちでダンジョンの入り口までやって来る。


「うぅ。緊張しますぅー」


 マリナが不安気に言った。


「僕もだよ。まさかいきなり『魔法樹の守人』の主力部隊に加わることになるなんて」


 レリオも同調するように言った。


 彼らは三人共、一応養成所を卒業できるほどの成績は修めたものの、並程度の成績で、まさか『魔法樹の守人』のような大手ギルドに就職できるとは思っていなかった。


 すでに彼らは同期の者達の嫉妬と羨望の眼差しを一通り向けられた後である。


「おい、お前達、無駄口を叩くんじゃない。これからダンジョンに入るんだぞ」


 リックはすっかりリーダー然とした態度で言った。


 彼はその何事も率先して行う気質から、新人三人のまとめ役のような立ち位置になっていた。


(主力部隊と一緒に訓練できる。これはチャンスだ。ここで隊長に認めてもらうことができれば、一気に有名冒険者への道が開けるかもしれないぞ)


 リックは人一倍意気込みながら隊列の後ろの方を行進していた。


「止まれ! 整列!」


 モニカは部隊を整列させた後、ロランの下に駆け寄る。


「ロランさん。部隊の招集完了しました」


「うん。ご苦労様」


(あ、この人、面接してた人だ)


 レリオはロランの方を不思議そうに眺めた。


(見た所鑑定士のようだけど……、この人もダンジョンに入るのか? というか、この人は一体どういう……)


 リックも首を傾げた。


(Aクラス冒険者のモニカさんが真っ先に挨拶している。この人はそんなに偉い人なのか?)


 三人がぼうっとしているうちにも他の隊員は一人一人、ロランに挨拶していく。


「あの、すみません。あの方は一体……? 鑑定士と見受けられますが……」


 リックはベテランの隊員に聞いてみた。


「ああ、あの人はね……」


「ちょっと、あんた達なにやってんの」


 ユフィネがリック達を咎めるように鋭い調子で話しかけた。


「この人は私達『魔法樹の守人』の第二部隊、隊長のロランさんよ」


「「「え”っ!?え”え”え”!?」」」


 三人は一様に素っ頓狂な声を上げた。


「あんた達は新人なんだからなおさら、挨拶しなきゃダメでしょ」


「こ、これは失礼しましたー」


 リックがすかさず頭を下げる。


 残りの二人もそれに倣った。


(あれ? でもダンジョン攻略の石碑にロランなんて名前あったっけ?)


 レリオは頭を下げながら内心で首をひねった。


 ダンジョンの攻略メンバーはクエスト受付所にある石碑に殿堂入りとして名を刻まれる。


 それは街の者なら誰でも閲覧することができた。


「あはは。いいよいいよ。先に言っておけば良かったね。僕が隊長だって。ま、何はともあれこれで全員揃ったね。それじゃ説明するよ。みんな聞いてくれ」


 ロランは全員に向かって声を張り上げる。


「今回の任務は、錬金術ギルドの支援および護衛にある。みんな錬金術師達が効率良く作業できるよう協力してやってくれ。また、ダンジョン経営は休業期間中のステータス維持、向上するチャンスでもある。各々、課題を出すからそれもきっちりこなすようにね」


「「「はい」」」


 部隊の者達は班毎に分かれながらダンジョンに入って行く。


 ほとんどの者は意気揚々としていたが、新人の3人は早速隊長からの心象を悪くしてしまったことにがっくりしながらダンジョンに入って行った。


「いやー、早速、新人になめられてしまいましたね、ロランさん」


 シャクマがからかうように言った。


「ったく、あいつら後でキツく言っとかないと」


 ユフィネが言った。


「なんだろう。僕ってそんなに威厳がないかな」


 ロランは顔に手を当てながら若干落ち込んだように言った。


「あはは」


 モニカが苦笑した。


「気にすることないですよ。我々はロランさんの本当の実力を知っていますから。彼らもいずれ分かるはずです」


 シャクマがあっけらかんとした調子で言った。




 ダンジョンのボスを倒して最下層のモンスター達が退去したといっても、雑魚モンスター達はふらふらと現れては、気まぐれに人間達の活動を邪魔立てして、うかうかしていると、その所持品や命を奪い取られかねなかった。


 そのため、ダンジョン経営には冒険者達の護衛が欠かせなかった。


 冒険者達は錬金術ギルドのために、彼らをモンスターから護衛し、道路を整え、要所に柵を張り巡らし、場合によっては城壁を建設する必要があった。


「よし。それじゃあ、今日の課題を出すよ。リック、レリオ、マリナは前に出て」


 ロランの呼びかけを受けて三人は前に出る。


「リックは城壁の材料になる石を50個、建設場所まで持って行くこと。レリオはポーションを200個、倉庫まで持って行くこと。マリナは火魔法の魔石(所持しているだけで魔力を削られる)100個を倉庫まで持って行くこと。もちろん装備をしながらね」


 三人はロランから出された厳しい課題を前にして一様に緊張する。


(やはりギルドの訓練は養成所のものとは一味違うな。養成所では武具を装備しての行軍がせいぜいだったが……城壁用の石を担ぎながらの行軍とは……。相当ステータスを削られるぞ)


「何か質問はあるかい? ないね? よし、それじゃあ次だ。モニカ」


「はい!」


「君は城壁用の石を100個、建設現場まで持って行くこと。シャクマとユフィネは魔石200個をそれぞれ倉庫まで持っていくこと。もちろん装備を身につけたまま、モンスターが現れたら敵を迎撃する、新人や錬金術師達を守る。自分の班の指揮も取るんだ」


「「「はい」」」


(なっ、俺達の二倍のノルマをこなしながら、戦闘と指揮もこなすだと!? この人なんつー無茶なことを)


 リックはロランの指示に愕然とした。


 そして素直に従うモニカ達に唖然とした。


 ロランは他の部隊員にもそれぞれのステータスと目標に合わせた課題を出して行く。


「よし。全員に課題は行き渡ったね。それじゃ、任務開始だ」


 ロランの部隊は錬金術師達の支援任務を開始した。


「くっ、うおおお」


 リックは城壁用の石に結びつけた紐を引っ張りながら、どうにか部隊についていく。


 錬金術師達は冒険者達の背負っている重荷になど構いもせずに先へと歩いて行った。


 リックの隣をモニカが通り過ぎて行く。


 彼女は石二つを背負いながら軽々とした足取りで周囲を警戒したり、部隊員の行動に目を光らせながら進んでいた。


「大丈夫?」


「は、はい。どうにか」


 しかしリックはすでに道半ばで限界のようであった。


「無理しないほうがいいよ」


「いえ、なんのこれしき……」


「もう息が上がってるし。ここはモンスターも出ない場所だからひとまず休んでなよ。ホラ。その石は私が持って行くから」


 モニカはリックから城壁用の石を取り上げてしまう。


「ぐっ、すみません」


 リックはその場に崩れるように腰を下ろし、ひとまずステータスが回復するまで休憩することにした。


 モニカがリックの安全を確保して再び進んでいると、レリオがその隣を素早く通り抜けて行く。


 彼はポーションのように軽いアイテムの運搬を担当している代わりに、その運搬には速さが求められた。


(もっと急いで運ばないと。今日中に200個なんて間に合わないよ)


 レリオはあっという間に先へと進んでしまう。


(速い! 俊敏(アジリティ)50-60ってところかな……)


「彼はやがてアジリティ100まで行くよ」


「あっ、ロランさん……」


 モニカはいつの間にか隣に来ていたロランの方に振り向く。


「おそらく正統派弓使い(アーチャー)として頭角を現していくことになるだろう」


「……」


「大丈夫かい?」


 モニカは少し葛藤するような表情を浮かべたが逞しく笑って見せた。


「大丈夫ですよ。私には私の戦い方があります。たとえ正統派弓使い(アーチャー)になれなくてももう落ち込むことはありません」


「うん。よく言った。その言葉が聞きたかったんだ」


 ロランは満足したように言った。


「あっ、ゴブリンが10体ほど近づいてきています」


 モニカはホークアイで接近してくる敵を捉えた。


「迎撃してきますね」


 モニカはそう言って石に繋げていた紐を下ろすと、射撃ポジションに向かって行った。


「ふええええーん。もう歩けませぇん」


 隊列の後ろの方でマリナが弱音を吐いている。


「アンタ、まだ魔石5個も運んでないでしょーが! この後これを10往復するんだから、さっさと歩きなさいよ」


 ユフィネは杖でマリナを小突きながら無理矢理歩かせた。




 城壁やポーション、魔石の運搬を何往復かして、お昼が回った頃、モニカ達は課題を終えていた。


 一方で新人三人は6割程度の進捗状況でギブアップしていた。


「ぐっ、キツすぎる」


「もう一歩も歩けませぇん」


「……」


「やれやれ。もうへばったのか?まだ課題の6割も達成できてないぞ」


 ロランが呆れたように言った。


「すっかり体力を使い果たしてしまったようですね」


「ったく、だらしないんだから」


「あはは」


 リック達3人が力尽きている一方で、モニカ達3人は課題を終えてなお余力を残していた。

(くっ、この人ら。こっちの二倍以上働いてるって言うのに。どんだけ体力あるんだよ)


 レリオはパンパンに腫れ上がった脚をさすりながら、げんなりした表情でモニカ達を見送った。


 ロランはリックのステータスを鑑定する。


 リック


 腕力(パワー):1-50

 耐久(タフネス):1-60

 俊敏(アジリティ):1-30

 体力(スタミナ):1-50


(全ての基礎ステータスの最低値が1になっている。やれやれ。腕力(パワー)耐久(タフネス)体力(スタミナ)はともかく、俊敏(アジリティ)まで消耗してるってことは、まだまだ体の使い方がなってない証拠だな)


 ロランはレリオとマリナの二人にもステータス鑑定を使ってみた。


 二人もリックと同様あらゆるステータスが消耗していた。


(明日、回復してからまたステータスを鑑定する。彼らはまず体の使い方を覚えることからだな)


「よし。君達は今日はここまでだ。明日に備えてしっかり休養をとるように」


 ロランは3人にそれぞれ伸ばしたいステータスを増強するポーションを飲んでおくように言うとその場を後にした。


「モニカ。君達は大丈夫かい?」


「はい。まだまだ大丈夫です。あ、でも一応ステータス鑑定してもらえますか?」


「ああ、そうだね」


 ロランがモニカ達のステータスを鑑定すると確かにまだ余力があった。


「ん。大丈夫そうだね」


「私達これから自主練してくるつもりです」


「そうか。僕はこれから新人の3人を街まで連れて帰るから。君達もあまり無理しないように。ほどほどのところで切り上げるようにね」


「はい。ロランさんもお気をつけて」


(さてと次は、ジルの鍛錬か)


 ロランは街に戻って新人達を『魔法樹の守人』の宿舎に戻すと、実のところ今日一番楽しみにしていたジルの鍛錬へと向かうのであった。


 彼女とは『精霊の工廠』で待ち合わせしていた。

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